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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第二章
72/117

神無:神について


 草原にて、神無は荷物を投げた。

「やってられるか!」

「そーんなんじゃ、ぼぉくの従者なんか、つーとまらないよ?」

 遥か先からのんびりとした、ひょうきんな声が返ってくる。余計に腹が立ってくる。

 声の主は彼を見てケタケタと笑い声を立てた。

「青筋立ってる」

「立ちますよ。顔合わせていきなり荷物持っては無いでしょう!」

「だーって『従者』は、荷物(にぃもつ)を持つもの、なーんだよね?」

 神無が嫌そうに、しかし黙り込んだのを良いことに彼は言葉を続けた。

「しぃかも、(きぃみ)ぼく達(・・・)しか入れない村に入りたいと、()ーってきたね?」

 彼の口が三日月に歪む。

「ぼぉく達、(かーみ)しか入れない村に」

「……会いたい方がいるんです」

 神無は彼と同行する数日、寝坊した自分を呪い続けていた。何だってこんなけったいな奴について行かなければいけない。

 しかも、殺すと言っていた、神の一人に会ってほしい、だと?

「そういえば、君も神様ですよね?」

「そーうだよ。(なぁに)を今さら」

 せっかくなので、聞いてみようと思った。

「神って、何なのですか?」

 彼が面白そうに唇の端をつり上げる。

「奇妙な質問だね。君はどんな答えを期待しているのかな?」

 口調が切り替わる。これは神無も何度か体験しているが、彼の切り替わりの法則は掴めている。

 興味のあることを聞かれた時だ。

「……期待はしていません。ですが、神様神様と呼ばれ崇められる貴方達が何者なのかと思って」

「何者なのかって? 君も知っているだろう。今は須王と名乗る始神……ぼく達の父さんが始まりだ」

 くつくつと笑う様子は、どこか神無を試しているように見える。

「始神は何故生まれて」

「そこが間違い」

 ざわ、と木がざわめく。今さら、神無は彼の名前を知らないと思う。

 否、名など無いと。そう、言ったのだ。彼は。

「始めから、何かが居た。それ自身もいつ頃から居たのか分からない。でも、そこに在ったんだ。何もない虚無に」

 彼は笑みを浮かべる。心底楽しそうに。

「それに意思は無かった。だが、何かの拍子に、別のモノ……それと相反するものが出来た。モノが出来て、それに意志が生まれた。命が生まれた」

「モノ、ですか」

「生きているわけじゃない。死んでもいない。思考も持たない。でも、居る。それの昔の姿、でもチカラさえも持たない……いや」

 ひっそりと笑った彼は神無に指を向けた。

「力さえも、モノの前では存在出来ない」

 空が、(くら)い。

 暗闇の中で、彼の姿だけが薄く光輝いている。

「それはモノが居ることを感じて、同じように何かを作ろうとした。それで出来たのが、原型。でも初めての試みで、それは注ぎ込む力の量を間違えた。そして原型を作るには充分過ぎる量が溢れて、ぼく達一代目が出来た」

 神無は背筋が総毛立っていることに気付く。前に立つ彼が、今まで同行していたのと同じ者には思えない。

 声が出ない、否、出せない。

「ぼく達は初めから感情を持っていた。だから、他にも同じ様な世界を作ろうとした。でも初めてだから、それと同じように配分を間違えて、沢山の二代目が出来た」

「でもそれで神が増えていったのならば、今も増えているのでは」

「まさか」

 神無の漏れた声に彼は鼻で笑い飛ばす。

「三代目は世界を作るほどの力を持っていなかった。だから、三代目で終わり」

 生暖かい風が神無を撫でた。

「でも、結局力を辿ればそれに行き着く。だから、それが消えれば、世界は異界をのぞいて全て消える」

 それは、異界の主からも聞いていた。

「……それが、始神」

「始神と言う『名前』も人間がつけたもの。名前など、神には無い」

 だから、彼には無いのだ。

「つまり、神とは、始神と呼ばれるものから生まれた生き物、ですか。……どこの宗教が聞いても拒絶されそうな内容ですね」

 彼は丘の向こうに視線をやる。

「そうやって生まれたわけじゃないのもいるけど」

 突然、景色が切り替わった。

 一面に降る桜吹雪。そばに桜の木が一本も無いのに。

「ここは……」

 彼は神無に笑いかけた。

「よぉうこそ、ぼーく達の村に」


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