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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第二章
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ギン:対話と交渉


 腹をくくった五十嵐が剣を持つ。

 彼の雰囲気が変わるのを肌で感じながら、ギンは僅かに息をついた。

 不思議な男に会った。五十嵐は迷っていて、自分も迷っている。真っ直ぐなのはトーラぐらいだ。

 自分のように迷っているこの男が、ギンには目障りだ。しかしそれは、彼があまりにも自分と似ているからだ、と理由は気付いている。

 たとえば、惨殺。

 それに、何かから逃げていることも一緒だ。だから自分は、五十嵐を叱咤してしまう。彼を通して、自分自身も叱咤するように。

 腹を決めろ、と、表情の欠落した五十嵐を見つめる。

 首都に舞い戻ってしまえば、自分は今までの気楽な立ち位置を維持できなくなると、知っている。だが、もしトーラが正式にこの国に来ていた外人だったなら、登録のため確実に首都に顔を出している筈なのだ。

 だから、必ず自分はあの土地に戻らざるを得ない。

 忌々しいことに。


 五十嵐の中にいる誰かが、口を開いた。

「お前か、俺に会いたいというのは」

「おう。とりあえず、ナイフ降ろすから攻撃すんなよ」

 トーラがはらはらした顔で見ている。

「分かった」

 潔く、誰かは剣を持ったまま地面に座った。剣を叩き落とすと彼は中に引っ込むのだという。

 誰かはじっと、同じように座るギンを見つめた。

「何の用だ?」

「ユーイチと手前(てめえ)について、いくつか質問がある」

「知っている事なら答えよう」

 今のところ、彼は好意的だ。しかしその感情が反対に傾いたとき、誰かはどう動くのだろうか。

「……オレはギン」

「偽名のようだが?」

 さっそく切り込まれた。トーラがええっとこちらを見ている。

「…………本名は何かと危ないんだよ。コトダマっての? あれもかなりキツいし」

「そうなのか」

 子供のように首を傾げた誰かは、不安そうに目を伏せた。

「俺には名前が無い。この身体に縫い止められる前の記憶は、はっきりしない」

「じゃあ、どう呼んだらいいよ?」

「何でも」

 あっさりそう言われると、とても困る。

「とりあえず、あんたで」

「分かった」

 素直に頷いた誰かは、それで、と話題を振る。

「何が聞きたい?」

「お前が『出る』条件について。できるだけ詳しく」

 ふん、と頷いた彼は目をつぶった。

「条件については、一律で宿主が恐怖に陥ったときに限る。その恐怖が剣から来るせいだろうな、三度出たが、三度とも剣を持っていた」

「そんときの話、もっと詳しく!」

「詳しく……そうだな。三度とも、周りに武器を持つ奴が居て、どれが敵でどれが味方か分からずに全員殺そうとした」

「恐怖ってのは?」

「何かまでは分からん。だが『死』には関係するだろうな」

「はっきりしねーな……」

 苛立たしさに頭をかくと、トーラが隣に座って会話に入ってきた。

「お前が出ているとき、ユーイチはどうしてんだ?」

「一度目、二度目は記憶が飛んでいたが、三度目は暗闇で不安がっていた」

「暗闇?」

「俺がいつも居る場所だ」

 そう言ってから、誰かは不審げにギンを見つめる。

「そういえばお前、三度目に戦ったな。敵か?」

「ちげーよバカ」

 う、と口を尖らせたのを見て、思わず溜め息をついた。

「つまり、お前とユーイチは入れ換わってたってのか。その入れ換わりにお前の意思は関係すんのか?」

「俺が望んで入れ換わっているのか、と聞かれているのであれば、答えは否だ。いつも強制的に引っ張り出される」

「つまりは、ユーイチの心的な要因によって、あんたはあんた自身の意思に関係なく引っ張り出されているようなもんか?」

 トーラの確認に誰かは頷く。

 が、てっきりこの誰かが入れ替わりを操作していたと思っていたギンは、目をつむり少し考え込みを始めた。

「……じゃあ、そのユーイチの恐怖の原因……トラウマ? みてーなもんを解消したら良いんじゃねーの?」

「待て」

 さっそく誰かの停止が聞こえる。

「ギン、お前の言う『良い』とは、この場合、俺が出てこなくなることを言っているのか?」

「そうだぜ」

「それは困る」

 は?

 誰かはつっかえつっかえ、無表情で話し出した。恥ずかしがっているように見える。

「その、だな。俺だって宿主の中にいると、暇だ。その俺が唯一外に出られるのは宿主が入れ替わりを敢行した時だけだ。数少ない俺の楽しみをお前達は無くしてしまうのか?」

 恥ずかしがることではない。が、これほど厄介なことはない。

「あー……。あんたが、敵味方の区別をつけてくれたら、ユーイチのトラウマ以前に何とかなるんだけどな」

「もしくは、ユーイチが常時にお前との入れ替わりが出来るようになったらいいんじゃねーのか? それで、剣を持っちまったときに、お前が出て来ねーように制御する。そうすりゃあんたは店を見物したりもできるし、ユーイチもあんたで人殺しをしなくていい」

 トーラの言葉の何かが、脳裏に引っ掛かった。しかしこれ以上は出て来ない。

 誰かを見ると、彼は無表情で、しかし目は輝かせてトーラを見ていた。

「できるのか?」

「ユーイチ次第だな」

 む、と誰かは頭を押さえて考え込む。だが直ぐにそれを止めて、真っ直ぐギンとトーラを見つめた。

「その辺りは頼んだ」

「お、おう」

「ということで、周りに敵がいないうちに、この村か町の観光がしたい」

「観光かよ!」

 トーラが突っ込みながら立ち上がって、誰かに手を差し伸べた。誰かは手を握って、

「……お前、女か?」

「まさかとは思うが、オレのこと、男だと思ってたってのか?」

「一人称に騙された」

 トーラとさっそく打ち解けたらしい。二人はギンを置いて行ってしまった。

「あ、待てコラ!」

 ギンは慌ててあとを追いかけて行った。



お久しぶりです。

やっと学園祭が終わって一息つけました・・

こまめに更新していきます。

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