表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第二章
73/117

アル:待機


 アルの目の前で、アンヌは享に笑みを浮かべた。

「享。一回でいいから、本気で殴らせて?」

「イヤほんとマジで済みません」

「何か言った?」

 享が土下座の態勢に入る。だがアンヌはにこにこと邪気をふんだんに使う笑顔で彼の胸ぐらを掴んだ。

 享に書類を届けに来たアルは白い目で見ている。

「まさか許して、は無いわよね? ああ良かった、組織から出ようとして貴方に邪魔されたのだもの、すっごく苛々しているのよ。そのような事を言われていたら、拳、一回では済まなかったのかもしれないわ」

 彼の顔が僅かに青い。

「安心しなさい、顔の形が変わるぐらいにまで力を抑えるから」

「それは押さえてんのか?」

 思わず突っ込みを入れてしまった。

「ええ、とても」

「アンヌが本気で殴ったら世界ごと吹き飛びますから。それを考えれば、とても抑えてくれているのでしょうが……」

 殴られたくない。彼の目は雄弁に語っている。だがアルに助けるような技能は無い。のでさっさととんずらさせてもらう。

「組織にまで被害が及ばないようにしてくださいねー」

「薄情もの!」

 仕事が嫌でぶらぶらと歩いていると、ふと窓から病室が見えた。何となく玲奈のもとに向かう。が、玲奈は熟睡していた。

「……失礼しました」

 女が大の字。何かが悲しい。


 またぶらぶらと歩く。誰を訪ねようと考えを巡らせるが、たいていの知り合いは丹洪で戦闘、もしくは別の世界で異界と戦っている。アルも外に出たいのだが、彼自身の体調が悪いせいで、彼が纏める隊は外出を禁じられていた。

 そう思ったと同時に、始まる。

「あー、ちくしょう。来た」

 右肩の付け根が熱くなっていく。炎で焼かれているのかと思うほどの激痛だが、アルは顔色ひとつ変えずに部屋に向かう道を歩く。

 アルのこれは、一種の呪いだ。周期的に来て、気が付けば去っている。しかし、戦いに出られないのはもどかしい。

 事務室に戻ると、キーリがまじまじと見てきた。

「何だよ」

「……生涯で一番恥ずかしかったことは?」

「カノジョに服を脱がされかけた事だ、てめえ俺が自分で戻って来たから偽物だと思っただろ」

「あ、自覚はあるんですか」

 切り捨てられて少しへこむ。

「お前は一体俺をどう思って……」

「戦場でしか頼りにならない兄貴ですが何か?」

「誉めてんのか貶されてんのか分かんねえ……」

「キーリさんのどこに誉めるような単語が入ってましたかー?」

 事務室で作業していたアルの部下が笑いながらばっさりと切り捨てる。

 部下は報告書に目を通し、ふと呟いた。

「と、そういえば例のお二人、怪我も完治して隊を仕切っているそうですよ」

「あいつらも回復早ぇ……しかも同じ日に退院かよ、流石としか言い様が無えな」

「分かってると思いますけど、それを二人の前で言ったら、いくらアル大尉でもブッ殺されますよ」

「知ってる」

 舌を出したアルは席に座り、キーリから飛んできた大量の書類を受け止めた。

「とりあえず、あなたが最低限やる必要があるのはこれだけです。それを優先して片付けるように。僕たちもそれなりにやってますから」

「へーい」

 アルがぶらついている間に、彼の机に乗っていた仕事が減っている。比例して、部下の机に仕事が積まれている。特に、キーリの机に。

 申し訳ないと思うが、それを素直に言葉に出してもはぐらかされるのが落ちだ。

 内心感謝しつつ、アルは仕事にとりかかった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