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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第一章
33/117

ミニ危機



 子供及び少女あらためバジルは、くしゃみで体を震わせていた。

「む……何か私についてよくないことを言われている気がする」

 牢屋の外から彼女を座って眺めていた、十歳に見える少年がけらけらと笑う。

「隊長のカンってよく当たるよねー」

「隊長言うな。今は抜けた身だぞ」

神無(かんな)さんは何としても戻す気だよー」

 むう、とバジルは来ては勧誘する、黒い髪の青年を思い浮かべた。少年は間延びする声で、尚も言い募る。

「主もまだあの座を空けたままにしてあるしー、オレ達も隊長が一番仕事やりやすかったしー。ねー、何でまたアンヌ・ホーストンなんて偏屈女についてったのさー?」

「五月蝿い。私はアンヌ様に惚れたんだ!」

「嘘つきー神無さん好きなくせにー」

「私があいつを!? そんなわけないだろう」

「酷い言われようだと思いますが」

 不意に入ってきた声に二人で顔をそちらに向けると、話題の青年こと神無がしかめっ面で立っていた。

「わー、噂をすれば影がさすって本当なんだー」

 バジルが僅かに慌てる前で、少年がのんびりと言い放つ。少年は彼らの中で一番マイペースなのだ。

「馬鹿らしい噂を立てないでください。それとレキ君、主が呼んでいます」

「本当みたいだけど、単にここから追っ払いたいだけでしょー?」

 そしてもう一つ。レキこと少年は、彼らの中で唯一、呪いを攻撃手段としており、言霊などを扱っている。

 レキに嘘は通じない。

 それを見越してのようで、神無は動じることもなく、出口を指した。

「分かっているならさっさと出ていって下さい」

「はいはい、お邪魔ムシは退散致しますよーだっ」

 レキはぴょこんと立ち上がり、出口に歩いていく。

 出口の手前で彼は振り返り、にやりと笑った。

「隊長は初めてだろうし、控えめにね? 神無さんドSだから泣かせるの大好きだろうけど」

「はいはい」

 神無は面倒そうに言い、レキは出ていく。バジルには訳が分からない。

「おい神無、さっきのはどういう意味だ? 私が関係しているようだが、泣かせるとは……おい!?」

 神無が牢屋の鍵を開けて入ってきた。じっとバジルを見ている。

「な、なななななな」

「な、を七回ですか。冗談のつもりかもしれませんが、寒いですよ」

「違うッ!」

 バジルは足の錠にあくせくしながらも後退する。

「な、何をする気だ」

「んー、子供作り? 私に惚れたら隊長に戻ってくれるかな、なんて思いまして」

「なんじゃそら」

 下らない理由にバジルは後退を止めた。

「子供を作る方法は知らんが、やめとけやめとけ。子供では私は縛り付けられんぞ。それにお前に惚れるなど論外だ」

 気のせいだろうか。神無の目が爛々(らんらん)と輝き出す。

「子供作りを知らない?」

「当たり前だ。お前らがそういう教育をしたことがあったか?」

 彼の口元が、にやりと上がった。

「か、神無?」

 神無は応えずにじりじりとバジルに近づいている。バジルも後退したいが、ついさっき壁に背中がついたところだ。

「ま、待て。何だその玩具を見つけたような顔は。話し合おうではないか、人間は平和になれる生き物ッ!?」

「生憎ですが」

 一瞬で距離を詰めた神無が、壁に手をつきもう片方の手でバジルの髪をすく。

 彼は、極上の笑みで笑った。

「私は悪魔ですので。実力行使に訴えかけることに致しましょう」



 不意にアンヌが微妙な表情を浮かべる。

「バジルに危機……のようだけど、命に危険があるわけでは無いものが迫っているみたい。どういう意味かしら?」

「分からんものは仕方が無い。話を戻すぞ」

 玖楼が再び地図のある地点を指す。そして側で話を聞いていた玲奈、五十嵐に顔を向けた。

「聞いたの? 二人には紅蓮と共に異界に行ってもらう。方法は先ほど言った通りじゃ。帰りは紅蓮が道を知っておる」

 ちなみに紅蓮とは、アンヌのことだ。

 異論は無く、二人も頷く。

 ロナンが将官を呼ぶ。玖楼が病院の手配を始める。アンヌが情報工作を始める。

「作戦開始、みたいな?」

 玲奈がぽつりと呟いた。


 半泣きのバジルを組み敷き、服を脱がせたところだった神無は、頭の中に響く声に眉を潜めた。

「面白いところだったのに」

 平常の彼女なら面白いわけがあるか! と怒鳴り返してきそうだが、現在バジルは初めての体験に固まっている。

 諦めて彼女から降りた神無は、脱がせた服を回収して別の服を渡した。

「それを着て下さい。彼が現れる前に」

 わたわたと言われる通り着たバジルを見つつ、側に現れたレキを睨んだ。

『邪魔してごめんねー』

「邪魔だと思うのでしたら、幻影など寄越さないで頂きたい」

 宙に浮く彼は、レキが遠くから魔法で作り出している幻影だ。斬ることも触れることもできない。

 彼はけらけらと笑ったのち、ひっそりと笑いを収めた。

『何かね、白虎が現れたみたいなんだよー』

「……白虎が?」

 雷の使い手。その者が組織に加わってしまうと、異界はとても強力な敵を得ることになる。

『だから、そいつを不意討ちで殺せって。主からオレへのお願い』

 きゃっきゃっと嬉しそうに言うレキ。

『で、神無さんは異界に居てほしいって。主、何か考えていたみたいだしねー』

「分かりました」

 じゃーねと消えるレキに手を振りつつ、神無はバジルを見る。彼女も何か考えているようで、それは恐らく混乱に乗ずるためのものなんだろうなあ、と彼なりに警戒する。

「おい神無」

「どうされましたか?」

「色々と言いたいことはあるが、まずは」

 バジルは神無を睨み、着ていたゴスロリを指した。

「もっとまともな服を用意しろ!」




お久し振りです。更新が遅くなって申し訳ありません。



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