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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第二章
51/117

玲奈:見送り


 玲奈は少しばかり悶々としていた。お茶をすすった体勢から動かない。

 それをバジルがのんびりと眺めている。そんな彼女を同じ病棟の患者たちが恐々と見ている。今さらながら玲奈は思ったのだが、バジルは組織の人間にいささかビビられているようだ。

「おい鈴無とやら」

「何や」

「五十嵐に、剣を持ったら狂うことを、話しておいたぞ」

 玲奈の手から湯飲みが落ちた。湯飲みは運良く彼女の手にはかからなかったが、ベッドの掛け布団に染みを作る。

「お前ッ! 何あっさりと話して」

「言っておくが」

 玲奈が泡を食ってバジルを見たとたん、彼女の強く冷ややかな視線に(さら)される。

「お前は事実を隠してあいつの心の傷とやらに触れようとしないことで、あいつを守っているつもりだろうがな。それは今の状況では激しく逆効果だ」

 冷静で、冷徹。それが今の彼女には最も似合う言葉。

「苦しんでいたぞ。お前を傷付けたことにではない、お前に知らされないほど(・・・・・・・・)、自分は弱い人間だと思われていたのかとな。実際あれはお前が目覚めるまで泣いていた」

「そんなつもりじゃ!」

「いくら幼馴染みから一緒だったとしてもだ、他人の考えなど分かる訳がない。人間とはそういうものだ」

 気を付けろ、と無表情に言われて、玲奈は今さら彼女に忠告されていたのだと気付く。

「誰もがお前の考えを理解している訳がない。ならば他人にも分かるよう話せ。相手を理解し、納得させろ。さもなくば、今度は取り返しのつかないすれ違いが起きるやもしれんぞ」

 五十嵐が強いと身にしみている。だからこそ、これ以上弱味を持ってしまうと、いずれ彼は戦いから身を引いてしまうのではないか、そんな潜在的不安があった。

 だから言えなくて、黙っていた。

 黙り込みうつ向いた彼女に鼻を鳴らしたバジルは、まあ、と膝を曲げ目線を玲奈に合わせる。

「言葉は時に矛となり盾となる。この場合味方を傷つけるやもしれん。そう考えればお前の選択も間違っているように思えんがな」

 顔を上げた玲奈の鼻を突いた。

「……痛い」

「分かっている」

 じゃあ何で、と言いかけた彼女を遮って、バジルはにやりと笑う。

「私も行かなければならないところがあってな。準備しなければならん」

 動けない歯痒さに玲奈が目を細めると、彼女は力を抜いて笑った。

「私が帰ってくるまでに身体を治しておけ、稽古ぐらいならしてやる。異界に助けに来てくれたお礼だ」

 そう言って病室を出ていったバジルをしばらく呆然と眺めていた玲奈は、

「あらら、彼女に惚れましたかネ?」

「うあぅおうえっ!?」

 耳元でいきなり大音響の声を聞かせられて飛び上がった。

 とっさに振り向いて魔剣をとった玲奈だが、謎の男も魔剣を持ち押さえている。

「……初対面ですよね?」

「そうですネェ。でも私は貴女を知っていますヨ、鈴無玲奈サン」

 くけけと笑った男は、金髪碧眼。浴衣を着ているが、胸元がはだけて深い傷が見え隠れしている。

「怪しいけど大した者じゃないので。一応」

「怪しいことは肯定するんや!?」

 そりゃまァ、と言った男は慌てて魔剣を指した。

「少し、これを借りたいんデスが、いいデスかネ?」

「いや、それはむしろあんまり触らないほうが……」

「大丈夫、刀鍛冶に診てもらうだけデス」

 そう言った男は玲奈の了承も無しにひょいと魔剣を担ぎ、彼女に手を振る。

「済みませんネ、私も先に行ったアンヌとアタシに追いつかなくてはいけない訳で、急いでいるんデスヨ」

「アンヌさんとアタシ?」

「そ、アタシ」

 混乱してきた玲奈を笑って放置した男は、窓から落ちた。

「!?」

「それじゃー、アタシに宜しくお願いしますネー」

 ついでに、消えた。



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