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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第一章
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白濁した瞳の彼





 玲奈と五十嵐はどこかの階段に送られていた。

「怖かった! 殺気ハンパなかった!」

 玲奈がガタガタと震える横で、五十嵐も腕の震えが収まらない。

「あれが、異界の主か」

「……うん」

 あの男を倒さなければ、国王にも丹洪にも、平穏は訪れない。

「強いな」

「うん」

 玲奈の目に灯が点る。

「でもあいつを倒さな、あたしらは丹洪に戻られへん」

「だな」

 強くならなければ。

 二人は改めてそう確認した。

 それはさておき、二人は周りを眺める。誰もいない、地下牢にでも続く階段に送られたようだ。

「……ん?」

 地下牢?

「優一よ」

 玲奈も気付いたのか、五十嵐に向かって親指を立てた。

「あたしらラッキーじゃね?」

「ツイているみたいだな」

 玲奈が勇んで階段を降りていく。後ろから五十嵐がついていって。


 二人は先ほどの青年がバジルこと子供を押し倒して胸元に手を入れる現場を目の当たりにした。


 玲奈はあー、と間抜けな声しか出せない。五十嵐は唖然とした表情で硬直、見られた青年も口を少し開いたまま硬直、バジルは初めから涙目だ。

「えーと、やな……」

 とにかくこの訳の分からん状況を打開せなあかん。

 そう本能で察知した玲奈は、軽く手をあげてみた。

「……どう反応したらいい?」

「アレですか、すぐに行為に及ばなかった私への嫌味ですか!?」

「下らん事を言う前にさっさと助けろ!!」

 冗談のつもりが、かなりのブーイングを食らった。

「酷い……」

「気の効いた言葉のつもりだったようだがな、激しく逆効果だ」

 五十嵐にまでそう切り捨てられ、さらに凹む。

 そんな彼女を放置した彼は、短刀を抜き青年に向けた。青年が気だるそうに五十嵐を見るなか、五十嵐はバジルを見る。

「お前がバジルとかいう名前だな」

「そうだが」

「お前を救助してくれと、アンヌさんに頼まれた。帰り道はお前が知っているそうだな」

 彼の率直な言葉にバジルは溜め息をついて、五十嵐を睨んだ。

「お前な。ここに一人敵がいるのに、素直に言ってどうする。……まあ、アンヌ様が私のことを心配してくださったのは嬉しいがなっ!」

 ここ、でむっとしている青年指差す。

 ちなみに彼女はかなり嬉しそうだ。アンヌがバジルのことをすっかり忘れていたことは秘密にしようと、五十嵐と玲奈は目線で決めた。

「しかしコイツ、案外強いぞ」

「そうなのか?」

「でも、あたしが失言かましたら逃げてったよな?」

「……一体お前は何を言った?」

 バジルに若干引かれつつ、ついでに青年の顔色を青に変えつつ、玲奈はずかずかと牢屋に歩み寄り扉を開いた。ついでに青年を押し退けてバジルに手を差し伸べる。

「よし、帰ろか」

 バジルも手を掴みながら問う。

「神無は無視か?」

「この人精神的ダメージ多そうやし。何や可哀想になってきたから放置かなーと」

 それでは余計可哀想な気がする。

 青年あらため神無は玲奈の発言に口元をひきつらせたのち、剣を抜いた。玲奈も魔剣を抜く。

 そしてニッコリと笑みを放ちつつ、一言と一振り。

「え」

「伏龍封雛!」

 至近距離で魔剣の竜巻を受けた青年は吹っ飛ぶ。乱暴な手法で敵を遠くに飛ばした彼女はバジルの手を握り五十嵐を急かして地下牢を出た。

「一応あいつの為に言っておいてやるが……本当は強いんだぞ」

「ほんまに強かったとしてもや、負けたら意味無いやろ」

 バジルのフォローにも容赦がない。

 三人は階段を上がりきり、また白い壁に囲まれる。

「で、バジル! 出口どこ?」

「そこの白い壁に突っ込め!」

 そう叫ぶバジルがまず突撃し、ゆらりと消えた。二人も突っ込む。

 急転させられているような嘔吐感と吐き気に悩まされながら三人は前を見て、

「遅かったねー」

 大量の異界の者を連れた、白濁した眼の少年に再び遭遇した。


 よっこらせ、と少年は椅子代わりにしていた異界の者から飛び降り、にっと笑う。五十嵐は短刀を抜き、玲奈も魔剣を構える。

 玲奈は何やら懐を探っていたバジルに声をかけた。

「あのイカれてそうなガキ、何者?」

「レキという。主に呪術専門で、武術はてんで駄目だった筈だ」

「後方支援なんだよねー」

 のんびりと言った彼は右手を突き出す。

「二人とも! レキから目を離せ!」

「遅いよ、言うの」

 レキの右手から糸が吹き出し、二人の首に巻き付いた。バジルが引っ張るが、びくともしない。

「ぐ……」

「うぁ……っ」

「とりあえず目を瞑れ! 異界の奴らは私が何とかしてやるから!」

 バジルの声にぎょっとする。敵の面前で目を瞑るなど、自殺行為に等しい。

 それを裏付けるように、異界の者たちが襲ってきた。

 得物を奮おうとするたびに糸が首に絞まっていく。

「やべ……」

 意識が落ちる。

 そのとき、玲奈は掠れる景色のなかで糸を異界の生き物がすり抜けたのを目の当たりにした。

「幻か!」

 咄嗟に目を閉じると、彼女の首に巻き付いていた糸の感覚が消える。

 武士団で、少しだが気配を読む練習もやっていた。

 レキの気持ちの悪い、混ざり合った気を感じる。

「優一の糸を、解けー!」

 レキを袈裟懸けに切った、と思った瞬間玲奈は勢いよく後ろに引っ張られた。

「よくやった、目を開けていいぞ」

 開けると、バジルが左手で玲奈を掴み、右手で五十嵐の首をさすっているところだった。五十嵐は咳を繰り返している。

 そして先ほど斬ったレキは、玲奈が斬った通りに分かれ、しかし血を噴き出す様子もなく佇んでいた。

「お見事。やっぱりオレに最前線はキツかったかなー」

 笑う様子に、痛みや苦しみの欠片もない。

 それどころか、皮膚や骨が音もなく再生を始めている。

「化け物」

 玲奈の言葉に、レキは悠然と笑みを浮かべて答えた。

「それがオレの選んだ道だから」

 言い放つと、レキは五十嵐を指差す。

「君、死人だよね? 主が聞いたら興味持つだろうなー」

 ぎょっとした五十嵐が落とした抜き身の短刀を掴もうとする。

「でも、オレとしてはねー」

 短刀が、刀になっていた。

 気付かず、五十嵐は掴んで。

「優一!」

「君がとっても苦手な長刀を持ったらどうなるのか、それの方が気になるなー」

 五十嵐は目を見開いたまま、

「う、うあ」

 バジルを引っ付かんで異界の者を無視してとにかく離れた玲奈に視線を向けることなく。

 虚空を見つめたまま。

 壊れた。


お久しぶりです、ダイです。遅くなって済みません

テストショックで記憶がすっぱ抜けておりました。

でもこれからはちょくちょく進めていける……はず!

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