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はなとあくと!  作者: 未知 環
1/7

~ようこそ、百合の花園へ~


「令和五年度、一華学園新入生歓迎会にお越しいただきまして、まことにありがとうございます。今年度のオープニングセレモニーは、演劇部、合唱部、吹奏楽部の三部合同で行われるミュージカルです!」



あの日見た光景を、今でも鮮明に思い出すことができる。

スポットライトに照らされた、一輪の花の眩さを。



「ようこそ、私達の花園へ!」


その言葉を合図に、ブザーとともに鳴り出す足踏みの音。小さな音が幾重にも重なり、会場全体に響き渡る。

心臓の鼓動と合わさって、遅れてやってきたコーラスに心を預ける。


彼女の方を向くと目が合った。私だけに向けられた微笑みが、緊張の糸を優しくほぐしてくれる・・・。

開幕を報せるブザーすら心地良い。


そして物語は幕を開ける・・・。



きっと咲かせて見せる、私の光で。




「淑女の皆様、待ちに待ったその瞬間、お見せしよう」




◇ ◇ ◇ ◇




「撫子~早く起きなさーい!」

「起きてるってー!今行くー!」


昨日は張り切りすぎて全然眠れなかった。でも遅れるわけにはいかない。なんてったって・・・


「入学式遅れるわよ~」

「わかってるってー!!」


そう、今日は待ちに待った入学式!私こと花笠撫子(はながさなでしこ)の高校デビューの日だ!


バタバタバタバタ! 階段を駆け下り、リビングに飛び込む。


「おはよーお母さん、楓!」

「おはよ~。早く食べちゃいな」

「ん」


トーストにウインナー、それにスクランブルエッグ。いつもと変わらない花笠家の朝食だ。

妹の返事が適当なのもいつも通り。ちょっと前までは、「お姉ちゃんだいすき~」なんて言ってくれていたのに・・・。


「楓も今日始業式だよね!途中まで一緒にいく?」

「んや、友だちと行くから大丈夫。しかも早すぎだし」

「そっか・・・残念。」


振られてしまった。


『ごめんなさい。今日の最下位は双子座のあなた。新しい環境に馴染めず、孤立してしまうかも・・・。ラッキーアイテムは、アネモネの花!アネモネってその辺に咲いてるんですかね?わかりませんががんばってください!』


「えー! 私最下位じゃん・・・。しかもアネモネってどうやって手に入れるの~! 」

「まあまあ占いなんて気の持ちようよ。そろそろ時間でしょ? 」

「やばっ! だー! 気にしない、きにしない・・・」

「孤立してしまうかも・・・」

「楓! 」

「ふふ、行ってらっしゃい。」

「もういじわる!行ってきます!」

「はい、いってらっしゃい。気をつけてね。」


早めに出れば花屋によれたのに、と後悔しながら家を出た。学校までは電車で最寄りまで行き、そこからバスでの通学だ。少し遠いけど仕方がない。それでも通いたい理由があるのだ。




◇ ◇ ◇ ◇




満員電車に揺られ、満員バスにも揺られて1時間。毎日これをすると考えると、少し憂鬱な気分になる。

でも、今日から通うこの学園を一目見れば、そんな憂鬱一瞬で吹き飛んでしまう。



---私立一華学園。いわゆる"お嬢様学校"である。


中高一貫の女子校で、校訓は「自由と開放」。20年ほど前までは共学だったが、現理事長の一華白那に変わって間もなく女子校になったという。文武両道に秀で、タレントやアスリートなど様々な分野で活躍する人材を育成している名門校だ。


そんなところに何故庶民の私が入学できたのか、その理由は、この学園の教育システムにある。


一華学園は一年から文理で分かれており、入試も同じく文系は文系教科のみの評価で決まるため、理系はだめでも文系だけなら・・・という撫子のような人にもチャンスがあるのだ。各学年文系理系に1人ずつ特待枠が用意されており、彼女は文系の特待生として入学したのであった。---


校舎を眺めていると、話し声が聞こえてきた。



『ねえ、あの方・・・』

『なんでこんなところにいらっしゃるんでしょう・・・?』


(なんか見られてる・・・? 私? なんで・・・?)



