膨れた五十嵐
五十嵐がその話を持ち出すと、玲奈は首を竦めた。
「んな因縁の場所でも無いし。武士団に入った時点で、またここに来ることは覚悟してたからな」
だから気にせんでええぞー。
玲奈はニヤッと笑い、団長らが天幕から出てきたのを見て彼らを迎えに行った。
「五十嵐?」
副団長が彼の額を小突く。
「ちぇー、みたいな顔してるよ」
「……別に何もありません」
彼は何故か顔を輝かせた。
「わ、五十嵐が珍しく膨れてる! 鈴無、君ナニ言ったの!?」
「ええっ!? あたしそんな大したこと言ってないですよ!」
玲奈がぎょっと叫び、そばで騒ぎを眺めていた国王が五十嵐の顔を覗き込む。
「うむ?」
国王は首を傾げた。
「これは不貞腐れているというよりは、何やら物足りないのでは……?」
「陛下ッ!!」
五十嵐が顔を真っ赤にして叫ぶ。それに副団長と玲奈が笑い転げる。
そして団長はといえば。
「遅いぞ……何かあったのか?」
いつの間にか一度武士団のテントまで戻り、三人が後ろにいないことに気付き戻ってきた。それに国王まで笑い出す。
謎の一団をぼんやりと眺めていた団長は、慣れた手付きで副団長の頭を叩き、五十嵐と玲奈を軍営テントまで引きずる。
「笑いを収めろ。会議だ」