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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第一章
28/117

青い髪と黒い彼・1


 突如パン、と大きな音が鳴り、国王、玲奈、五十嵐はもちろんロナンと玖楼も飛び上がった。

 手のひらを思い切り合わせて音を立てた張本人のアンヌは、薄い笑みを浮かべる。

「交渉成立、でいいわね」

「はい」「ああ」

 二人の首肯を確認した彼女はじゃあ、と床を指した。

「早速戦ってみましょうか。一つ下の階に侵入者、もう少し細かく言うなら墓泥棒よ」

 玲奈の口元から感情が消える。

 彼女は玖楼の執務室の窓を開けて飛び降りた。

「!?」

 アンヌらが呆然となる側で、五十嵐と国王が溜め息と共に呟く。

即決判断(そっけつはんだん)はあいつの良いところだが……」

「うむ。あれは何度見ても胃が縮むな」

 それで、と国王は暢気に尋ねた。

「正規の道はどこにあるのだ?」


 玲奈は窓から飛び降り、一階下の部屋の窓ガラスを足で蹴り割って中に押し入る。

 着地した彼女は、廊下の惨状に眼を見張った。

 床が血で赤い。しかし死体が、一体も落ちていない。

 突き当たりの扉を刀で切って開けると、二人立っていた。

「あー。まだ残ってたんだ」

 そう言って腰に手をやった青年。髪が碧く、眼が黄色に輝いている。玲奈は爬虫類を連想した。首元にスカーフを巻いている。

 その隣の大柄な男性。髪も眼も服も黒い。

 男性が腰を低くしたのを見て、青年がこらと彼の頭を叩いた。

「死体にキズ一つ付けないように、って主に言われたでしょ? レティが暴れちゃ駄目なの」

 青年の言葉で玲奈が反応した単語は二つ。

 死体と、主。

「……あんたら、異界の(もん)か」

「大当たり」

 青年がへらへらと笑う。

「色合いはともかく、隠すとこ隠したら人間に見えるでしょ? だから主に死体持ってこいって頼まれてさ。ここなら能力者もいっぱいいるし?」

 玲奈の首の真横を、ナイフが通り抜けていく。硬直した彼女を他所に、青年は短刀を構えて笑みを浮かべた。

「雑談、長すぎたね。新入りさん?」

 明確な殺意を浴びて、玲奈は少し嘲笑う。

 ナイフを投げつつ、青年が飛びかかってくる。しかし。

「遅い」

 玲奈は必要最小限、彼女の体に当たるものだけを弾いて、青年と剣を合わせた。

 もちろん、愛用の魔剣でだ。

 青年は玲奈を面白そうに眺めた。

「ここに入ったのは新入りだけど、戦には慣れてます的な人だったんだ」

 副団長に、矢で何本も射てもらったこともある。団長に、稽古(けいこ)で投げ飛ばされたことも、剣を合わせたこともある。

 玲奈はにっと笑った。

(あなど)ったらあかんで」

 青年は眉を潜めたが、魔剣が巨大化したのを見て、ぎょっと彼女から離れた。

 玲奈は叫ぶ。

「伏龍封雛!」

 叫んで、振り下ろす。竜巻が二人を切り裂いた。

 しかし二人は、動じなかった。

「ひゃー怖い」

 青年が竜巻で千切れた左手を眺めながら言う。

 まさか、痛みを感じないのか。

 そして男性は裂けた肩を回し、眉を潜める。口は一度も開いたことがない。

 そしてその二人を、今度は炎で出来た鎌鼬が襲った。

 玲奈が振り返ると、ロナンが鉄扇(てっせん)を広げている。扇の端から火の粉がはらはらと舞い落ちる姿は、どこか妖艶さを身に纏っていた。

「ご無事ですネ?」

 その後ろから国王が火の玉を飛ばし、二人に勝手な動きをさせないよう牽制している。

 ロナンは青年を睨んだ。

「遺体を返しなさイ」

「ヤだね」

 舌を出した青年と男性の周りを、黒い渦が包む。

 渦が消えたとき、二人は跡形もなく逃げ去ったあとだった。

 玲奈が顔を歪める。

 持ち去られた遺体のなかに、鈴無当主の遺体があるのだ。


 五十嵐を引き連れたアンヌは、突如現れた黒い渦を容赦なく炎で(あぶ)った。地獄の眺めかと思いながらも、五十嵐は眼を離すことができない。

 渦が消え、咳をする二人の男が現れた。若い方がアンヌを見て、表情を強張らせる。

「やべ」

 アンヌが柔和に笑う。しかし五十嵐には彼らに対する死刑宣告の笑みに見えた。

「考えなんて読めるのよ。(わっぱ)どもが」

 青年が身動ぎして、スカーフを落とした。首元に生えた爬虫類の鱗が、鈍く光る。

 目を丸くした五十嵐をよそに、アンヌは大きい方の男の鳩尾を蹴り上げた。

「が……あ!」

 男の悲鳴と共に、口から光輝く何かが出てくる。アンヌはそれを自分の手のひらに集めて、瓶に流し込んだ。

「あと数体の遺体が出てこないわね……切り刻んでみようかしら」

 怖い。五十嵐は異界の二人よりアンヌの方に恐怖を感じた。殺意に(さら)された二人は真っ青になって、両手を突き出す。

 ぼん、という何かがはぜる音と共に二人は逃げ出した。

「逃げたか。優一、帰るわよ」

 五十嵐はガタガタと何度も頷いた。


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