不安で動けなくなっていた所、後ろから1人の女性が通り過ぎた。

すぐに人々の目線が私ではなく彼女に向けられていることに気づいたが、羞恥を感じることはなかった。

今しがた通り過ぎた後ろ姿に見とれてしまっていたからだ。

腰まで伸びた艶やかな黒髪。かすかな衝撃ですら折れてしまいそうな体、それでいて自身に満ちた足取り。


「いい匂いだぁ・・・」



これは撫子の癖だ。人の匂いをすぐ嗅いでしまう。

爽やかで嫌味がなく、消え入りそうなほど繊細でナチュラルな香り。思わずつぶやいてしまうほどだった。



キーンコーンキーンキーンコーン・・・



余韻に浸っていると、始業10分前のチャイムが聞こえた。足早に靴を履き替え教室に向かう。

下駄箱前に張り出されたクラス編成表をみると、撫子のクラスは1-Aのようだ。


校舎は5つの棟に分かれていて、それぞれ一年~三年の校舎、部室棟、職員棟になっている。



「えーっと、一年の教室は・・・向かって左の二階、だよね。」



迷いそうになりつつも、なんとか1-Aの教室にたどり着くことができた。できたのだが・・・。



(すでにグループが出来上がっちゃってる~!! まあそうだよね・・・中高一貫だもんね・・・私みたいなの誰?って感じだよね・・・)


今朝の占いがフラッシュバックする。

『新しい環境に馴染めず、孤立してしまうかも・・・』



(ギャー!!! ヤダヤダヤダ! せっかく頑張った結果が孤独な学園生活なんて! ・・・よし、話しかけよう。ちょうど右隣の人も誰とも話してないし、今がチャンス!)


「ねえねえ! 私、花笠撫子!あなたは?」

「・・・・・・」

「あの・・・もしよければお名前・・・」

「・・・あ、ごめん何?」

「あ、いや、なんでも・・・ない・・・です・・・」

「そう・・・」


(イヤホンしてたの気づかなかったアアアアアア!! 心が・・・うう・・・。)


泣きそうになるのを必死に堪えていると、教室のドアが開いた。


「あいみんな座ってね~出席取りますよ~。」


おそらく担任の先生であろう若い女性が入ってきて、すぐさま出欠を取り始めた。

その口調は、朱色に染まったウルフカットの髪と相反して、落ち着いた印象を受ける。


(あの髪色いいんだ、さすが自由な校風。)


「花笠撫子ー」

「はい!!」

「おっ元気だねー」

「えへへ」 


返事に対してひとりひとり感想を入れてくれている。


「矢車菊乃ー」

「はい」

「元気だしてけー」

「・・・はい。」


「全員出席・・・と。みんなちゃんと来て偉いね! 自己紹介といきたいところだけど、まずは入学式からねー。それじゃ体育館行きますよーかじゃかじゃー」


皆先生の指示に従って体育館へ向かっていく。校舎から体育館への連絡通路には、歴代理事長の写真が飾ってあった。先代理事長の写真だけすっぽり抜けているのはなぜだろう?というか・・・。


(かじゃかじゃって・・・何・・・?)



先程の先生の言葉がきになりすぎてそれどころではない撫子であった。




◇ ◇ ◇ ◇




体育館は一階と二階に分かれており、生徒は一階、保護者や学校関係者が二階に座っている。お嬢様学校というだけあって政治家や業界人など、錚々たる面々が揃っている。庶民の撫子にしてみれば、「なんか見たことある人いる・・・かも・・・。」くらいなものだが。



「はじめに、開会の言葉。生徒会長、竜胆寺真奈りんどうじまなさん、お願いします。」

「はい!」



気合の入った返事とともに、長身の生徒が舞台に上がっていく。黒髪ポンパドールで弾むようなあるき方からは、彼女の活発さがにじみ出ているようだ。



「只今より、令和四年度、一華学園入学式を開始致します!」


(かわいい・・・。)



