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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第二章
88/117

五十嵐:暗闇


 五十嵐は暗闇にいた。宙に浮かんでいた。

「ギン? トーラ?」

 返事は来ない。

 あのとき言霊に縛られて剣を握ってしまい、それからずっとこの闇に浮いている。感覚もない。底も見えない、辺りも分からない謎の虚無だ。

 そのとき、ふいに五十嵐の脇腹に激痛が走った。

「っ!?」

 さらに肩、腕、背中へと痛みは次々に襲ってくる。

「があっ!?」

 そして最後に鳩尾に鋭い一撃が加わり、五十嵐はしばらく悶絶(もんぜつ)したのち、ふっと闇が揺らいでいることに気付いた。

 不意に、少年が闇から現れる。

 血のように紅い髪。闇を切り取ったように黒い目。背丈は五十嵐の半分も無い。

「誰だ?」

 五十嵐が呼び掛けて初めて、少年は彼をはっきりと知覚した。

「お前が、宿主(やどぬし)か」

「宿主?」

 少年は浮いている五十嵐に対して、楽々と闇を歩く。

「気が付けば、お前のなかにいた」

「どういう意味だ?」

「分からない。だが、お前が怖くなったとき、俺はお前の身体を借りて外に出ている」

 俺が、怖くなったとき?

「お前自身が剣を持っている上に、周りの人間は皆各々が武器を持っているからな、自己防衛のために戦うしかなくなる」

「待て」

 五十嵐は少年に手を伸ばした。少年はその手を掴み、物珍しそうに眺めた。

「俺が、剣を持っている、だと?」

「いつもそうだ」

 じ、と少年は自分の手を眺める。

 五十嵐は見た。

 少年の手が、ただの平べったい面でしかなかったのに、徐々に五十嵐と同じ形になっていくのを。

「……!!」

 今更ながら、ぞっとした。

 この少年は、何だ?

「お前は……」

「いきなり金色の光を浴びて、お前の身体に縫い止められた。お前が死ぬまで解放されない。昔はもっと……なんというか、ふよふよと辺りをさ迷っていた気がする」

「人間じゃないのか?」

「違う」

「じゃあ、何だ?」

 初めて、少年が表情を動かした。

「分からない」

 何にせよ、この少年がバジルの言っていた「狂乱状態」に五十嵐の身体を使っていたのだと思われる。

 そう気付いたとたん、五十嵐の全身に激痛が走った。

「帰る時間だ」

 少年は無表情にそう言う。

「お前、名前は?」

「無い」

 五十嵐は激痛を堪えながら、どこかに引っ張られるのを押さえながら聞いた。

「俺は五十嵐優一。いつもはどこにいる?」

「ここに」

「どうやれば、ここに来れる?」

「剣を持て」

 そのとき、思い切り肩を掴まれて引き寄せられる感覚に、


「うあっ!?」

 五十嵐はベッドから飛び起きた。

「ユーイチ!」

 トーラがほっとしたような顔で笑う。

「やっとお目覚めか」

 声の方を向くと、頬に絆創膏を貼ったギンが苦笑していた。

「俺、今……」

「とりあえず熱はねーな?」

 ぺたぺたと額を触られる。

 ギンの真剣な目と、会った。

「じゃ、早速で悪いが何があったのか話して貰おうか。オレから話した方がいいか?」

 五十嵐は息を吸った。

「……俺から話す。全てだ」


遅くなってすみません。

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