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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第一章
27/117

組織について


 国王の言葉にロナンが男性を向く。

 黒い長衣を着込(きこ)んだ男性は頷き玲奈、五十嵐に歩み寄り握手を求めた。

「橘玖楼と申しますじゃ」

「鈴無玲奈と言います。こちらは五十嵐優一です」

 玖楼の髪は黒々としており、白いものも混ざっていない。

「……失礼ですが、その口調は……?」

「少し訳がありましてのぅ。話すと長くなるので、またの機会にお話しようかの」

 彼はそう言って、アンヌを見た。

紅蓮(ぐれん)よ、ここの話はしたかの?」

 どうやらアンヌは玖楼に紅蓮と呼ばれているらしい。

「まだよ。……ロナンの勉強不足。もしくは語彙不足」

「ほほう?」

「うっ」

 ロナンが目を逸らす。玖楼は苦笑ののち、優しく微笑んだ。

「何事も挑戦じゃ。説明してごらん」

「…………」

 ロナンは頭を抱える。

 玲奈と五十嵐は直立不動(ちょくりつふどう)の体制で待ってみた。


「……組織ハ」

 どうやら話す気になったらしい。自棄(やけ)に入った彼女は、玖楼が座っていたロッキングチェアの背後にかかる幕の模様を指した。

 円の中に凸と書かれ、それを大きくXしてある。

「世界防衛機構、通称WDOと名乗っていまス。ざっと二千年程前に建てられた組織で、当初の理由は世界と世界の間で行われる揉め事を処理する、というものだったのですガ……」

 ロナンが玖楼に質問の意味を含めた目線をやり、彼が頷く。

「裏、本来の理由は、異界と呼ばれるある異世界から世界にもたらす侵略を防ぐ、というものじゃった」

 玲奈がはっとした。

 五十嵐が手を挙げる。

「異界について、詳しく教えてください」

「……世界が生まれた頃からあり、世界が壊れないように保護し、また破壊者を始末する役目を担っていたと聞いていまス。ですが近代の異界のリーダー、つまり主が私利私欲(しりしよく)に願いを叶えるために異界を利用するようになっタ」

 それが異界、とロナンは困ったように微笑み、話を組織に戻した。

「組織は四人、もしくは五人の人間が頭として構成されていまス」

朱雀(すざく)白虎(びゃっこ)青龍(せいりゅう)玄武(げんぶ)と呼ばれておる。最後の五人目は麒麟(きりん)と呼ばれておるが、現れたことなど無いの」

「ちなみに私が朱雀、玖楼殿が玄武でス」


 玖楼が錫杖を見せる。杖の先端が亀の甲羅のようになっていた。ロナンは鉄扇を取り出すと、扇の一枚一枚が赤い羽になっている。

 確か、玄武は亀、朱雀は鳥だった。


 よく分かっていない二人にロナンがむむ、と口を尖らせる。

「この四人は、それぞれお宅のリョク殿のように力を持っていまス。朱雀が炎、白虎は雷、青龍は木、玄武は水。ついでに麒麟は土。それぞれの属性の中で、最も攻撃に適した力を持つ人間が選出されているようでス」

 また、と彼女は力について補足した。

「力とは、一般的に超能力、魔力とも呼ばれるアレでス。大きく分けて風、炎、水属性があって、木や雷、土など他にも属性はありまス。人間の中でも力を持つ者もいれば、五十嵐君のように持たないものもいますし、逆に二つ三つ力を持つ者もいます」

「しかしじゃの、玄武は一定期間修行に身をやつした水使いが、朱雀は幼い頃異界に遭遇しなおかつ倒した炎使いが、白虎は王族に生まれた雷使いが、青龍は血縁と思い定めた者を殺した木使いがなると言われていての。雷使いと木使いは滅多に現れん。さらに王族だの殺人だのと条件をつけられては、発見など出来ん」

