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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第一章
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襲撃

 彼を昇天させた玲奈はさて、と立ち上がり辺りを見回す。ついでに白目を向く五十嵐を蹴り上げる。

「目ェ覚ませ。囲まれとるで」

「――気付いている。お前が告白云々の話をしたあたりからだ」

 そう言って頭を振る五十嵐も立ち上がり、玲奈に手を差し出した。

 何を求められているのか分からない玲奈はとりあえず、とその上に手を乗せてみる。

「おい!」

「だって何してほしいんか分からんし!」

 五十嵐はむっとした顔で、玲奈が担ぐ袋を指差した。

「槍。置いてきた。お前、短刀持っていただろう。貸せ」

「あーなるほど」

 納得した玲奈は短刀を彼に放り投げ、自身は剣を取り出す。

 ちなみにこの剣は、戦で使っていた刀とはまた別ものだ。

 そしてこの剣は、曰く付きでもある。

 玲奈は目を細め、集中し気を高めていく。

 不意に彼女はカッと目を見開き、剣を抜いた。抜いた剣の刀身が五倍、六倍に巨大化する。

 いつものことながら、玲奈はこの魔剣の名を呟かずにはいられなかった。

「魔剣、伏龍封雛(ふくりゅうほうすう)

 五十嵐は相も変わらない魔剣の気に眉を潜める。

「相変わらず、禍々(まがまが)しい気だな」

「それがコイツのエエところやろ?」

 からりと笑った玲奈は、剣を草むらに向かって一振りした。暴風が起き、森の木が横に(かし)ぐ。


 昔、ある男がいた。男はふらりと村に現れ、大剣(たいけん)を振り回し辺りを血の色に染めた。その男は村の者を全員殺した後、通りすがりの刀鍛冶に取り押さえられ、罪人として処刑された。

 それから大剣は幾度(いくど)となく様々な持ち主の手に渡ったが、どの持ち主も触った瞬間に気が狂い、人間を殺し出す始末である。

 その中、唯一魔剣の(さわ)りに取り憑かれなかったのが鈴無一族の当主、玲奈の父親であった。そして彼が気は狂わなかったものの抜く気がなく武器庫に放り込んでおいたところ、たまたまそれを発見して手にとり、何故か同じように狂わなかったのが玲奈なのである。


 それから玲奈は何が気に入ったのか、よくこの魔剣を持ち歩いている。

 本人曰く、魔剣は巨大だが重さは普通の剣や刀と大して変わらないという。

 そして、なぜ魔剣を戦で使わないのかというと、振る度に生まれる暴風に味方が巻き込まれない自信が無いからであった。

 そして今、周りに五十嵐以外の味方がおらず、またその五十嵐は背中合わせで反対を向いているので暴風に巻き込まれる不安がない。暴れ放題なのである。

 よって、玲奈はにっと笑い、魔剣を大きく振り上げた。そのまま、草むらから飛び出してきた何かを切り払った。五十嵐も抜刀し、襲いかかったそれを切り捨て、草むらに飛び込む。

