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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第二章
63/117

ロナン:聞いてみたかったこと



 享は久し振りに自室に足を向け、

「うげー……」

 大量の、溜まりに溜まった書類の束に口元をひきつらせた。それを後ろから部屋に入ったアンヌが笑う。

「放浪してた享が悪いわ」

「放浪の間も大将として動いてたのに!?」

「諦めなさい」

 享が机に座りペンをとると、ちょうど部屋の扉が開き、

「楓殿。助かります」

 書類を持ったロナンが現れた。アンヌは逃走しようと窓を開けた享の襟首を掴んでいる。ロナンは笑いながらその光景を見て、持っていた書類を容赦なく机に積んだ。

「出来ればこれが最優先で」

「酷い……」

 冗談抜きの本気で凹む享の肩を叩いたアンヌは、書類の一つを手にとりしみじみとそれを眺めた。

「でも、本当に組織に入らなくて良かったわ。机作業は嫌いよ」

「アンヌが入ってくれたら、アタシは喜んで大将の座を降りますヨ。いやマジで」

「大将なんて御免だわ」

 ひらひらと手を振ったアンヌは紙を机に戻し、窓を見やる。

「正直、あなたが組織に入った時一緒に入らなくて良かったと思っているのだから。バジルが帰って来たら、また旅に出るつもりなのだし」

 それを聞いて、享はうつ向いた。

 バジルは勘違いしているようだが、アンヌは組織の幹部でも何でもない。組織に来るのは、享に会うためかロナンに相談された時ぐらいである。しかし部屋はあるので居候という言葉は間違っていない。

 今回も知り合いに団長のことを頼まれたので、組織にも関係があるだろうと思い丹洪に行く前に寄った。

 アンヌは決して、組織に必要以上に近づかない。

 余計に介入したのは他でもない、玲奈と五十嵐の件のみだったのだ。

()にはまだたくさん、彼と約束した、やらなければいけないことが残っている。組織に入っている時間も暇も無いわ」

「彼……親父、ですか」

 ロナンは名前を思い出そうとして、彼が誰か思い当たり、彼に名前が無いことを思い出した。

 ロナンとアンヌは、彼によって引き合わされた。ロナンは一目見てアンヌが人間とは言えないことに気付き、アンヌは一目見てロナンに朱雀が憑いていることに気付いた。ロナンはその場でアンヌに口説かれ、組織にやってきたクチなのだ。

 ついでに、ロナンには思い出したことがひとつ。

「……アンヌさんに初めて会ったあのとき、初めて神獣(しんじゅう)が人間に()いて力を発揮するのだと知りました」

「厳密には少し違いマスヨ」

 享は苦笑を浮かべる。

「神獣単体でも、力は使えマス。本人に気付かれずに憑くことだってできる。その属性ではない人間にも。ただ、同じ属性の人間に憑けば、神獣が力を使うとしても、人間が力を使うとしても、威力は倍以上になる」

「彼女は堂々と私の中に居座りましたね。だから威力が増したのですか……」

 彼女とは、ロナンの中で眠る朱雀のことだ。朱雀の一人称が私で、女性的な声なので、ロナンは彼女と言う。

「名前は……」

「フィアンマ、と呼んでいます」

 名を告げた瞬間、ロナンの腰に差してあった鉄扇が火の粉をまいた。

『お嬢、呼んだか』

 声に、ロナンは僅かに笑った。

「いえ、ごめんなさい。あなたの名前の話をしていただけ」

『ならば寝る』

 女性の声が消え、ロナンは肩を竦めた。

「名前を呼んだらすぐに目覚めるのが、彼女の凄いところです」

「そうそう。だからいつも彼女呼ばわりなのよね」

 アンヌも頷く。ロナンは享とアンヌを見て、その、と声を発した。

「話は変わりますが、噂を、聞きました。アンヌさんと楓さんが、その、つ、付き合っていると」

 勇気を出して発した問いは、二人の苦笑によって否定される。

「あり得ないわ」

「だったら良いんデスけどネ」

 ロナンは顔を真っ赤にして頭を下げた。


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