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はなとあくと!  作者: 未知 環
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はなとあくと!5


中等部の頃、付き合ってた子に言われた。


「私のこと真剣に、本当に好きなの?」


って。

当時はその意味がよくわからなくて適当な返事をしちゃった気がする。「もちろん、好き好き~」とかそんな感じ。嘘じゃなかったけど、彼女には受け入れられなかったみたい。

その事を親友に言ったら、呆れながらこう言われた。


「まよいちゃんって頭はいいのに、おバカよね」


よくわかんないよね?


皆真面目に生きてて偉いなって思う。人生なんて気楽にやればいいのに。

体裁とか、世間体とか、空気感とか。めんどくさくて仕方ないし、頭空っぽにして楽しんだら良いじゃん。


こんな事言ってるけど、実はその子に言われた事結構気にしてたり。気にしてる、というよりその意味を知りたいと思った。『真剣』になるってどういう感じなんだろう。


だから試しにやってみようと思ったんだ。人の感情を学ぶにはもってこいの舞台。

答えが見つかるまで色恋はナシにしよう。



まあ、気分次第だけどね。



◇ ◇ ◇ ◇



「「「お疲れ様でしたー!」」」

「どもども~」


紫園のコンクールが終わり、部員皆で慰労会が開かれた。


「さあさあ本日の主役、一華紫園さん。今回のコンクールはどうでしたかコン?」

「いやぁ手応えは良かったんですけどねぇ、あと一歩乗り切らなかったかなぁ」

「そうですか、前回に引き続き惜しくも金賞ということでコン」

「そうなんですよぉ。次こそは大賞取るぞ~!」

「その意気だー! コンー!」


今回紫園が出場したコンクールは、いわゆる地区大会で、結果的には東海地方で二位タイということらしい。十分すぎる結果だと思うのだが、先の話から察するに入賞常連なのだろう、満足はしていないようだ。


「今日はゆっくりしよう・・・と言いたい所だけど、なんと交流会まで2週間もないわけですね! というわけで、しーには悪いけど、早速龍馬通しでやってみようか!」

「えいえいおー!」


慰労会は10分足らずで終わり、セリフ合わせが始まった。



今回題材となる『近江屋事件』とは、江戸時代後期に起こった暗殺事件。偉人坂本龍馬、浪士中岡慎太郎、龍馬の従僕であった山田藤吉ら3名が殺害される。その実行犯は未だ分かっていない。



鹿子が手掛けた脚本では、龍馬、慎太郎らに可愛がられていた書肆、菊屋峰吉が、二人にお使いを頼まれ近江屋を出ていく場面から、2日後の中岡慎太郎逝去までが描かれる。


配役はこうだ。



坂本竜馬:鎧塚待宵

中岡慎太郎:一華紫園

菊屋峰吉、刺客1:鷹宮薺

岡本健三郎、刺客2:草壁鹿子

山田藤吉、ナレーション:天音向日葵



部員が少ないため、どうしても兼役は必要になってしまう。鹿子曰く「演じ分けって楽しいのよっ」ということだが、一役もままならない撫子には雲をつかむような話だ。どうしても足りない時は、今回のように向日葵がナレーションを担当することがあるようだ。


ナレーションによる前後関係、時代背景の説明から始まり、竜馬、慎太郎、健三郎らが酒を囲みながら雑談する場面、ここで峰吉に軍鶏を買いに行かせる。健三郎の退室後、刺客襲撃。慎太郎が竜馬を看取った後暗転、今際に独白する慎太郎を最後に幕を閉じる。



「流れ的にはいい感じじゃけぇの~」

「部長、土佐弁残っとるじゃか! 」

「ふふ、二人共残ってるわよ」


いわば朗読劇のようなものだったが、かなりの迫力があった。これに動きや表情が加わると考えるだけで、胸が躍る。


「でも、最後はほんとにこれで良いんですか?」


向日葵が問う。撫子も同じことを思っていた。



暗殺の実行犯は未だ分かっていないが、京都見廻組の仕業というのが通説であり、これに疑問を呈する歴史学者はほぼいない。しかし鹿子は慎太郎の独白にて、通説とは異なる証言をさせていた。



