玲奈:周りは自由人ばかり
アンヌはにっこりと笑った。
「と、いうことで」
玲奈は眉を潜めた。
「しばらく旅に出るわ」
「何で!?」
数時間前、アンヌが玲奈を訪ねてきた。そして脈絡もなく享の愚痴を語り始め、何の前触れもなく、ということで旅に出ると宣言されたのだ。
「だって……」
「失礼します!」
バタン、といきなり病室に知らない人が顔を覗かせる。
「こちらに楓大将は来ておられませんか!?」
「来ていないわよ」
「ありがとうございます! こちらに大将が来られたら、縄で縛って大将のお部屋に放り込んでください!」
知らない人はそれだけ言って、扉を閉めた。アンヌはうんざりした顔で玲奈を見る。
「ほら、享の捕獲、やらされるじゃない」
「面倒くさいからですか! そして楓さんは仕事から逃げたんですか!」
アンヌがほとほとと頷いた。
「享、机処理が大の苦手なのよねー……しかも逃げたらどこにいるか、私しか分からないから自然に皆私も探すことになるのだし」
「ちなみに楓さんは今どこに?」
「図書館の一番奥の棚、左から四番目の列。そこで次の旅の構想でも立てているでしょうね。あら、動き出したわ」
よく分かるものだ。
玲奈はアンヌが面倒くさがりであると発見、さらに彼女がものぐさだとも気付いた。
「いや、自分には止める権利も手段もありませんけどね? 朱雀のロナンさんやて、アンヌさんのこと頼りにしてるやないですか。放っといてええんですか?」
「…………もう大丈夫でしょう。流石に」
何ですかその流石に、という自信なさげな呟きは。
「とりあえず、私にも色々とやることがあるのよ」
じゃっ! と爽やかに笑って窓から飛び降り逃げ出したアンヌ。その後ろに金髪の男が一人。
「あ。楓さん」
享はアンヌに見つかると同時に周りを炎で囲まれ、あっけなく降参した。炎が消えると同時に先ほどの知らない人が享に飛び付き引きずっていく。
玲奈は見なかったことにして、布団に潜り込もうとして、
「おー、お前が鈴無玲奈か?」
「どなたですか!?」
いつの間にかそばに立っていた、謎の兄ちゃんに飛び上がった。
この組織の人は神出鬼没だ。玲奈はそう思いながら、アルファード・ハーモニアスと名乗った謎の青年をこわごわと見る。
ちなみに容姿は絶世の美男だ。赤銅色の腰まである長髪をくくらずに放置、細い目は黄土色。
「……済みません、アルファードさんは何者ですか?」
「いつかは分かる。アルでいいからな。ちなみにここに来たのは、アンヌ殿にお前の話されて興味がわいたからであって……」
そう言いながらアルは玲奈のベッドに潜り込む。間髪入れず、眼鏡をかけた青年が玲奈の部屋に顔を覗かせて出ていった。
それを確認したアルが出てくる。
「……決して仕事が嫌になって息抜きに来たんじゃないからな」
ああ、絶対息抜きが本音だ。ついでに多分さっきの彼は、アルを探している。
「楓さんもアルさんも、組織には仕事を抜け出す人が多いんですね……」
武士団で抜け出す人間は玲奈一人だったし、その机仕事も滅多に無かった。だって優一に全部押し付けていたんやし。
「だってよ! 俺少し前まで怪我で病院に居たんだぜ!? その間も仕事の書類はバンバン溜まってたんだぜ!? やる気になるわけが……って待ていっ!」
「うあっ!?」
アルが血相を変えて玲奈の肩を掴む。
「大将……帰ってきてんのか……?」
「さっきアンヌさんに捕縛されてましたよ」
玲奈の肯定に彼は頭を抱えてうめいた。ついでに悪態もいくらかついた。
「絶対、仕事が倍に増える……」
「そうなんですか?」
「そうなんだよ! 何でか分かんねえけど、倍に! いつもイライラしてっから機嫌悪いし妙に怖えし!」
玲奈は享を思い浮かべる。……あれ? いつもくけけって笑ってなかったか?
