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異界の主・続
「晶子から手を離せ。そして離れろ」
言われた通り、五十嵐は女性から手を引き、玲奈と共に壁まで下がる。
主は晶子と呼んだ女性に駆け寄り、二人を再び睨んだ。
「失せろ」
風が満ちる。二人を拐い、風は二人を別の場所に送る。
主は女性の頬に手をやり、髪をすいた。
「晶子」
お願い、起きて。
いつものように体を伸ばして、俺を瞳に映して、はにかむように笑って。
その細い腕で、俺を抱きしめて。
「待っていてくれ」
貴女は向こうに逝ってしまった。
けれど、呼び戻す方法ならあるから。
「駒なら手に入った」
どんな犠牲を払っても。
「神無と、黒狼が」
神を無くすと唄われる青年と、類い稀な才能であり力を持った少女。
黒狼はまだこちらにはなびかないけれど、彼女自身もその方に利点があると、気付くだろう。
「もう少しで、成就する」
貴女をこの地に甦らせる。
それが、俺の願い。