 五十嵐はとりあえず、言ってみた。

「……人材不足ですか」

「はイ。最近は炎使いや水使いでさえあまり見掛(みか)けなくなってきテ。だからアンヌさんはとても貴重なのですヨ。炎も風も使えますから」

 笑顔が苦しい。五十嵐はちらりと国王を見た。ちょうど同じことを思ったらしい玲奈が牽制する。

「……陛下はあげませんよ」

「さすがにそんな殺生な真似はしませン。ですが私達としては……」

 ロナンは五十嵐と玲奈の肩を掴んだ。

「あなた達の方が魅力的ですネ!」

 五十嵐は固まる。玲奈は言葉を失う。

 彼女は茶目っ気たっぷりに言ってみせた。

「うちで働きませんカ?」

 国王が叫んだ。

「なに―――ッ!?」



 何やら上が騒がしい。

 プレイフルは天井を睨んだ。確か上の階に、組織の首脳陣(しゅのうじん)がいるはずだ。

 ならば上の階に行って彼らを殺せばいいと思ったが、彼はアンヌと呼ばれる人物に勝てる自信が無い。

 諦めて棺室の扉を開けたプレイフルは、ついてきたレティサンスを中に入れ、棺室の扉を閉める。

 棺室には、様々な遺体が安置されてある。

 二人が命じられた仕事は、そこの遺体を全て回収すること。

 レティサンスには能力が備わっている。口に何でも吸い込み、また、その物体を持ち運びできる。もちろん吐き出すことも。

 自分まで巻き込まれてはたまらないと外で待っていたプレイフルは、中からのノックに扉を開けた。

「終わった?」

 彼が何度も頷く。確かに、置かれていた遺体が全て無い。ちなみにレティサンスは話せない。

「じゃ、帰ろっか」

 そう言ったプレイフルはふと思いつき、にやりと笑った。



 国王の叫びに二人の硬直が解ける。まず、玲奈がロナンに食って掛かった。

「どういう意味や!? あんさんら、丹洪の状態分かってて言っとんのか!?」

「だからこそ、でス」

 (なだ)めようとする彼女の横で、五十嵐は玖楼に尋ねている。

「何故俺達を?」

「落ち着くのじゃ」

 国王を含めた三人が唸りながらロナンと玖楼を睨む。とりあえず静かになった彼らに、玖楼が説明を始めた。

「まず、お前さんら丹洪の実状じゃが。武士団はお前さんらと須王以外、全滅じゃ。更に紅蓮があ奴らを王都に閉じ込めたせいでの、近衛兵とお手伝いやら以外、城におった輩は全滅しておる」

 怪訝な顔になった五十嵐にアンヌが説明を付け足す。

「近衛兵とメイドを鈴無の家に転移させてから、王都全体を囲うように結界を張ったの。国王さんがここに送られて、バジルが拉致られたあとで、爆発させておいたわ」

 さらりと不穏な内容だったが、質問の前に玖楼がさて、と膝を叩いた。

「恐らくじゃが、黒狼を拉致り、須王を負傷させたあ奴らが次に狙うのは、リョク殿の亡骸と鈴無当主の遺体と丹洪のある世界じゃ。しかしながら、主戦力が壊滅(かいめつ)した状態であ奴らに勝てると思うか?」

 自国と王が狙われていると聞いて、青ざめない人間がいるだろうか。ましてや彼女ならば。

 玲奈の顔が青を通り越して白色になったのを見て、五十嵐は玖楼に問う。

「何が言いたいんですか」

「組織の兵力を、丹洪に貸し出そう」

 ただし、と彼は五十嵐と玲奈を指した。

「鈴無玲奈及び五十嵐優一。この二人を組織に入れる。丹洪に帰還できぬようにな」

 絶句した二人を見やり、国王が口を開く。

人身御供(ひとみごくう)か?」

「近いのぅ」

 玖楼はふぉっふぉっふぉっと笑ってから、二人に笑みを向けた。

「五十嵐の方は力が何も備わっておらんようじゃが、戦力では頼りになりそうじゃ。鈴無も力は判明しておらんが、強そうじゃからのぅ」

 玖楼の僅かに白い瞳に、見据えられる。

「どうする?」

 玲奈にためらいなど無かった。

「組織に入ります」

「玲奈!?」

 国王と五十嵐がぎょっと彼女を見る。

 国王が玲奈の両手を握った。

「いいのか!? 戦闘に駆り出されること間違い無しだぞ! さらに丹洪に戻れないとなると……鈴無の家は誰が継ぐのだ!?」

「親父殿の弟さんがご存命や。あの人にあたしから文書くから」

 国王は握る手に力を込める。

「……玲奈と会えなくなるなど、俺は嫌だ。それに、この様子では、結婚など夢のまた夢ではないか……」

 アンヌがおや、と声を溢した。

「玉の輿だったのね」

「しかもどこぞのお嬢様だったようデ」

 ロナンとこそこそ話をするアンヌ、玲奈は二人とも無視する。

 玖楼が国王の頭を撫でた。

「リョク殿が組織に来られた時に、お会いになったらよろしいじゃて。さすがに結納は無理じゃが……」

 涙目の国王が鼻をすする。彼を見て、玲奈は少し微笑んだ。

「手紙、書くから」

「れいな……」

 ひしっと抱き着いた国王が、玲奈には大型犬に見える。

 落ち着いた彼が退いたのち、五十嵐が玲奈の眼を睨んだ。

「どうせお国のために、だろ。あと、当主殿と副団長の敵討ち」

 玲奈はまた笑う。

「うん」

 だぁーっ、と国王が涙を流し始める。

 子供のように泣き出した彼をなだめる玲奈は、五十嵐に手を差し出した。

「あんたも組織、入るよな? 相棒」

 五十嵐は額を押さえたのち、鼻を鳴らしてそっぽを向く。

 手は彼女のてのひらに添えたまま。


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