空野:バジル
バジルと空野は、予想外に多い獣を避け、気配を消して休憩している。
空野はバジルが嬉しそうに図鑑を調べる様子を眺めた。齢十に満たない少女がいそいそと図鑑をめくっているように見える。
誰にも、彼女が負ってきた痛みなど分からないだろう。
バジルとはアンヌ繋がりで面識を持った。初めは無口なガキだと思ったが、話しているうちに、共に過ごすうちに、何やらおかしいことに気付く。
体の成長が異常なまでに遅いのだ。十歳で一歳、それくらいの速度でしかない。それを彼女に問い詰めると、魂喰らいになった影響ですと、事も無げに応えた。
聞いた話だが、魂喰らいは文字通り、さ迷う魂を喰らい、その魂が持つエネルギーを変換して戦う。魂を食事にすることもある。
しかし同時に、魂を喰らう度に、魂喰らいにはその人間が歩んできた人生や感情が雪崩れ込む。魂喰らいを倒したという文献が無いのはそのせいだ、彼らは人間が対処法を見つける前に気が狂い死んだ者が多いのだから。更に魂を変換して出来たエネルギーは、魂喰らい本人の成長を妨げる。
少女は、そのリスクを事前に教えられたにも関わらず魂喰らいになったのだと言う。
何のために。
「空野殿!」
呼び声に彼女を見ると、バジルは嬉しそうに図鑑の一行を指した。
「先ほどの豚の形をした生き物、やはり食べられるみたいですよ!」
「そうですか。では、次に会った時は捕獲して食べましょう」
空野はバジルに笑いかけた。