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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第二章
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ギン:忌まわしい、されど大切な記憶


 スラム街の地面に座り、曇天を見上げる。空はあの日から変わらず、一度も日の光を溢さない。

 ぼろ布を身に纏い、寒さに凍える。側で同じくらいの年齢の子供達が餓死者に群がり、衣服や食料を取り合っている。(かび)が生えていても構わない。

 自分だってその一人だ。薄汚れた布は父から奪ったもの。母からは靴を奪った。

 何者だったかなど、今の自分には関係無い。今の自分に関係があるのは、時折来る黒服の男達に連れていかれないよう、物陰に潜むことだけだ。

 ……知っている。男達が連れていった子供は、二度と町に姿を現さない。食われたと言う人も居れば、生活保護を受けていると言う人も居る。

 自分は、男達に連れて行かれるなんてまっぴらだ。

 そう思って、男の一人に捕まりかけて、逃げ出した。

 逃げ出した先で、彼に会った。

「おや」

 彼は笑って、俺を受け入れてくれた。

「名前が無いのかい? ならばそうだね……今から君の名前はギン。ギン・クラウンだ」



「ギン?」

 トーラの呼び掛けで、我に返った。

「……悪い」

「何を謝ってんだよ?」

 トーラが首を傾げて、店主を見る。店主は紙を寄越した。

「貴方が考え事をしている間に調べましたが、そこに値段が記されています」

 牙の値段は、高価だった。

「あの獣……グガと言いましたか。あれは牙で戦います。ですから戦闘で冒険者は皆真っ先に牙を折るのです」

 だから高価だと。

 しかし自分の一ヶ月分の給料より高いってどうだ。ちくしょう。

 先に紙を見ていた五十嵐が尋ねてくる。

「俺はこれでもいいが……どうだ、もう少しならぼったくれるぞ?」

「ぼったくるってお前な……」

 改めて紙に記載された金額を見る。

 ……これなら一ヶ月は遊んで暮らせる値段じゃね?

「むしろこれ以上要らねーよ。支払いは小切手か?」

「ああ、小分けにしてもらう」

 五十嵐は相変わらず落ち着き払ったままだ。よほど慣れているらしい。

 彼の決定に店主は奥に消え、トーラが緊張を解いて床に座った。

「ユーイチすげー……」

「そうか?」

「これ、戦闘集団で学んだだろ? 何度もやってるみたいだった」

「まあな」

 五十嵐が舌を出す。

「上司の一人が『国からの支給? 何それウマイの?』って言う人でな」

「じゃあ国からの援助無しで、ずっとこの方法で?」

「ああ。あと、他の国の大会に出て賞金を貰ったり」

 五十嵐すげえ。

「……オレが必死こいて集めた金、意味無かったな……」

「ははは」

 少し笑った彼は立ち上がり、店の洗面所に消える。

「少し、行ってくる」

 五十嵐を見て、トーラは首を傾げた。

「ユーイチ、泣きそうだったな?」

「泣くだろ」

 仲間は死んだ。そう、平然とは言うが内心穏やかではない。

 昨夜、彼の左目から一筋だけ涙が流れたのを見て、少しだけ五十嵐の背負っているものが分かった気がした。

 談話をしていた今も、彼は焦っていたのかも知れない。

 もしこの間に、祖国で知り合いが死んでいたら。

 ギンにもその気持ちは分かる。だからこそ、それと真っ正面から向き合うことのできる彼が羨ましい。

 自分は逃げているだけなのだから。



蝶佐崎です。

このたびは自分の小説を読んでいただき、ありがとうございます。

いつの間にかお気に入り登録の方が増えておられて……ありがとうございます。(スライディング土下座)


これからも精進いたします、気楽にお読みくださいませ。


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