「ええ、これでいいのよ~。」

「鹿子先輩が言うなら・・・こういう説もあるにはありますし」

「よし! 明日からは視聴覚室借りてやるぞ~今日はこれで解散!」



うかうかしてはいられない。皆のお芝居を観て改めて思った。



解散した後、部室には待宵と鹿子が残っていた。


「ところでさ」

「なぁに?」

「なんであの結末にしたんだ?」

「あぁ」


窓の外を見つめる鹿子。昔を思い出すような、感慨に浸るような表情。

いつも笑顔の鹿子が、稀に魅せるこの鋭い表情が、待宵は気に入っていた。


「一矢報いたいから・・・かしらね?」

「なんじゃそりゃ」

「うふふ。なんてね、まよいちゃんが思ってる程深い理由はないわよ。まよいちゃん的に言えば、『その方がおもしろそー』・・・でしょ?」

「ははは、確かにね」


はぐらかされたような気がするけど、なんだか楽しそうだしまあいっか。



◇ ◇ ◇ ◇



お昼時、撫子は食堂にて1人、心臓をバクつかせていた。そう、今日は紫園に肉じゃがを振る舞う日だ。


1人待っている恥ずかしさと緊張で帰ろうかと思った時、その人は現れた。


「おまたせ~!」

「紫園先輩! ここ、こんにちは!」

「まさかホントに作ってきてくれるなんて思わなかったよ~、早速頂いても?」

「ど、どうぞ!」

「やった♪」


鼻歌交じりに包を解いていく紫園。焦げ茶色のお弁当箱が顔を見せる。蓋をあけると、肉じゃが、お米、卵焼きが入っている。


「美味しそ~! 全部食べていいの?」

「もちろんです!」

「気が利くぅ~! ・・・では、頂きます!」

「はい!」


お馴染みの言葉に合わせ両手を合わせると、肉じゃがを食べやすいサイズにまとめ、口に運んだ。


少し味わったところで、紫園の動きが止まった。鼻歌まで歌っていた紫園が無表情になったかと思えば、次の瞬間には、



涙が頬を伝っていた。


「紫園先輩!? 」

「え? あ・・・うぅううう美味しすぎて泣けてきたよぉ~」

「ええ!? そんなにですか!?」



ポケットからハンカチを取り出し涙を拭うと、口に残っているものを呑み込み、撫子に向き直った。


指摘するまで本気で泣いているかと思ったが、気の所為だったか・・・。



「めっちゃ美味しいよ! ほんとに撫子ちゃんが作ったんだよね?」

「もう! ほんとに私が作りました!」

「ごめんごめん、あまりにも美味しくて・・・ちょっと黙って食べちゃっても良い?」

「もちろんです! ゆっくり召し上がってください」 


というと紫園は言葉の通り黙々と食べ進めた。

あまりにも美味そうに食べるので、自分の食事を忘れてしまい、午後の授業中ずっとお腹がなっていたのは言うまでもない。


「ふう・・・ごちそうさまでした」

「・・・はっ・・・お粗末様でした!」


気づけば完食していた。


「卵焼きもとっても柔らかくて美味しかった・・・。毎日作って欲しいなぁ」

「ま、毎日ですか!? えっと・・・それは・・・」


(けけけ、けっこ・・・)

「冗談冗談。でもたまにでいいからまた作ってくれたら嬉しいな! お返しに何か欲しい物とかある?」

「ですよね・・・はは・・・。欲しい物・・・うーん・・・・・・」


冗談でも「あなたが欲しい」なんて言える度胸はない。


「あ・・・」

「お、なにか思いついた?」


嫌がられるかも、と思った時には既に口に出していた。


「ピアノ、弾いてるとこみたいです・・・」

「ピアノ?この間コンクール来てなかった?」

「あ、えと・・・近くで見たいな・・・なんて・・・嫌ですよね!」


待宵の話では、他の部員にも練習している所は見せたことがないらしいし、流石に断られるだろう。



「いいよ?」

「ですよね・・・・・・っていいの!?」



思わずタメ口でデッカイ声を出してしまった。


「そんなのお安い御用だよ、なら交流会終わったらでもいいかな?」

「ほんとですか! もちろん大丈夫です! ありがとうございます!」



こうして撫子のお料理初披露は大成功に終わったのだった。



◇ ◇ ◇ ◇




待宵はお気に入りのキャラクターです。

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