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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第一章
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憤慨


 玲奈に支給される部屋は追って連絡するとして。

 アンヌは要所を巡って案内した。ちなみにロナンが面倒がって話さなかった重要な点もかいつまんで説明しておく。

 ここ、世界防衛機構は資金も潤沢にある……わけもなく、資金調達の為に、組織から異界戦闘を頼まれた個人がその世界でギルドやらを使って金を稼ぐこともあるという。ついでに、薄給だ。

「…………」

 玲奈の目が白い。少しは自分にも非があると罪悪感を感じていたアンヌは明後日の朝日を映すのであろう窓を眺める。

「……アンヌさんよォ」

「……こ、心なしかちょっと口調が変わっている気がしないでも無いのだけれどっ!?」

 ちょっとビビって下がると、玲奈はその分の二倍、歩みを速めて近付いてきた。

 アンヌとしては、彼女に浮かぶ、青筋の入った笑顔が怖い。

「ここって多分一世界まるまる独占してるンやんな? つまりは未開拓地なわけやろ。それで発掘したら財宝とかも取れて、それが別世界ではレアもんで高く売れてやな。それで組織の経営とかしてるんやろうなー、とか思っとったわけや。そらな、見てる限りでも大勢の人が行き交いしてるわけやし、世界防衛機構は(やと)てる人間の食いぶちあげてるようなもんやからな?」

 だん! と乱暴に踏み下ろされた靴音に、周囲の人間がぎょっと玲奈を見る。アンヌは飛び上がる。

 玲奈の目が炎を帯びていた。

「やのに、この体たらくは何や、えェ!? 昔から人間ちゅうもんは良くも悪くも財力と夢、この二つに群がるんや! この組織が異界の化け物討つやの主倒すんをスローガンに掲げてる、それはええ。でもその夢に望みをかける人間に何の恩赦(おんしゃ)も無いんはおかしいと思わんのか!」


 ざわざわ、ざわざわ。

 おい、あの白衣の女性はかの有名なアンヌ・ホーストン殿ではないのか?

 しかし怯えて縮こまっておられるぞ。

 あの大喝を入れている女は誰だ?

 しかも訳の分からん言語だな。

 ちょっと待ってろ。通訳連れてきてやるから。

 アンヌは見物人が右往左往する様を少し涙目で見ていた。出来ればそのまま立ち去ってほしい。が、そんな期待をよそに、一人が通訳らしい者を連れて戻ってくる。

 通訳が玲奈の言葉を説明すると、彼らはおおっ、と皆歓声をあげた。

 あの女、良いヤツだな!

 あのホーストン殿に物申すなんて!

 俺補給部隊なんだよ、彼女どこの班にいるのかな、彼女の班には常に絶品を届けようじゃないか!

 いや待て、それは職権乱用だろ。

 わいわいと騒ぐ彼らの言葉を聞いて、アンヌは口を引き締める。

 そして呆れたように彼女を見下ろしていた玲奈に、問い掛けた。

「……玲奈。あなたはどうやって資金を稼ぐつもりなの?」

「とりあえず、やな」

 玲奈はふむと唸ったあと、騒いでいた見物人達を指差す。

「やっぱり班みたいなやつ……団体行動が基本になるみたいやしな。だからその団体で、代わりばんこに少しずつ組織周辺の生き物やら草やらを摘んでいく。歩き回るだけでも足の筋力はつくし、危険な生き物に会えたらラッキーやと思え。あたしの経験からして危険なヤツほど珍しいパーツが多い」

「パーツ?」

「重宝される部品。草やと根っことか葉っぱとかやし、危険な生き物やと牙とか爪とか鱗とかやな。商人に見せたら買い取ってくれる。何でも回復薬やら盾やら剣やらの一部になるらしい。ちなみにあたしらが遭遇した中で一番ヤバかったんは火蜥蜴(ひとかげ)や」

 あたしら、という単語にアンヌは反応してしまう。

「あたしら?」

「……はい」

 今更ながら敬語を思い出したらしい。

「武士団で時々、山奥から人里に降りてきて家畜食うヤツらの退治してたんです。それでとれたパーツを、国境なんぞと関係無く動き回る商人に売り捌いてですね。あーでも一回傭兵に変装して、ちょっと遠くにある国の朝市で売り出したかな? それのお陰なんですよ、武士団が強かったのは。その分給料上げられるわけやし、その分団員も強い武器に鞍替えできるし」

 まあ、彼女は彼女なりに、色々と苦労したらしい。

「やっぱり、生き物も生存本能みたいなんがあるみたいで、どんなヤツでも団長からは逃げるんですよ。で、それを副団長が弓で射て、ですね。それを、みんながかいしゅう、して……」

 そしてやはり、玲奈に昔話はまた苦しい。見ていても苦しく、辛いものがある。

 彼女はうー、と唸ってから、ぼろぼろと涙を流し出した。アンヌは彼女が収まるまで、ずっとその場で頭を撫で続けている。


 ずぴーと鼻をすすり、玲奈がすみませんれしたと舌足らずに言うのを聞いて、アンヌはやっと彼女の目線に顔を合わせるよう、膝を曲げた。

「とりあえず。貴方が恥だと思う前に、言っておくわよ」

 何が、と無理に笑おうとする彼女の鼻を突く。

「泣くことなんて、恥でも何でもないから」

 玲奈の、表情が、強張った。

「強く在ると決めた結果なのかもしれない。武士団の誰か、もしくは鈴無の誰かに言われたのかもしれない。けれど、泣くことを止めてそれを心に閉じ込めてしまったら、それはやがて貴方の心を蝕み殺す。だから、ちゃんと思い出して泣いてあげないと駄目なのよ」

 口元を引き結ぶ、しかしその口がわなわなと震えている。

「……はい」

 葛藤もあるだろうと苦笑を浮かべたアンヌはさて、と本題に話を移した。

「優一について、少しばかりあなたに聞いておきたいことがあるのだけれど。いいかしら。ついでに場所も変えるわよ」

 玲奈から警戒が伝わってくる。

 やはり、彼には何かある。

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