戦
丹洪の武士団が、いつもの鮮やかな攻撃をして来ない。さらに、目立つ金髪の指揮官が前線にいない。側で豪槍を振り回す栗毛の青年も、狂ったように刀で斬り込む黒髪の女も、見当たらない。
丹洪と交戦している指揮官は、まずそのことに気付いた。側に控える副官もそのことに眉を潜めている。
「腹でも下して、今回の戦には行けなくなったとか?」
「んなことがあり得るか、阿呆」
埋伏兵から連絡は来ていない。間蝶からも、物見からもだ。
あり得るとすれば、長期戦に持ち込むつもりで、武士団及び丹洪軍の主力を温存しているということ。
丹洪の国王は前線より少し引いたところで全体を見ている。前線の兵を一気に敗走させ、国王に肉薄すれば討ち取ることもできる。
さらに、側に埋伏兵の潜む草むらがあるはずだ。
「……だとすれば」
主力が出てくる前に、軍を瓦解させる。
指揮官は馬腹を蹴った。
「俺が出る。突撃!!」
「私も出ます。大将」
副団長は顔をしかめた。
「あーあ……来ちゃいましたよ。ロールエとか言う指揮官。と、その副官」
隣に立つ国王が笑う。
「当然だ。来てもらわなければ困る」
そう言って、彼は側に潜む三人プラス隊員を見た。
「その為に、わざわざフードを被っているのだからな、須王?」
「全くです」
団長が溜め息をつく。同じく目立つのでフードを被っていた五十嵐、玲奈も頷く。
国王はそれに改めて笑い声をあげ、副団長を見た。
「どうだ浮草、奴らはもう射程範囲に入っているか?」
「失礼ですが、とっくの昔に」
副団長はいつの間にか、従者から弓を受け取っている。彼の弓は、大の男三人がかりて張ったという噂まであった。それほどデカい。故に副団長の腕力なら、矢はどこまでも飛んでいく。
彼は弓で副官を狙い定めながら、口角をはっきりと吊り上げた。
「それじゃ、狼煙を上げましょうか」
次の瞬間。矢は敵軍副官の胸に吸い込まれていった。
ロールエ指揮官は、隣で何かが落ちる音に振り返り、目を見開く。
副官の胸に矢が刺さっている。矢は胸と背中を貫通し、矢尻が背中から突き出ている。丹洪の国王を見れば、隣にいた柔い男が笑っている。
手には、弓。男の目は、水色。
「武士団副官、浮草……!」
辺りは静まり返っている。
副団長は指揮官を見据えたまま、手を伸ばした。
何故だろう。彼の冷ややかな声がはっきりと耳に届いた。
「久野武士団。突撃」
前線が割れる。フードを被った一団が飛び出し、瞬く間に進軍していく。
不意に風が吹き、戦闘の男が鬱陶しそうにフードを払い退けた。
髪の色は、金。
声を上げる間もない。気が付いた時には、一団は目の前にいた。また、腹心の部下が豪槍で吹き飛び、袈裟懸けに斬られる。
そして最期に指揮官は、金色の煌めきを見た気がした。
短いです。
やっぱり戦闘シーンは難しい…