学園のパンフレットによれば、生徒会長は理事長の推薦を受けた数名で、選挙を行って決めるらしいが、彼女が選ばれる理由が今の僅かな時間でわかったような気がした。



「ありがとうございます。続いて国歌斉唱。皆様ご起立ください。」


その場の全員がぞろぞろと立ち上がり、ある人は気だるそうに、ある人は全力で歌っている。大半が口パクなのはお約束である。


撫子は小声で歌いながら、壇上に立つ、おそらく音楽の教師であろう美しい指揮者を見つめていた。手ではなく顔だが。


目の保養になるならこの時間も悪くない。



「続いては、一華白那理事長の祝辞です。理事長、お願いします。」


壇上に上がるのは、真っ白のスーツに赤いネクタイをした女性。



「まずはみなさん、ご入学おめでとうございます。今年もこうして、前途有望な諸姉を迎えられること、実に嬉しく思います。今はまだ小さな蕾。三年という、ややもすれば一瞬で過ぎ去ってしまう限られた時間の中で、校庭の桜のように優美に、そして力強く咲いていくことを願っております。改めて、ご入学おめでとうございます。ようこそ、私達の花園へ。」



深いお辞儀をし、舞台から降りていく。経験上校長先生のお話は長いことがほとんどだが、白那理事長の祝辞は簡潔にまとまっていてありがたい。こういった式典でのお話をすべて聞いたのは初めてかもしれない。と撫子は思った。



その後、教育委員長やPTA会長の挨拶。来賓紹介や祝電披露などがあったが、撫子はほとんど何も覚えていなかった。学生に向けた挨拶と銘打ってはいるが、その実大人同士の難しいお話。ぼーっとしていたら終わっていた。決して眠っていたわけではない・・・決して。




◇ ◇ ◇ ◇




体育館から戻ると早速自己紹介タイムが始まった。まずは先生からだ。


「それじゃあ改めて。1-Aの担任を務める、島袋蛍です。ほたる先生って呼んでね~。担当は保健体育とテニス部の顧問です。こんなもんでいっか・・・。何か質問ある人ー?」


「おいくつですかー?」

「大人の女性にそういう事聞いちゃだめだよ~えっと、新井ちゃん、かな? 26です。」


(答えてくれるんだ・・・優しい。)



「ご趣味はなんでしょうか! 」

「いい質問だね、宮田ちゃん。ずばり、Kpopです! ライブに行くために毎日せっせこ働いてまーす! 今推してるのはねー、Three Timesかな~! ナミちゃんがかわいくて・・・ってこれ以上は止まらなくなっちゃうので一旦終わり! 好きな人いたらじゃんじゃん話しかけてねー。」


落ち着いた第一印象とは打って変わって早口で喋りだすほたる。かわいい一面を見ることができて、少し親近感が湧いた。



「恋人はいらっしゃいますか? 」

「いますよ~」


『キャ~!!!』



一段と盛り上がる一同。花の女子高生、恋の話題は大好物だ。


質問攻めになる空気を察したのだろう、やれやれという顔で切り上げるほたる。



「はいはい、先生の話はここまでにして皆のこと聞かせてね~。新井ちゃんからどうぞ~」


「はい、新井ケイトです。父がアメリカ人で・・・」



撫子にとってこの自己紹介の時間は第一の関門であった。この学園を目指すと決めたときから頭では理解していたことだが、いざとなると緊張のレベルはMAXである。某有名運送会社役員の娘から始まり、子役や市議の子供。社長令嬢や資産家の息女などなど。資産家が何なのかもわからない撫子にどうすればいいというのか。正直に特待で入った庶民です、というべきか。クリーニング屋の娘と見栄を張ってみるか。



そんなことを思っているうちに撫子の番がきてしまった。



「次は、はながささん・・・かな?」

「つぁいっ!」

「ぷっ・・・」


考え事をしていたせいで素っ頓狂な返事をしてしまった・・・。右隣りから吹き出した音が聞こえた気がしたけど絶対に嘘だと信じたい。



「あ、えと・・・花笠撫子です・・・。高校からこの学園に編入してきました。好きなことは料理で・・・得意なことはゴロゴロすることです・・・・・・。あっ! 逆です! すいません以上です!」


