緑香:キナ臭い
緑香は名前の分からない淡い浴衣の人から浴衣を借りて着ていた。元々の服は洗って干してある。
そして現在、唯に連れ回されて「故郷」の様々な者に会っている。
誰一人として名前を名乗らないのが、とても不思議だが。神無くらいだ、名前を聞いたのは。
「……唯さん」
「どうした?」
「どうして皆さん、名無しなんですか?」
聞くと、彼は困った顔になった。
「……その、だな」
花畑に着き、腰を下ろす。
「単刀直入に言うと、この故郷にいる全員が人間の言う『神様』だからだ」
この際神様云々には突っ込まない。
「神様でも、名前ありますよね? 唯さんもほら、須王って名前が」
うー、とまた困ったように唸る。
「須王は、人間のなかに溶け込みたくて、人間の部下につけてもらった名前だ。なんにせよ、元々持つ『名前』は無い」
「じゃあ、始神は?」
「あれは名前では無い。俺達を識別するために人間が付けた区別記号だ」
元々必要無いからな。
そう前置きした唯は、それに、と続ける。
「緑香殿が言うように、名前には言霊が宿る。よって、神で在ろうとも名前の言霊に縛られる。たいていの神はそれを嫌ってか、名前をつけようとはしない」
「じゃあ……えーと……どうしてアンヌさんは名前を付けたんでしょうか?」
緑香が聞くと、彼は不思議そうに彼女を見て、首を傾げた。
「あの女は、生粋の神ではないぞ?」
「そうなんですか?」
「血筋としては入っているが、薄まっている。それにあいつの炎と風は、生まれつき持っていた訳ではない」
初耳だ。ほーと緑香が聞き入っていると、唯はさらに教えてくれた。
「あいつの生まれつき持った力は、人間の言う『錬金術』だ」
「錬金術? あの、物体を作るっていう?」
「そう、あれだ。あいつの力は、その材料と量さえその場に揃っていれば何でも錬成……作り出せる。鉄クズがあれば鉄パイプや銃に、泥や土があれば固めて土壁に」
テレビアニメで見たことはあったが、本当に実在するとは思わなかった。
「錬成陣とかは要るんでしょうか?」
「要る国もあるが、あの女が描いているところなど、見たことが無いな」
それに、と唯は腹立たしげに呟く。
「あいつの錬金術はキナ臭い」
「……と、言うと?」
「時々、錬成する前の量と錬成した後の量が合っていない時がある。たいていは量が増えている。本来ならあり得ないんだが……」




