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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第一章
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苦戦


 国王は悪態をついていた。少女は呆れたように彼を見上げている。

「もてもて、だな」

「なんと嬉しくないモテ期だ」

 二人は手やら化け物やらに囲まれていた。

 化け物の形はそれぞれ。だが、彼らに共通しているのは、元が人間であった、ということ。人間の体の一部が変形、または別の動物の一部が無理やり合わせられている。

 (とら)の頭をした化け物が、国王に飛びかかり、首をはねられる。国王は何も動いていない。少女は剣を持たず、手袋を着た手を動かしていた。

 二人の周りに張り巡らせてあるのは、ワイヤー。その先は少女に繋がっている。

 少女は低く笑った。

「これ以上近付いてみろ。首が飛ぶぞ」

 その言葉に化け物はジリジリと下がる。

 それを見て国王は呆れ顔で少女に言ってみた。

「お前の職業は何だ?」

「今は護衛だが、昔は暗殺だったな」

「……その過程であの女性と出会(であ)ったか」

(しか)り」

 質問だが、と国王は言いながら器用(きよう)に火の玉をワイヤーの間から化け物に向かって飛ばす。

「何故奴らは俺を狙う? そしてお前が義父上(ちちうえ)……鈴無当主を背負う理由は何だ?」

 そう、少女は事切れた玲奈の義父を、背負って移動していた。

 少女は国王の問いに苦笑する。

「異界の話はしただろう。異界の主は死体を自らの手足として操る。無論、死体に命を(つく)り吹き込むことなど造作でもない。そしてお前は火の玉を扱える。この男は心が読めるのだろう」

「つまり、俺を死体にして操ろうと」

 国王は額に手をやり、がっくりと肩を落とした。

「……民が無事なのかが心配だ」

「安心しろ。恐らく、アンヌ様が結界を張られた。奴らは、王都から外へは出られないようになっている」

 少女は人差し指で手を指す。

「だから、城の者はお前以外全滅したのだがな」

 国王は苦しそうに(うつむ)いた。それを無視した少女はさて、と考え込むように呟く。

「アンヌ様は王都ごと奴らを滅するつもりだ。しかしあの方はあの(わっぱ)共と金色を連れて、逃げられたからな。然って増援はまずない」

「……絶体絶命なのではないのか?」

「だから考えている。ふむ」

 少女は国王の腕をわきで挟んだ。

「やはり、一度組織に逃げるか」

「何を……おおっ!?」

 少女が手元のワイヤーを千切った為、統制の崩れたワイヤーが暴走を始め、最前列にいた化け物達を刈る。

 さっさと別世界に移転するか、と考えた少女だが、気付いてしまった。

「……リョク、と言ったか? 丹洪国王よ」

「そうだ」

 国王に、当主の亡骸を押し付けた。

「これを持って、先に行け。バジルの使いだと言えば、待たせてくれる」

「何を……」

 国王の周りに黒い渦が現れ、国王を飲み込む。少女の方法で国王を別世界に送った彼女は、息を整えた。

 剣を抜く。

 この圧倒的な威圧感(プレッシャー)。化け物が動かない理由。

 奴が来る。

 悪寒が走り抜けたその瞬間、少女は吹き飛び、気を失った。



 不意に、完成したオムレツを口に運ぶ女性が口元を押さえた。

「アンヌさん?」

 女性の顔は青い。

「……バジルが異界の主に捕まったわ」

 衝撃のなか、一番始めに口を開いたのは団長だった。

「……他の人間は?」

「王都にはもう、生きた人間はいない」

 玲奈がまさか、と悲鳴をあげる。

「陛下は!?」

「彼なら、あの子が私の居候場所に転送したから大丈夫」

 女性はただ、と眉を潜めた。

「バジル。彼女が舌を噛みきって自害しそうだから怖いのよ」

「……自殺?」

「そう、自殺。彼にあの子は殺せないだろうから」

 女性は手早くオムレツを食べ、団長に向き直る。

「ごめんなさい、須王。あなたをここで休ませる時間はないわ。食べたらすぐに、私が居候している場所に向かうわよ」

「承知した」

 団長も食べ終える。久々の団らんとばかりにゆっくりと食べていた三人は、慌ててかき込んだ。

 その光景に、また女性は笑う。


 噂の本人は、まさに今舌を噛みきろうか思案しているところだった。

 そこに、食膳を運んできた青年が現れ、呆れた表情を浮かべる。

「……その妙に堅苦しい考え方は、相変わらずのようですね」

「たかが十年ごときで変わる訳がなかろう」

 牢に閉じ込められ、手足に鎖が巻き付いている状態でも、少女は冷静さを失わない。青年は彼女を見て、軽く舌打ちを立てた。

「もう少し柔軟な考えでしたら、こちらに戻ってもらえるかと思っていたのですが」

「もしも、の話だろう。下らん」

 切り捨てた少女は、食膳をつつき、青年をにらむ。

「毒薬など、入れていないだろうな?」

「貴方には効かないでしょう。そんな下らないこと、しかも利益が何もないことを、私がするとお思いですか?」

 皮肉たっぷりの言葉をさっくりと無視した彼女は、食膳に手をつけた。うまそうに食べる少女を見て、青年の目元が伏せられる。

「……図々(ずうずう)しいとは承知の上で聞きます。本当に、こちら側に戻っては来ませんか?」

「断る」

 簡潔明瞭に拒絶した少女は食膳を食べ終え、ごろりと牢に寝転んで目を閉じた。

「……マイペースなところも変わっていませんね」

 青年はそれだけ言って、姿を消す。

 少女はうっすらと目を開け、苦しそうに口を引き結んだ。

 青年は無理だと分かっていても、勧誘を止めない。

 昔、面と向かって言われた。異界にも私にも貴女が必要だと。離反を起こした時、最も傷付いた顔をしていたのも彼だった。

 それを首を振って、頭から追い払う。

 まだ自殺は早い。異界の主は自分を扱いかねている。脱するには、それを上手く利用するしかない。決して、また勧誘に来るだろう青年に会いたいからではない。

 しかし。

 少女は自分の手を見て、その手を染めた誰かの赤を思い出す。

 もう、自分の意に沿わない殺しはしない。



 食べ終えた三人を確認した女性は、彼らと団長を玄関に立たせ、勢いよく扉を開いた。結界が破られ、手が伸びてくる。

 女性は右手の人差し指を軽く揺らした。

「行くわよ」

 四人の周りに風が舞う。

 最後に玲奈が見たのは、女性が焼き払った手の残骸だった。

 五人は風に包まれる。


久々の二話連続投稿でした。


…前の話があまりに短かったからですが何か。

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