シーン・・・・・・


「あははは! かわいい言い間違えをありがとう~。料理は何が得意なの?」

「あ、えっと肉じゃがと桜えびのかき揚げとか・・・です・・・」

「渋い! けど美味しそう! 今度先生にも作ってね~」

「はい!」


ほたる先生のフォローがなければ泣いていた。むしろその優しさに涙が出てきそうだった。また横でクスクス聞こえるようなきがするけど、笑ってくれてありがたいと思うようにした。そうじゃなきゃ泣いちゃう。


(ああ・・・・・・死にたい・・・・・・。)



その後はメンタルを回復させるのに必死で話を聞く余裕などなかった。こういうときは美味しいものや美しい人のことを思い出すのが一番だ。


(そういえば今朝校門で見た人は何年生なんだろう? )




自己紹介が終わり、新入生歓迎会まで休み時間だ。この学園の新歓は自由参加らしく、帰りたい人はこれで帰ることもできるという話だった。だが実際のところ、毎年ほとんどの生徒は参加するようだ。撫子も例外ではない。


「ねえ」

「はひ!?」


隣の席の人から突然話しかけられた。真っ黒な髪と鋭い目つきが、妹の楓に少し似ている。名前は確か・・・。


「自己紹介面白かったよ」

「え!? あ、ありがとう・・・ございます・・・。矢車さん・・・でしたよね・・・?」

「そうそう、矢車菊乃。さっきは気づかなくてごめんね。話しかけられると思ってなくて、イヤホンしてたし」

「ううん! 私もイヤホンに気づかず・・・すいません・・・」

「そんなかしこまらなくてもいいのに。撫子も新歓行くんでしょ?」


(いきなり名前呼び!? )


「うん! 矢車さん・・・も行くの?」

「菊乃でいいよ。じゃあ一緒に行かない?」

「え、いきたい!! いく!!」

「はは、決まりだね」


いたずらっ子のような目つきで笑う菊乃。自己紹介で失敗して本当に良かったと、撫子は思った。



◇ ◇ ◇ ◇



「令和四年度、新入生歓迎会におこしいただきまして、まことにありがとうございます。今年度の一番手を務めるのは、昨年全国大会に出場を果たした吹奏楽部のみなさんです! ようこそ、私達の花園へ! 」



拍手の後の長い静寂・・・。



指揮者の一振りと共に響く金管楽器とシンバルの音、それを確かに支えているパーカッション。疾走感溢れる出だしから始まり、中間では哀愁漂う静かなメロディーに変わる。感傷に、思い出に浸るようなソロパートが終わると再びテンポアップ。賑やかで楽しい雰囲気のクライマックスは圧巻だった。

菊乃曰く、『エル・カミーノ・レアル』という楽曲だそうだ。


演奏終了後、撫子は感動で立ち尽くしてしまった。音楽のことはあまり知らなくても、心が動いたのは確かな事だった。



「吹奏楽部のみなさん、ありがとうございました! 続いては・・・」


その後、合唱部、お笑い研究会と発表が続いた。

どちらも興味深くはあったが、前者は吹奏楽部の後で上がりきったハードルに引っかかり、綺麗な合唱だったが印象が薄くなってしまった。後者の方は会場のウケは良かったが、撫子にはあまり刺さらなかったようだ。お金持ちと庶民のツボは別の所にあるのかもしれない。




「新歓もいよいよクライマックス! 大トリを務めるのは、演劇部の皆さんです!」




ここが恋の始まりだった。




幕が上がると、舞台端に立っている短髪でワイシャツ姿の女性にスポットが当たる。物語は彼女の語りでスタートした。



『雲の隙間に青が覗く。薫風が頬を撫で、もうすぐ夏がくることを教えてくれる。この季節になるとあなたの事を思い出す。亡霊のようにしがみついて離れない、あなたの言葉のを。』


導入が終わると、スポットライトは舞台中央の後ろを向いた女性に切り替わった。

純白のワンピースに身を包み、空色のリボンが巻かれたキャペリンをかぶっている。

どこかで見たようなきがする・・・。


長い黒髪をなびかせながら、彼女は振り向きざまにこう言った。




「なら二人で探しに行こうよ!」


 


