奇妙な光景
玲奈は目を覚まして、異常な光景を目の当たりにした。
いつの間にか個室の病棟から集団病棟に移っていて、それで隣のベッドでのほほんと団子を食う団長がいて、彼の手は玲奈のベッドに突っ伏して痙攣を起こす五十嵐の頭に乗っていて、玲奈と団長のベッドの前でバジルと緑香が激しく口論していて、それを他の患者や怪我人が唖然とした表情で眺めている。
「団長……元気になられたようで何よりですが、緑香とバジルは何故あんな状態に?」
「ああ」
団子を三つ口にほお張っていた団長はそれらを一気に呑み込み、スリッパを手にとって見事に投擲した。無論、バジルと緑香の頭にだ。
「下らんことで言い合いを続けるな」
「でも!」「だがな!」
「どこまで行っても、その口論に答えはない。よって必要ない意地の張り合いでしかない。そして五月蝿い、だから黙れ」
黙り込んだ二人を鼻をならして見やる団長。彼を、患者たちが尊敬の眼差しで見ている。かなりの長時間喧嘩していたらしい。
団長の視線が玲奈を向いた。
「鈴無、大丈夫か?」
「はい。今は痛みを感じません」
「それは玖楼が、お前の痛覚を麻痺させているからだ」
「そうなん?」
バジルに訂正されて驚く。玲奈が彼女を見ていると、バジルは椅子を持ってきて団長と玲奈のベッドの間で腰かけた。
「改めてだが、私はバジル・クリセントという。偽名だ。だが気にするな。五十嵐には先に自己紹介してある」
「気にするつもりは無いけど、敢えて偽名やってバラすんやな」
「別に偽名である理由は本名が使えないだけだし、大したものでもなく、言霊も籠らない。何の不都合も無いからな、話しても別に困らん」
あっさりした様子の彼女は次に、と両手を掲げる。
動作と一緒に病室全ての花瓶が浮かび上がり、次々に移動した。
「バジルがやった?」
「ああ。糸でな」
手には手袋が、手袋には糸がついている。
「戦闘では後方支援か、先鋒かどちらかにいる。後方だと糸を扱っているだろうし、先鋒だと素手かナイフで戦っているだろうな」
「素手!?」
「そうだが」
何か? と首を傾げられ、改めて彼女が強者だと実感する。
「いや……ナンデモナイデス」
「何やら言いたげだが、まあいい。たいてい私はアンヌ様と共に居る。組織に入っているわけでもないからな」
「ええっ!?」
玲奈でも五十嵐でも緑香でも団長でもない、騒ぎを眺めていた患者の一人から驚きの声があがった。
「でも戦闘になったらいつの間にか最前線にいて……てっきり組織の幹部なのだと」
「立場としては、アンヌ様が幹部、私はあの方の従者だ」
無い胸を張っているが、自慢するところではない。
「そのぐらいだな。何か質問は?」
玲奈が首を振る。それを見たバジルは立ち上がり、玲奈が起きてから終始俯いたままだった五十嵐を引きずって退室した。
「……で、五十嵐は一体何が?」
団長も緑香も答えない。