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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第一章
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国王と戦について


 昼、武士団は国王軍と合流し、西の国境の近くに陣を敷いて、国境向こうに布陣を構える敵国と睨み合っていた。

 国王軍といっても、国境の近くに領地を構える領主たちや近衛(このえ)兵の一団の連合軍だ。

 その中、漆黒の髪の偉丈夫は、ひときわ太陽のように圧倒的な存在感を放っている。

 その国王はこちらを見つけ、団長の姿を見ると顔を輝かせて歩み寄ってきた。

「早かったな。武士団が来る前に始めるかどうか、悩んでいたのだぞ」

「朝早くに進軍しましたので」

 素っ気なく言った団長は、話し役をその場にいた副団長及び彼につるまれていた玲奈と五十嵐に体よく押し付けて逃げてしまう。

「逃げられたか」

 苦笑し頬をかく国王はとても、丹洪国でも五本の指に入ると言われる豪傑には見えない。いいとこ日向で暢気に寝ている牛である。

 しかし、普段と戦場での雰囲気が変わるのはこの人だけではなかった。

 玲奈の隣で暢気に笑う副団長もその一人である。

「陛下は相変わらず、うちの団長を口説き落とせないようですね」

「うむ。もうそろそろあれには爵位をやりたいのだがな……その話をしようと頭で考えた途端、逃げられる」

「だったらいっそ、唐橋に呼び出して命じたらどうです?」

「久野を離れたがらないのは知っているだろう。唐橋のような賑やかな場所が苦手だということも」

「あちゃー……」

 副団長はぺしりと額を叩いた。

「うちの団長、権力にははっきりと嫌悪を示しますからね」

「出会ったときからそうだからな。武士団の団長を任命したときも、結局は頭を下げて頼み込んだ」

「ああ、言ってましたよ」

 知られざる人事秘話である。

 そのまま雑談になだれ込みそうだったが、国王はさて、と話を打ち切った。

「武士団も到着した。向こうも待ちわびておる、さっそく一戦交えるか」

 その言葉に玲奈は顔を輝かせ、五十嵐は御意、と拝礼の意をとる。しかし、副団長が顔を曇らせた。

「陛下。失礼ながら、交戦はもう少し後にしてもらえないでしょうか」

「浮草? 何かあったのか?」

 副団長は団長が去ったあとを見やる。

「行軍前須王と話したのですが、敵の埋伏兵がいる場所を一掃したく思います」

 国王はただ、目をきらめかせふむと頷くと、声を潜めて副団長に尋ねた。

「いくら時間が必要なのだ?」

「二刻(一時間)もあれば十分かと」

「分かった」

 国王は全軍に叫ぶ。

「二刻の後、戦闘を始める!」

 各要所から、彼の宣言に応える雄叫びが聞こえてきた。

 副団長はいつの間にか側にいた団長と共に、激戦区になるであろう茂みに姿を消す。

 それをぼんやりと眺めていた五十嵐は、玲奈に引っ張られた。

「さ、準備するでえ!」


 二人が武士団の軍営テントに戻ると、毎回の通り大隊長、小隊長の名とその隊員の名が記した紙が貼ってあった。

 武士団は団長と副団長以外の正式な役柄がない。その作戦によって大隊長、小隊長を決めることになっている。

 隊は三つから五つ作られ、隊中では大隊長が指揮をとる。大隊長の補佐が小隊長だ。また、その大隊長を纏めるのが団長及び副団長となる。

 戦では団長が前線にいるので、自然と団長からの指示が多い。しかし、後方から支援する副団長からも指示は飛ぶ。矢が通る場所を邪魔するな、退かなければ撃つぞということだ。

 そして今回、ある一隊の大隊長を五十嵐が、小隊長を玲奈がと記されていた。

「……また俺か」

 五十嵐と玲奈の実力にほとんど差が無い。ならばそれぞれを大隊長に抜擢すれば、と思いたいのだが、何故か玲奈が五十嵐の側から離れるのを嫌がる。

 かといって玲奈が五十嵐に恋愛感情を持っているのかといえば、それも違うらしい。前にそれを団長が聞くと毛を逆立てた猫よろしく怒っていた覚えがある。そしてそこまで否定しなくても、と五十嵐が凹んで副団長に慰めてもらった覚えもある。

 後に玲奈から何やら理由を聞いたらしく、どちらかが大隊長、もう片方が小隊長になるように団長が采配を下していた。

 前回の戦でも五十嵐が大隊長だったので、今回は玲奈が大隊長だと思ったのだが。

 顔をしかめた五十嵐の隣で、玲奈が喉を鳴らして笑った。

「また指揮お願いしますぜ、大隊長どの?」

「鈴無小隊長、他の隊員を呼んでこい!」

「はいはーい」

 玲奈がへらへらと笑いながら、紙を見ている隊員たちの塊に入り込み、やがて数人の隊員を連れてくる。

 五十嵐は諸注意と馬の様子、また武器の用意を命じて解散とした。

 玲奈を引っ張って、テントを出る。


 テントを出て始めに遭遇したのは、何故か暇なのかぶらぶらと歩いていた国王だった。

「鈴無、五十嵐ではないか」

 のんびりと歩み寄ってきた彼は、二人を見て首を傾げる。

「隊長会議は行かなくてもいいのか?」

 たいてい、戦の前に団長、副団長、大隊長、小隊長のみで集まって話し合いをする。その事を言っているのだろう。

「団長達がどこかに行ってしまったので。半刻後に集合、と書かれていましたが」

 それより、と玲奈が国王に聞いた。

「陛下も会議はよろしいのですか?」

「同じ理由だ。攻撃の主核になる武士団の団長らがおらんのでは、何の会議か分からん」

 あー、と二人で納得していると、側の草むらが揺れて、話の二人が出てきた。浮草が苦笑している。

 須王は溜め息ののち、国王に報告した。

「そばに潜んでいた物見、埋伏兵は全て殲滅致しました」

 早い。まだ半刻も経っていない。

 国王は驚くこともなく、いつの間にか周りに控えていた武将らを連れて天幕に引っ込んだ。

 玲奈がのんびりと言う。

「忙しいんか暇なんか分からんなぁ」

「少なくとも団長らは忙しいんだろうな」

 そう打ちきった五十嵐は、それよりと呟いて玲奈を見た。

「この土地に来ても、良かったのか?」

「どういうことや?」

 五十嵐は目を逸らす。

「ここだろ、気が付いたらお前がいた場所」



 昔、武士団に入ったばかりの頃に、玲奈から彼女が何者なのか、聞いたことがある。

 曰く、自分は神隠しに逢ったのだと。




えー……

更新が遅くなって申し訳ありません。


先日妙に頭が痛いと熱を測ってみたら39度を越しておりまして、アレかインフルかと病院に行ってみれば隔離されました。

同じころ、どうやらクラスでも三度目の学級閉鎖が起きたらしく。


……もうすぐ試験なのに、範囲とかどうするんだろうなあ…?

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