撫子は、その美しさに息を呑んだ。元気いっぱいの笑顔の中にどこか奥ゆかしさや哀愁を感じさせる。


冒頭の女性にまたスポットが当たる。



「探しに行くって言ったって・・・どこ行くんだよ?」

「いーから行くの! 当てのない冒険へ、レッツゴ~!」

「全くもう・・・仕方ないやつだな」



『17歳の夏。僕は幼馴染のアイリに連れられて旅をした。親の離婚や、うまくいかない人間関係に嫌気が指していた僕を、彼女が励ましてくれたんだ。』




物語は、病んでいた主人公ユウが、アイリとの旅の中で成長し立ち直っていくという内容だった。

冒頭ではやさぐれいていたユウが、アイリの明るさや考え方に励まされ、終盤では笑顔をみせるようになっていった。しかし旅が終わってすぐ、彼女とは音信不通にになってしまう。親御さんに連絡したところ、引っ越したと。



もやもやしたまま季節は移ろい雪の降り始める頃、一通の手紙が届くのだった。



『ユウくんへ。元気にしていますか? 夏休みは色んなところに連れて行ってくれてありがとう! 山も海も街も、一緒に見た映画も、一緒に食べたアイスも全部大切な思い出です。旅行の後すぐ連絡できなくてごめんね。ユウくんが落ち込んでたからそれを励ますための旅って言ったけど、本当は私のためでした。私もうすぐ死んじゃうんだって。だから最後の思い出作り・・・、みたいな?(笑)

もちろんユウくんを元気にしたいって思ってたのもほんとだよ? 覚えてるかな、小さい頃いじめられっ子だった私を救ってくれたこと。君のおかげでこんなに明るくなれたんだよ? 最後に元気を分けられたのなら私は幸せです! 

もっと話していたかったけど、辛気臭いのは苦手だし何よりユウくんには元気でいてほしかったから。手紙遅れちゃってごめんなさい。元気でいてね。さよなら。 アイリより』


「なんだ・・・これ・・・」



アイリの母に電話をかけ手紙のことを伝えると、泣きながら近くの市立病院に入院しているということだった。すぐさま病院へ向かうユウ。


病室に入ると、点滴に繋がれ、痩せこけ精気のないアイリがそこにいた。



「アイリ・・・」

「ユウくん・・・あはは・・・きちゃったんだ。」


近くに駆け寄るユウ。その目には涙が浮かんでいる。


「なんで・・・なんで言ってくれなかったんだよ」

「心配かけたくなくて、ごめんね・・・?」

「ううん、気づいてあげられなくてごめん。」

「ユウくんはあの旅行・・・楽しかった?」

「もちろん! おかげでほら! こんな元気だろ!」

「笑ってるのか泣いてるのかわかんないよ、変なユウくん」

「泣いてねーよ・・・・・・そうだ、次は俺が元気づけてやるからな、なにか欲しいものとかないか? 行きたいとことか・・・俺にできることなら何でも言ってくれよ、なんでもするから・・・」

「ユウくん。」


言葉を遮るアイリ。


「どうした?」

「手、握っててほしいな。」

「お、おう、いつまでも握っててやる。」

「へへ、ありがとう・・・。」


少しの沈黙。ユウは涙を流すまいと必死に堪えている。


「神様っているのかな・・・」

「神様は・・・わからないけど、俺はここにいるよ」

「・・・あはは、ありがとうユウくん、私・・・・・・」

「・・・・・・・・・アイリ・・・? アイリ! アイリ! 」


いくら呼んでも返事はない。

なんの前触れもなく、ただ静かにそしてあっけなく、彼女は逝ってしまった。



舞台は暗転し、夏服のユウが1人立っている。


『風になびくスカートを見た時、冷たいアイスを食べる時、この季節になると思い出してしまう。アイリが最後に振り絞ろうとした言葉が何だったのか。』


「さよならじゃなきゃ、なんだったのかな・・・。」


ユウが舞台から退場した後、ワンピースを着たアイリが端に現れる。




人差し指を口元に立て、ニッコリ笑ったところで舞台の幕が降りた。




◇ ◇ ◇ ◇








初めて小説を書いています。撫子や他の皆を可愛らしく、面白おかしく描けるように尽力します。

文章的な間違いがあればおっしゃっていただけると嬉しいです。何分物書きの経験がないもので・・・探り探り書いています。よろしくお願いいたします。

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