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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第二章
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玲奈:アルとバジルと空野


 皆でワイワイと騒いでいた頃。

「もう治ったのか」

 声に振り返り、声の主に玲奈とアルが顔を輝かせた。

「バジル!」「黒! ……と」

 アルは声の主に同行している人物を見て露骨に嫌そうにする。

「空野」

 苦笑するバジルと辺りを見回す空野。ちなみに二人ともなぜか風呂敷を抱えている。

 空野がアルに話しかけた。

「どうも、お久し振りです」

 アルは無視。しかし空野は慣れているのか鼻を鳴らし、キーリに尋ねた。

「アンヌさんの部屋か、ロナンの部屋は分かりますか? 普通に麒麟塔の朱雀部屋を訪ねてもいいんですが、途中で誰何(すいか)されるのは目に見えていますから」

 彼は舌を出す。

「もうすぐ学校の教職員会議が始まりそうなので、早く帰りたいんです」

 キーリが案内のために、闘技場を抜けた。何故か、とたんにアルの機嫌が良くなった。

 バジルはそんな彼を見てあのな、と口を開く。

「何でお前は空野殿が嫌いなんだ。確かに厳しいが、好い人だぞ」

「何で善人だって分かる?」

「私に稽古をつけてくださった。糸の操り方を一緒に話したこともあるぞ」

 む、とまたアルの機嫌が急激に悪化する。何故かそれを見て、双子が忍び笑いを立てていた。

「何で、そんなことで善人だと判断するんだよ」

「それを言ったら、お前だって善人ではなくなるぞ?」

「それでもいい。あいつが善人じゃなかったらそれでいい」

 アルは、空野が大嫌いなようだ。

 バジルはしばらく悩んでいたが、やがて肩を竦めて刀を取り出した。

「堂々巡りになるのは目に見えているからな。ここは素直に体を動かすことにしよう。付き合え、ハーモニアス」

 とたん、アルの顔が輝いた。

「ったく、仕方ねえな!」

 喜んでる。確実に喜んでる。

 先ほど玲奈も数回、アルと打ち合っている。彼がとても強いと、肌で実感している。

 いつの間にか、闘技場で練習していた他の人達が壁際に移動して、中央を空けている。当然のように二人はそこに足を向け、構え合った。アルは居合い抜きで、バジルは刀を抱えるように、低く。

 動かない。風すら吹かないと、玲奈が思った。

 その、刹那。



 ぞっ、



 背筋を這い昇る恐怖。

 明らかに二人から吹き出した殺気に、向けられているわけでもないのに、体が震える。

 気が付くと、両脇に双子が立っていて、玲奈の手を握っていた。

「アル兄の本気での立ち合い。初めて見たら、誰だって怖いんだよ」「ボク達だって怖かったし。だから、ついていてあげる」

 ありがとう。呟くと、二人は笑う。

 バジルが地面を蹴ってアルに飛びかかった。アルは凄絶に笑って、剣を抜く。バジルは剣と刀を合わせ、鍔迫り合いに持ち込んだ。

 アルが身体を沈み込ませる。重心が移動して僅かに動いた切っ先を見逃さず、バジルが刀をずらす。それを見越していたかのようにアルは後ろに跳んだ。

 先程までアルが居た場所に向かって、バジルが刀を突き出している。

 アルはバジルが刀を引く隙さえ与えず飛びかかり、彼女が咄嗟にやった構えに笑うと、

「せいっ」

 足払いをかけてバジルを転倒させ、剣を突き出した。

「俺の勝ち」

「……負けた! くそ、前は勝ったのに」

 バジルが悔しそうに口を尖らせて宣言したのを見て、アルが剣を引く。

「でもその前は俺が勝ったよな」

 二人に、闘技場の観客全員が拍手で応える。バジルは肩を竦め、アルに渋い顔を向けて言い放った。

「次は勝つからな」

「楽しみにしてるぜ。それで」

 アルがバジルに抱き着く。

「わっ!?」

「今度は何をくれんのかな? 黒狼さんよ」

 バジルが怒ったように顔を膨らませる。

 恋仲か、と玲奈が邪推していたが、あっさり双子が否定した。

「アル兄の片思いだよ」「あーやってアピールしてるんだけどさ、ほら」

 彼女はアルに綺麗な甲羅を押し付けて、また風呂敷を抱え上げてどこかに行ってしまった。

「「見事に空回り」」

 がっくりと肩を落としている。

「確か、一目惚れしたんじゃなかったっけ?」「そうそう。でも、アル兄の恋は良いよね、微笑ましくて爆笑したくなってくる」

「てめえら!!」

 アルが噛みつくように叫んで、堪えきれず双子は爆笑を始めた。


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