「戦闘じゃ頼れる大将なんだが、普段があれじゃあなぁ……」
「楓さん、強いんですか?」
「組織の中では、群を抜いてな。大将を負かしたのを見たことがあんのはアンヌ殿だけだ。でもあの人は組織の人間じゃねえし」
へえー、と玲奈は二人を思い浮かべた。確かにアンヌは強そうだ。妙に場慣れしている上に、知識量もやることも半端ではない。
「バジルも強ないですか? 組織の人間やないですけど」
「黒か? 確かに強いが、二人には数十段劣るな。それなら空野っつうもう一人の従者の方が強い」
納得してから、玲奈はふと首を傾げる。
「黒?」
「黒狼だから、黒。黒狼って何だとかは本人に聞けよ。一応プライバシー入ってっから」
舌を出したアルはそれはさておき、と窓から闘技場を眺めた。
「お前、まだ組織入ってねえだろ?」
「はい」
「じゃー登用試験受けるよな」
確認だったらしい。彼は闘技場を睨みながら続ける。
「試験は二つ。面接と実技だ。実技はあまり弱すぎんのが入ってこねえように。面接は、人間に成り済ました異界の者が入ってこねえように」
「実技の弱すぎる、ていうんはどこまでを指すんですか?」
「んー……」
アルは少し悩んでから、にっと笑った。
「試験官の一撃で気絶する奴」
「……それやったら、ほとんどの人間が入れるんじゃ?」
「そうだぜ。でも、序列のどこに放り込むかを決めんのも実技でだから、試験は挑戦者か試験官、どっちかがギブるか気絶するまで続く」
玲奈は納得しつつ、じっとアルを見つめる。彼は今のところ、たいていの問いに答えてくれている。
玲奈はにっこり笑ってみた。
「試験官て、どんな人ですかー?」
「あはは、ンなの言えるわけないだろー?」
「ですよねー」
あっさり拒否された。
「駄目で元々ですから。ええそうですとも、どこまでが機密情報かを測るつもりやっただけですから!」
「いや、機密情報じゃねえぞ。一応」
アルにあっさり否定される。
「………………えぇ!?」
「だって、毎年試験官変わるしよ。しかも試験官に抜擢された人間は自分が試験官ですーってバラすのは禁止されてる。そして試験日は班行動が一切無えから、誰が試験官になったかも分からねえ。ま、たいていは佐官か大尉がやるけどな」
「そこまで分かってても秘密ですか」
「おう。大尉も佐官も大量にいっから。噂伝いに名前聞いてもダレデスカーってな場合も多い」
「いっから?」
「いるから、の略。悪いな、ちょい訛ってんだ」
アルは舌を出して笑い、肩を竦める。
そこを病室に入ってきた、彼の部下だろう、小柄な青年が見つけ、背後から縄で捕らえた。
「この背丈は……キーリか?」
「アル殿、さあ仕事に戻りましょうね! そしていい加減人を背丈で判断するのは止めてほしいな!」
キーリと呼ばれた青年は玲奈に笑みを振り撒き、笑顔でアルを引きずっていった。
「お騒がせしましたー」
「おい鈴無、俺を助け……」
「忙しいなかご苦労様です。頑張ってくださいねー」
「おいィ!」
アルが落ち込んだ顔をしていた。
玲奈は時計を見て、一時間も話していたことに驚く。アルとそんな長時間も話していたとは思いもよらなかった。
が、同時にアルの人柄に和まされたとも思う。頼りになる兄貴分、というのだろうか。
何にせよ、好い人と関わりになれた。
そう玲奈は満足しつつ、またベッドに横になった。
(…………あかん、こんな生活してたら太ってまう)




