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異界の主:無題
主は目を開き、椅子から下りる。
レキの体は修復を終え、彼には早速神を探す手はずを整えてもらっている。
神無はもう彼の元に行かせた。誰が彼をとは思ったが、何の因果か、やはり神無だったらしい。
「久し振りに、晶子の処に行くか」
彼女に会うと思うだけで胸が弾む。そこで死体だと思い出し、底無しの沼にはまった感覚に陥るのだ。
部屋はまた一層紅を増していた。
比例して、彼女は白さを増している。
「晶子」
触れる肌は冷たい。
死の、肌だ。
熱を奪う、命を奪う冷たさだ。
「失敗しても、後悔などしない」
何故なら、君と会えないこの時間は、地獄の何物以外でもないから。
成功したら、こちらで逢える。
失敗したら、むこうで逢える。
それだけの話。
愛しい人間に会いたいのだ、何が悪い?
「早く黒狼を連れ戻したいな」
そして魂になった君と会いたい。
今はそれだけで我慢する。だから。
今度逢った時、思いきり抱きしめられたらいいな。
無題はわざとです。