 そこにいたものを全て切り捨てた後で、それらが何なのかはっきりと確認した五十嵐は、息をのんだ。

「優一?」

 歩み寄ってきた玲奈もそれらを見て、顔を歪める。

「何や、これは!?」

 二人に襲いかかってきたのは、大量の手だった。逃げたのだろうか、肘から上が見つからない。

 気味の悪さに玲奈が口を開く。

 しかし声を出す前に、武士団の方で何か騒ぎが起きたらしい。

 二人は飛ぶように、本陣に戻った。


 本陣に戻った二人は、意外な人物の怪我に目を剥いた。

「副団長!?」

「どうして!?」

 血まみれの腕を押さえ荒い息を吐く彼は、一瞬息を止めてから鋭く指示を飛ばした。

急襲(きゅうしゅう)に備えて守りにつけ!」

 その言葉に二人は何が起きたのかを理解した。

「敵襲ですか」

「そうだ。それから陛下に会わせろ……ちくしょう!」

 叫んだ浮草はゆらりと立ち上がり、駆けつけた国王に膝をつく。

「不覚でした」

「向こうの者か?」

「いえ。見たことのない風体でした。第三勢力かもしれません。それより」

 苦しそうに言葉を継ぐ彼は、背筋が凍るようなことを言い放った。

「団長が、オレを逃がそうとして、まだ奴らと戦っています」

 玲奈が息をのんだ。五十嵐は踵を返した。

「どこですか」

「向こうの木立(こだち)をまっすぐ突っ切ったところだ」

 二人は駆ける。

 しかし、二人がついたときには、肝心の団長は影も形もなかった。

 生々しい、鉄と肉が焼けた臭いが辺りに充満している。原型を止めていない、焦げた死体が、いくつも転がっている。誰が流したのか分からない、大量の血も。

「団長!」

「返事してください!」

 走り回り、叫ぶが、やはり応えはない。

「くそ……」

「優一」

 苦々しく呟いた五十嵐は、隣の玲奈の手招きに気付いた。

「見てみ。何やこれ」

「……なに?」

 それは、一種の穴のようだった。ただ、穴は円形ではなく、何か別の形をしていたのである。みっつの突起がそれぞれ突き出ているそれは、まるで、何かのひづめのような。

 しかし、二人にそれを考える時間は無かった。


 ふいに、地面が揺れた。

 二人は膝をつき、衝撃を和らげようとするが、いっこうに和らぐ気配はない。

「地震、やな」

「それも大規模の。……丹洪にいて、地震など生まれて初めてだ」

「あたしも。地震なんて知識として習っただけやから」

 玲奈は答え、ただ、と声を潜めた。

「こういう国境は、戦死者の(うら)みか何か分からんけど天災が起こりやすいってよく言われるんやで」

「ロールエの祟り?」

「……多分違うと思うけど。それに怨みは、王都にいはる巫女さんらがおさめてくれる。そう親父殿から習った。まぁそれでも収まらん災害もあるんやけど、それは関係無いし置いといて」

 玲奈はまた剣をかざす。

「これは八割方、あの手が関係してると思うんやな」

 五十嵐はあの手、と言われて一拍間を置いたが思い出した。

「俺達を襲ったあれか」

「そう。……妖怪の一種なんやろうけど、あんなもん図鑑でも見たことがない」

「ヨーカイ?」

 首を傾げた五十嵐に玲奈は一言、化け物だと言う。そしてぶるりと首を振った。

「とりあえず、陛下のとこ戻ろう。心配や」

「ああ」

 天幕に向かい、団長がいなかったことを国王に報告すると、彼は眉を潜めて頷き、包帯を巻き付けた浮草に向き直る。

「休めてやる余裕はなくなった。団長代行として、久野武士団を指揮しろ。とりあえず、武士団は数人を残して王都に凱旋(がいせん)する」

「はっ」

 彼が膝をつき、天幕から出ていく。

 国王は額を押さえ、二人を見やった。

「お前たちを至急、副団長代行に任命する。今浮草を失えば、武士団が瓦解しかねん。全力で奴を守れ。ただし、浮草を信用し過ぎるな」

「御意。……陛下」

 暗に、副団長に警戒しろと言われている気がして、無礼ながらも二人は膝を折った体制のまま国王を見つめた。王は、表情を消してこっそりと囁く。

「俺には、あれが怪我を負って逃げ出したとは思えん。もし負ったとすればそれは、味方の裏切りぐらいの油断が必要になる」

 浮草が団長を裏切ったのではないか。そう王は疑っていた。

 まさか、と五十嵐が声を荒げる前に、玲奈が立ち上がる。

「心に留めておきます」

「そのくらいが良い」

「五十嵐、行くで」

 二人は天幕を出て、ざわつく武士団軍の元に駆ける。浮草と合流する。

 まだ静まらないのをみて、玲奈がガシガシと頭をかいて悪態をついた。

「こういうん、嫌なんやけどなあ……」

「オレが言おうか?」

「いえ、副団長、ケガで息するのでさえ苦しいでしょう? 優一は大勢の人の視線にさらされたら動かんようなるからなあ……結局あたしだけになるんやし」

「悪かったな」

 五十嵐が渋い顔になるのを眺めて、それから。


「黙れ」

 玲奈が静かにそう言うと、武士団はもちろん、国王軍やら近衛軍やらも静まり返った。自然に、玲奈、五十嵐、浮草の周りにいた人が退く。

 玲奈は一歩前に出て、皆に聞こえるようによく響く声ではっきりと言い放った。

「先ほど襲撃があり、須王団長が怪我からだろう、失踪している。副団長も怪我を負われた。しかし凱旋予定は決まっている。よって国王陛下は浮草副団長を団長代行とし、怪我の副団長が戦場に残らないよう、私と五十嵐を副団長代行に任命した。異議のある者は!」

 静まったまま、誰も動かない。

 この場はもう、玲奈の独壇場(どくだんじょう)になっていた。彼女がでは、と手を水平にあげる。

「偶数隊と五隊、七隊は副団長と共に王都に凱旋、残りの一隊と三隊は私と五十嵐と共にここで団長を探す。それでは、開始!」

 全員が動き出した。



気がついたらもうすぐPV1000だったらしく。かなり仰天しました。

見て下さっている皆さん、いつもありがとうございます。


0:00に投稿してみたい!とか無茶な夢を掲げて今回実現に移そうとしたのですが、気がついたらこんな時間です。時間ってェのは酷ですね…


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