新しいドレス選び
誤字報告をしてくださった方ありがとうございます!
目が覚めた。
私は目元を拭ってベッドから起き上がる。
(朝日……)
窓の外を見ると朝日が昇っていた。
「朝日!?」
私は飛び起きる。
「どどど、どうしましょう。寝坊してしまいました!」
私は慌てて屋敷の仕事に向かおうとして、部屋を見てここがもう実家ではないことを思い出した。
「そっか、もう早朝に起きる必要はないんですね……」
体に染み付いた早起きへの習慣が抜けきっていないらしかった。
もう一度寝ようかと思ったが、すでに遅刻したかもしれない、という衝撃で頭は完全に目覚めてしまっており、このまま寝転んでも寝ることは出来なそうだった。
そのため私はベッドから下り寝巻きから着替えた。
着替えが終わるとちょうど扉がノックされた。
「失礼します」
アンナが昨日と同じく朝食を乗せた台車を押して入ってきた。
「おはようございますアンナさん」
「朝食のお時間です」
アンナは素早くテーブルに朝食を並べていく。
「ありがとうございます」
私はアンナにお礼を言って朝食を食べ始めた。
朝食は紅茶とパンにスクランブルエッグだった。シンプルイズベストな朝食だ。
「申し訳ありません。準備に手間取ってしまい、紅茶が冷めてしまいました」
「はい、ちょうど喉が渇いていたので大丈夫ですよ。それにパンもスクランブルエッグも美味しいです」
「……そうですか」
紅茶は冷めていたが喉が渇いていたので丁度いい温度になっているし、パンもスクランブルエッグもかなり美味しかった。
本心からそう思って返事したのだが、アンナが私をまたじっと見つめていたので質問する。
「どうかしましたか?」
「いえ、何でもありません」
アンナは私が質問した途端ニコリと笑顔で返事をした。
「そうですか……」
アンナに少し違和感を感じつつもそのまま朝食が終了した。
そして朝食が終わって少し経った時、公爵様が部屋へやってきた。
扉がノックされ、返事をすると公爵様が部屋へと入ってきた。
「公爵様?」
「今日はあなたに服を選んでもらおうかと思いまして」
「服、ですか」
「はい、部屋着や普段用の服は一応用意しましたがサイズがあっていないでしょうし、それに社交界用のドレスも必要ですから」
「でも、私はあの赤いドレスがありますけど……」
「確かにあのドレスでも着る、という目的は達成することができますが……あなたにはもっと相応しいドレスがあります」
(あ、やっぱり似合ってなかったんですね……)
あのドレスはやはり私には似合っていなかったようだ。
「という訳で商人を呼びましたので、今日はサイズ測定とドレスを選んでください」
「で、でも私にドレスなんて勿体ない──」
「選んでください。いいですね?」
「は、はい……」
公爵様の圧に押され、私は社交界用のドレスを選ぶことになった。
(と言っても私は流行の服装なんて分からないのですけど……)
公爵様に言われた通りに商人がやって来る部屋に入り、ソファに座りながら私は頬に手を当てて困っていた。
私はおおよそファッションや流行について全く詳しくないのだ。
七年間ずっとボロボロの布しか着てこなかったので、貴族の流行のドレスや服装がどんなものなのかを知らないのだが、それを公爵様に説明はできない。
ファッションについては本で読んだ知識が少しあるくらいだ。
「今回は本で読んだ知識を使って乗り切るしかありませんね……」
「何か言いましたか?」
「あ、いえ……何でもありません」
隣に座る公爵様が私の呟きを聞いて質問してきたので、私は慌てて否定する。
そう、今回の服選びには公爵様も同席することになっていた。
「こ、公爵様」
「何でしょう」
「別に公爵様が同席なさらなくても……公爵様のお手を煩わせるわけには」
「構いません。それに有り体に言いますが、今回同席しているのはあなたが常識的な感性を持っているかどうか見極めるためです」
「あっ、はい……」
公爵様はもう隠すことなく「ドレスのセンスが悪い」と言ってきた。
私としてもあの実家から持ってきたローラの赤いドレスのことを言われたら反論することができない。
しかし、公爵様が同席するのは緊張するが、裏を返せば失敗しないように公爵様が見てくれているということで、それはそれで頼もしい気もする。
そしてしばらくすると部屋の中に商人が入ってきた。それと同時に部屋の中に大量のドレスや服が運び込まれる。
高価な服が大量に吊るされているのを見て私が面食らっているとその間に公爵様と商人の挨拶が終わり、私が服を選ぶことになった。
「奥様、我々ラムール商会は今年流行りの服を全て揃えております。どうでしょう」
そして商人は笑顔を浮かべてハンガーに吊るされたドレスを示した。
レッド、ブルー、ホワイトなど、様々な色の豪華な飾りが施されたドレスを私は見る。
(ど、どうしよう……全くどれが似合うか分からない!)
