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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第二章
90/117

享:代金



 こん、と、竹が傾き。

 ぴちゃん、と、水音があたりに響く。

 アンヌと享の二人は縁側に座って、竹を眺めながらお茶を頂いていた。

 女性はふふ、と二人を嬉しそうに見る。

「本当に二人とも、大きくなったわね」

「師匠だけですよ、そんなこと言うのは」

 享もおちゃらけた言葉を使う気にはならない。

「本当よ。私はもうお祖母ちゃんだわ」

 黒髪を太股まで伸ばした彼女は、年齢の分からない笑みを二人に向ける。髪は無造作に縁側の廊下に流れ、曲線を作っていた。

「アンヌ」

 はい、と彼女は姿勢を正す。女性は変わらない笑みのまま、アンヌに語りかけた。

「あなたの願いは分かっています」

「では……」

「代金が要るわ」

「何でも払います」

「そう」

 言葉を切る。女性はすっと立ち上がり、着物のまま、紅葉に触れた。

「では、私と戦いなさい。勝って、私からこの店を()りなさい」

 アンヌが目を見開いた。

「そんな……無理です!」

「やらなければ、何も始まらず、何も終わらない。楊志と呼ばれる青年の生まれ経ちも、彼の『力』も分からないままよ」

「ですが、私では師匠に勝つことなど」

「あなたとはもう随分と戦っていないわ。いつ追い越されていても気付かない」

 アンヌは女性の眼光に射抜かれて動けない。享は二人を眺めていたが、ややあって訪問者が来たことに気付いた。

「もうやってんのか」

 眉目秀麗(びもくしゅうれい)、という言葉が似合う男。黒い髪を無造作に伸ばし、三つ編みにして背中に流す。肩に背負う大剣に鞘はない。口元に笑みはあるが目は笑っておらず、瞳は全てを蔑むように見下している。江戸時代の大道芸人か、と思うようほど奇妙な色彩と形の服を着ている。青い波線に、赤い火花が散っている柄だ。

 男は享の隣に腰を下ろした。

「……何で来たんだ」

「ぎゃはは、こんなおもしれーこと、見逃すわけにゃーいかねーだろ」

 大剣を地面に突き刺し、彼は不気味な笑い声を立てる。

「上手く行きゃー、いや……かなりの確率で、この店の代替わりが見れる」

 どこで知ったのか。しかもその対価を自分たちが女性から示されたのはついさっきだ。

「野次馬め」

「いや、一応関係あんだろ?」

 主にアンヌに。

 知っていながら突っかかっていた享も、諦めてアンヌ達を見るしか無い。実際そうだ、さらにそれを持ち出されては何も言えなくなる。改めて二人を見て、そういえばと男を見た。

「見事に無視されている」

「寧ろ気付いてねーな」

 男はついと腕をあげ、細い指で女二人のそばを広く四角に囲う。

「先生がこう、結界を張っていやがる」

「また、なぜ」

「そりゃあ、やるからじゃねーの?」

 男はまた、嘲笑(わら)った。

「屋敷が壊れるよーな、派手な戦い」



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