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真夜中のハグ

ノエル様に額にキスをされてから。

花園からはもう戻っており、加えて夕食も済ませていた。

それほど時間が経っていたのだが……。


「ノエル様が私に……キスを……」


私は未だにベッドで悶えていた。

突然の出来事だったから反応できなかった。

夕食の席ではうまくノエル様と話せなかったくらいだ。


「どうしてノエル様はいきなりおでこにキスを……」


なぜノエル様がいきなり私の額にキスをしてきたのか考える。

しかしいくら考えても理由は分からなかった。


「そう言えば、お母様も私にああやってキスをしてくれましたっけ……」


ふと、母にキスをされた時のことを思い出す。

昔、母がまだ生きていた頃、母もよく私を膝の上に乗せて額にキスをしてくれた。

母のキスは守られているような、安心するような穏やかな気持ちになった。

しかしノエル様のは違った。

安心とは違う、何か別の熱が胸の内に溢れ出してくる。


「〜〜〜っ!」


私はまたノエル様のキスを思い出して悶える。

枕を力強く抱きしめる。

正直、今ノエル様と顔を合わせるのは非常に気まずい。


(ノエル様に会いたい)


しかし私の心が求めるのはノエル様と会いたい、ただそれだけだった。


「どうしよう……」


キスをされて少し気まずい気持ち、それとノエル様と会いたい気持ちを天秤にかける。

私の心はノエル様に会いたい気持ちに大きく傾いた。


「眠れない……ノエル様のところに行こう」


そして私はノエル様に会うための建前も用意して、ノエル様の部屋へと向かうのだった。





ノエル様の自室の扉をノックする。


「ノエル様。リナリアです」


すぐに扉が開かれた。


「リナリア?」


ノエル様は自室だということと寝る前だからか、シャツとズボンというラフな格好だった。

ボタンが開けられた首元から鎖骨がチラリと見えて、その色気に少しドキッとした。


「どうしたんですか、こんな夜中に」


こんな夜中に尋ねてきたにも関わらず、ノエル様は私を部屋の中へと招き入れてくれた。


「少し寝れなくて……ノエル様とお話を少ししたいなと」

「そうですか。私もリナリアとお話がしたいと思っていました」


私はこうしてたまに夜中にノエル様のお部屋を訪ねることがある。

それは真夜中の読書会の時から続いており、寝れなかったりする時やノエル様に会いたいと思った日にはこうしてお部屋に来ているのだった。

ノエル様も慣れた様子で紅茶を用意してくれる。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


私はノエル様から紅茶を受け取り、一口飲む。

そうすると緊張も少し解けてきた。


「眠れないのですか」

「はい、そうんなんです」


私はノエル様の言葉に頷いて、質問してみることにした。


「そのお昼の花園での件なのですが……」


ノエル様の肩がピクリと動いたような気がした。


「それがどうかしましたか」


ノエル様は何も無かったような、平然とした表情をしていたので、私は一瞬あの額へのキスは夢だったのではないかと思った。

しかしすぐにあれは現実であったことを思い直し、ノエル様に質問した。


「あ、あのキスはどういう意味だったのでしょう!」


思い切ってノエル様に直接聞く。

あのキスの意味が分からなくて眠れないなら、いっそのことノエル様に聞いた方が早い。


「それは、リナリアが好きだと思ったからキスをしただけです」

「そ、そうなのですか? 他にも理由は──」

「おかしいですか?」


ノエル様は開き直った顔で私にそう言った。

でも確かにキスすることにそれ以上の理由なんてないのかもしれない。


「い、いえ、おかしくはないのですが、改めて好きだと言われると照れると言いますか……」


私は落ちてきた髪を耳にかける。


「でも、安心しました」

「安心した?」

「はい、ノエル様の口からなんでキスしたのか聞けて。実はあのキスの理由が気になって、ずっと眠ることができなかったんです」

「それは……すみません」

「いっ、いえ! 嬉しかったので謝らないでください! ちょっと驚いただけですので!」


私はブンブンとてを振ってノエル様に顔を上げてもらう。

そう、大前提として私は嬉しかったのだ。

流石に多少の気恥ずかしさや、照れはあったものの、嫌だなんて気持ちは無かった。


「好きな人にキスされるのは……嬉しいです」


少し照れながらそう言った。


「……」


気づけばノエル様が目を閉じて深呼吸していた。

それは何か堪えきれない感情をどうにか制御しているようにも見えてた。


「なら、もう一度しても良いですよね」

「え?」


答える間も無かった。

ノエル様が私に近づいて、また額にキスをした。


「なっ……えっ……」


私は初めの時と同じような反応しか返すことができなかった。

赤面して、しばらくの間狼狽える。

でも、今度は二度目だからかすぐに私は冷静になった。

そして私が真っ先に言ったのはお礼だった。


「ありがとうございます……?」


そしてすぐに私はノエル様に文句を言った。


「もう、ノエル様。心の準備をさせてください! 急にそんなことをされたら心臓が破裂してしまいそうになります!」

「ははは、すみません」


ノエル様は私の様子を見て愉快そうに笑う。


「ちゃんと分かってるんですか!」


そんな感じで話している内に、私はだんだん眠たくなってきた。

いや、かなり眠たくなってきたと言ってもいい。

思考は鈍くなり、瞼は半分くらい落ちてきている。

そんな私を見てノエル様も私に部屋に帰るように促した。


「リナリア、もう部屋に戻った方が……」

「そうですね……」


私は頷く。

しかし私はまだ部屋に帰るつもりは無かった。

もう一つノエル様にお願いがあるのだ。


「その……ノエル様。お願いがあるのですが」


私はノエル様を見上げる。


「その……ハグをしてもらえませんか?」

「え?」


今度こそノエル様が完全に固まった。


「ハ、ハグ……?」

「その、お昼にノエル様に抱きしめてもらった時、『幸せだな』ってなって……もう一度ハグしてもらえたらよく眠れるかなと思って……」


ノエル様からの返事がない。


「だめ…………ですか?」


私がノエル様を見上げると、ノエル様は覚悟を決めたように息を吐き出した。


「いえ、しましょう。それでリナリアがよく眠れるというのなら」

「ありがとうございます!」


了解を得ることができたので早速私はノエル様へ両腕を伸ばしてハグの体勢をとる。

するとノエル様が遠慮がちに私にハグをしてきた。

「全く、こういうところはなぜ積極的なんですか」と言いながら。


私はノエル様を抱きしめる。

ノエル様の胸のゴツゴツとした感触が伝わってきた。

案の定、ノエル様を抱きしめた瞬間私の頭の中は幸せでいっぱいになった。

それに私よりも背が高いから、ハグされると全身を包まれているような錯覚までしてしまう。

私は十分に幸せとノエル様を堪能した後離れた。


「ありがとうございます。これ、毎晩しても良いですか?」

「え?」


毎晩ハグしたいからそう言っただけだったのだが、ノエル様は驚いた目で私を見てきた。


「駄目ですか?」

「……わかりました」

「ありがとうございます!」


ノエル様は迷っていたが、最終的に折れた。

私はノエル様にお礼を言って自室へと帰っていった。

そしてその日から就寝前にノエル様とハグをすることが習慣となったのだった。

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