やっぱりどのドレスを選べばいいのか分からなかった。
そのため私はとりあえず記憶の中にある『服の歴史』というタイトルの本で見た、一番最近の服を選ぶことにした。
「こ、これがいいです……」
私は白色のドレスを指差す。
商人は私が指差したドレスを見て少し驚いていた。
「ほぅ、このドレスですか……」
「え?」
商人の反応が少し鈍かったので、私はおかしなドレスを選んでしまったのかと心配になり公爵様の表情を確認する。
公爵様は私の視線に気づいて、私の言いたいことを察したのか頭を横に振った。
「いえ、もっと派手なドレスを選ぶかと思いましたが、伝統的で落ち着いた雰囲気の素晴らしいドレスですね」
「そ、そうですか……」
取り敢えず大丈夫なドレスを選べたことがわかり、私は安心する。
「ではこのドレスを奥様に合わせて丈直しした後、また納品させていただきます」
どうやらそのドレスをそのまま買う訳ではなく、私のサイズに合わせて縫い直してくれるらしい。
そしてドレス選びは終わった。
公爵様はもう一着選ぶべきなのではないか、と言っていたが先ほど買ったドレスの値段を見てしまった私は、もう一着買ってくれとは口が裂けても言えなかった。
赤いドレス五着分だなんて、もう一着ねだれるはずが無い。
「お次は装飾品ですね。奥様の白金の髪にはどんな宝石も負けてしまうでしょうが、勝つことはできなくてもより引き立てることはできます。いかがでしょうか」
今度は机の上に宝石品が並べられた。
並べられた金銀、宝石は目が潰れるほどに輝き、ローラやカトリーヌのつけてる宝石なんかは比較にもならないほど綺麗だった。
値段はもちろん想像もつかないほどに高いのだろうが、公爵様を見ると眉一つすら動かしていないので、公爵様にとっては問題なく購入できるものなのだろう。
公爵と伯爵では財力に天と地ほどの差がある、ということだ。
私は宝石に向きなおり、ゴクリと唾を飲み込む。
(で、できるだけ安いもの……高価じゃないものを……)
そして一番安い装飾品を恐る恐る指差す。
「こ、これを──」
「これをお願いします」
その時、隣の公爵様が割って入ってきて、一番高価な赤い宝石が嵌められたペンダントを指差した。
「えっ?」
「おお、流石公爵様お目が高い! 私もそれが一番似合うだろうと思います!」
「こ、公爵様?」
私は公爵様に質問する。
「あなたの白金色の髪にはこの赤い宝石が一番よく似合うでしょう」
しかし公爵様はニッコリと外向けの笑顔を返して来るだけで、本心を掴むことができない。
「あ、ありがとうございます……」
結局私は公爵様の選んだペンダントを購入した。
そしてペンダントを選び終わると、今度は普段から着る用の服を選ぶこととなった。
外出用、屋敷用、就寝用を三着ずつ、合計で九着も選ぶこととなり、私はそれにも頭を悩ませることとなった。
「またのご利用をお待ちしております」
一通り必要なものを買い揃えると商人は部屋から出て行った。
かなりの服を購入したので商人はホクホクとした顔だった。
変なものを選ばないように買い物の最中ずっと気を張っていたので、商人が出て行った後私は息を吐いて気を緩める。
そして私は笑顔で公爵様に向き直るとお礼を言った。
「公爵様、ありがとうございます」
「……言っておきますが、あなたのためではありません」
「え?」
しかし公爵様から私のためではないと言われ、私は予想だにしない言葉に驚いた。
「この宝石を選んだのは私の評判に関わるからです。見ていましたか、ドレスを選んだ後の商人の顔を」
「見てませんでした……」
「私を値踏みしていました。ここで安価な装飾品を選べば私が婚約者には金をかけない器の小さな男だ、という評価を下されたことでしょう。ですからその高価なペンダントを購入したのは公爵としての品格を失わないためです」
「そう、だったんですね……」
叱られてしまったこととキッパリと私のためでは無い、と言われたことで少ししょんぼりする。
「安ければいい、なんて安直な考えは今すぐに捨てるように。いいですね」
「はい……」
私は反省する。
安いものを選ぼうと考えてばかりで、公爵様がどう見られるかなんて全く考えてなかった。
「以後気をつけます」
「ええ、気をつけてください」
「……そうですよね。本当は私にこんな綺麗な宝石が似合うわけ……」
「何を言っているんですか。確かにそのペンダントは私のために買いましたが、きちんとあなたに似合うものを選びました」
「え?」
公爵様の言葉に私は一瞬ポカンとした。
そして公爵様の言葉の意味をきちんと噛み砕いて、理解すると私の顔はすぐに熱くなった。
「あ、ありがとうございます……」
私は所詮仮初の婚約者で、いつか婚約破棄されるのが定めだ。
でも、公爵様はこの宝石を本心で私に似合うと思ってこのペンダントを選んでくれた。
誰かに贈り物を貰うのは久しぶりだった。
私にはそれが、たまらなく嬉しかった。
でも、この時私は肝心なことに気がついていなかった。
喜んでいる私を睨んでいるアンナに全く気がついていなかったのだ。




