青い髪と黒い彼・2
ロナン、国王、玲奈が階の状況を捜索していると、瓶を抱えたアンヌと彼女に襟首を掴まれた五十嵐が現れた。
「喜びなさい、朗報よ」
そう言ったアンヌが瓶のコルクを抜くと、瓶のなかから出てきた光がベッドに乗り、大量の死体に変わった。
「さすがはアンヌさン!」
手を叩いて喜ぶロナンを無視して、玲奈は死体を見ていく。
やがて足を止めた彼女は、呆然と呟いた。
「親父殿のご遺体が、無い……!」
プレイフルとレティサンスはほうほうのていで異界に逃げ出していた。
「怖かった怖かった怖かった怖かったポマードポマードポマードポマードポマード……」
ガタガタと震えるプレイフルの前に、男が立つ。巨大で、黒いコートを羽織っている。
「遅かったな」
「だって、あのアンヌ・ホーストンに襲われたんだよ!? 命があってよかったじゃないか! アレか、俺は強いんだみたいな自信かコンバット!?」
「済まん済まん俺が悪かった」
食って掛かるプレイフルにコンバットと呼ばれた男は苦笑ののち、コートを脱いだ。
そこにあったのは、四本の腕。
そのうちの二本がレティサンスとプレイフルに、それぞれ差し伸べられる。
「行くか。主がお待ちだ」
玖楼はどこから二人が侵入したのか、そのルートを突き止めていた。その道は塞がれていたのだという。
「儂らにその道を逆に辿られたくなかったのじゃろう」
話を打ち切った玖楼は、落ち込む五十嵐と国王と玲奈の肩を叩いた。
「あ奴らの名は割れておる。髪の碧い男がプレイフル、全てが黒い男がレティサンスと言ってな。どちらも生まれて十年少ししか経ってはおらんが、戦闘能力には目を見張るものがある。気にする必要は無い」
「でも……」
玲奈は第一撃に反応できなかった自分を恥じて。国王は牽制しかできなかった自分を恥じて。五十嵐は戦闘に参加すらできなかった自分を恥じて。
悶々とする彼らに苦笑を向けた玖楼は、やれやれと呆れたように、しかしどこか楽しげに三人を眺めるアンヌに視線を向ける。
玲奈と五十嵐を組織に入れろ、というのはアンヌの指示なのである。
彼女が何を考えているのか。水、ひいては透視等の巫女行に秀でる彼にも読めない。
「……兎に角。泥棒も去ったようじゃし、色々と説明に行こうかの」
玖楼がそう言うと、三人は慌てて頷いた。
「リョク殿は朱雀に、鈴無は紅蓮に、五十嵐は儂についてきてもらおうかの」
頷いたが、知り合いがいなくなるというのは心細いものらしい。特に国王の広い背中が落ち込んでいた。対して玲奈はわくわくとアンヌの隣に並んでいた。
「……どこの世界でも強かなのは女じゃのう」
「橘殿?」
いつの間にか側に控えていた五十嵐に済まんと言い、二人も足を進める。