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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第一章
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行き当たりばったり的な作戦



 ロナンは手を一気に焼き払い、進軍させた。現在は組織の勢いが強い。

「畳み込め!」

 側で少将が暴れている。中将は少し遠いが最前線だ。

 今回の作戦の(かなめ)は、いかに異界の者を退却させるか、である。

 そして、今回白虎だと偽装してもらった彼らを無事に保護できるか、それも大切だ。

 彼らの護衛に、アンヌ、玲奈、五十嵐の三人と班ひとつに行ってもらっている。

 よって、この戦は、ロナンが暴れなければいけない。

 剣を持たない方の手で鉄扇を持ち、広範囲の敵を狩る。

 もう、敵を殺すことに涙は出ない。

 それが案外虚しくロナンの心に響いた。




 アンヌは炎で道を作り、その上を馬で駆けた。組織の班ひとつ分の人間たち、玲奈、五十嵐もそれぞれ人を乗せて走らせる。

 後ろから追い縋る敵を、今回白虎に偽装した一人が剣を使って叩き落とす。

 バチッ。

 剣から大量の電気が出て、手を攻撃した。これが、組織の中でも彼らを偽装させた理由でもある。白虎は電気使いだ。

 あとは天幕に彼らを無事届ければ良いのだが、その時、馬が暴れ出した。

「おいこら! 落ち着け!」

 玲奈が焦る声が聞こえる。異界に囲まれている状況で、これはとても辛い。というか、まずい。

 嫌な予感がアンヌを刺したその瞬間。


 アンヌ、玲奈、五十嵐、偽装の二人以外の全員の首が、胴から離れた。


『んー? おっかしいなー』

 異界の者達が横に割れ、少年が姿を現す。

 藍色のざんばら髪に、白濁した目。名は確か、レキと言った。

『アンヌ・ホーストンはまだ分かるとして、んで白虎候補の二人もオレが(のが)したから分かるとしてー。何でこの二人は術にかからなかったんだろー?』

 間延びした声が、アンヌには耳障りだ。しかし、姿を現したレキは、たいていが幻影なので、殺せない。

 しかし、一つだけ、良いことを聞けた。

「玲奈、優一」

 二人に声をかけ、頼み込む。

「私は白虎を守るから、あなた達で行って」

「えっ」

 玲奈が凄く不安そうな表情を浮かべた。

「……迷いそうで怖いんですが」

「白くて大きい建物の地下。いいわね?」

「はい」

 五十嵐はもう腹が据わっているようだ。玲奈も頬を叩き、頷いた。

「善処します」

 じゃあ、と手のひらに風を送り込んだアンヌは、白虎二人を含めた四人に手を向けた。

「行ってらっしゃい!」

 膨大な風が、四人を包み、彼らを空に放り投げる。

 風で逃がしたアンヌは、つまらなそうに見ていたレキに向き直った。

「ごめんなさいね、待たせてしまって」

『……逃げたいなー、なんて思ったり』

「さっきの二人を追ってもいいけれど、一つ忠告。白虎騒ぎはガセよ」

 レキはアンヌを見て、額を叩いた。

『……本当みたいだね。ならこの戦いは意味無いし、主に言って兵を引かせようっと』

 彼の姿が揺らいでいく。

 離脱したらしい、とみたアンヌは、未だ残る異界の者たちに微笑みを向けた。

 紅蓮の炎が、彼女を中心に渦巻く。


 丘の上で、大規模な火柱が上がった。

 ロナンはそれを見て溜め息をつく。

 火柱はアンヌが起こしたものだ。ついでに先ほど同じ場所で風が爆発したのも見た。男三人に女一人が空に巻き上げられたとの情報も得ている。

 結局、アンヌは二人に託したようだ。

 そして異界の者たちが少しずつ下がっていく。異界の穴が開き、化け物が戻っていく。

 そのとき。やはりというか、何というか、

「高い高い高い高い高い高い高いーッ!!」

「ムリムリムリムリムリ吐く吐く吐く吐く吐く吐く吐くッ!!」

 空から大絶叫が聞こえてきた。


 玲奈と五十嵐は、異界の中に突っ込む自分たちを想像しつつ、風いっぱいの空の旅に涙を流していた。

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ……」

「リョクごめんな、手紙書く間も無かったわ!」

 まず、勢いを殺がなければ地面に激突して死ぬ。運良く生きていたとしても、周りは異界の者でいっぱいだ。

 生きる方法は、たった一つ。異界に入って逃げるのみ。

「五十嵐、できるだけ口閉じろ! んで、奥歯食い縛れ!」

 高所恐怖症の五十嵐を引き寄せて、魔剣を抜く。

 一度だけ、遊びで使ったことがある技だが、またこんな一世一代だろうと思う事態に使うとは思ってもいなかった。

 ということで、一撃。

 地面に向かって、風を打ち付ける。勢いを減らして、今度は横に風を送る。

「行くでえ優一! 異界の旅!」

 反動で、二人は異界の穴に突っ込んだ。


 天幕にいた玖楼は、空から白虎に偽装していた二人が降ってくるのを見て、溜め息をつきつつ水を出し、二人が地面に衝突する前に保護した。

 先ほど、異界の穴に突っ込んだ玲奈と五十嵐も確認している。

 二人、否、バジルを含めた三人の安全を祈るばかりだ。


 異界の穴に突っ込んだ二人は、黒髪の青年の前を突っ切ってどこやら分からない壁に激突した。

「いっつー……」

「高かった、高かった!!」

 ガタガタと震える五十嵐をよそに、玲奈は青年を見て剣を構える。

 青年は無言で異界の穴と二人を見て、ぽつりと呟いた。

「……異界に新規加入の方ですか?」

「イヤイヤ違うから! てか新規加入って何!?」

 とりあえず否定してから、多分敵なのだろうがよく分からない異界の道を説明してほしい青年に問いかける。

「白い建物の地下ってどこにあるか知ってる?」

「白い建物はここしかありません。そして地下は言いません」

 プイとそっぽを向く辺り、そこにバジルがいるのは本当なのだろう。

「そしてあなた達は帰りなさい」

「バジルって言う子供を連れて帰りたいんや。で、そいつが地下におるとも聞いた」

 正気に戻った五十嵐が、ごそごそと懐を探している。槍の代わりに短剣を持ってきたらしい。そういえば、五十嵐は二十メートル以上の短剣を持てない。

「本当?」

 青年はまたむっとした表情になる。

 その顔を、玲奈は昔国王に見たことがあって。その時彼は妬いていて。

「まさか……バジルに惚れてる?」

 五十嵐の口がぱかりと開いた。青年が唖然と腕を下ろした。

「……どこをどうしたら、そのような結論に至るのか、全く見当がつかないのですが」

「女のカンや。ホンマやろ?」

 青年は目を泳がせてその、と小さく呟いたあと、顔を赤くして勢いよく脱走した。

「…………」

 五十嵐の視線が白い。どこか彼を傷付けたことを攻められているようで、玲奈も無い胸を押さえてみた。

「……ま、敵も去ったみたいやし、ええやん」

 二人は歩き出した。


 歩き出して長時間経ったと思うのだが。

 二人は迷っていた。

 白い壁しかない。どこを歩いているかなども知らないし、地下にあたる階段も見つからない。

「五十嵐……真剣に出れる気がしない」

「最悪、お前の剣で壁を破壊するしか方法は無いだろ」

 しかしそれだと間違いなく異界の者に気付かれるので、その方法は最後までとっておくと決める。

「魔法で迷わされてるとか?」

「……あり得るから余計怖いんだが」

 元気が無くなりゃ、会話も無くなる。

 そんな格言が思い付く今日この頃。

 と、五十嵐が不意に立ち止まった。

「優一?」

「今……少し、風を感じた」

 風、つまり外。

「どこ!?」

 五十嵐が手探りで壁を辿っていく。

「おわっ」

 一面だけ、壁があるのに手がすり抜けた。

 二人で顔を見合わせて、一言。

「出口、だな」

「出口やな」

 二人は飛び出した。




異界にはアンヌ、五十嵐、玲奈で行くつもりだった様子。

でもアンヌは面倒だったんでしょうね……迷うの分かってたから

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