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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第一章
22/117

女性の忠告


「話は変わるのだけれど、緑香ちゃんが持っていた結界の護符(ごふ)は、私達が内側から破らなければ、もしくはバジル辺りが特攻というバカを仕出(しで)かさなければ、永遠に奴らを入れないで済む」

 歓声を上げかけた三人に(ただ)し、と彼女は薄く笑った。

「この家には食糧の補充(ほじゅう)があまり無い。三日も持たないでしょうけれど」

「……それってかーなりピンチだと思いますが」

「そうでもないわよ?」

 女性は玄関を指した。

「須王の回復は早いから、一日寝れば全快(ぜんかい)するでしょうし。内側から結界を解いて、奴らが突入する前に移る。そうするのが一番楽で効果的かしら」

 そう言い放った女性はただ、と緑香を見て済まなそうな表情を浮かべる。

「この家は今後全く使えなくなる上に、緑香ちゃん、貴方も奴らに目をつけられた可能性が高い。一緒に逃げてもらわなければいけないわ」

 緑香はにっと笑った。

「それくらいいいですよ! 元々この家別荘ですし、私も家出中ですから。それに、お姉ちゃんと、もっと話したいですし。一応護身術なら習いました!」

 四人は思わず黙り込む。

 始めに恐る恐る発言した玲奈は、緑香の肩を掴んだ。

「……さっきの電話はどこに?」

「危なそうなので、牛乳配達と新聞配達を止めてもらったんです」

 五十嵐はその、と緑香を見る。

「……それよりだ。両親とは仲良くするべきだと思うぞ?」

「嫌ですよあんなババアとジジイ」

 愛すべき両親に対する暴言に、玲奈ががっくりと膝をついた。

「……何があったの?」

 女性の問いに深く頷いた緑香は、玲奈を見て、怒りの声をあげる。

「玲奈お姉ちゃんのこと。自慢じゃないですけど、うち……羽栗(はぐり)はこの国では優遇されています。そのおかげで、玲奈お姉ちゃんの捜索はこの十四年間続けられています。それをうちの両親は、もう諦めて捜索届けを取り消そうって言い出して」

「妹としては許せないわけか」

 団長が納得して何度も頷くそばで、玲奈は少し目を見開いていた。

「……まだ捜索続いてたんだ」

「うん」

 玲奈は尚も何かを呟いている。

「そっかぁ……そうやんな……」

「玲奈?」

 五十嵐の呼び掛けに、彼女は苦笑を浮かべた。

「いやな、そういえばあたしって、二つの家族の中に()てたんやな、と思って」

 日本の家族と、丹洪の家族。

 異界で引き離された家族と、異界で引き合わされた家族。玲奈は日本で、妹や家族に多大な迷惑をかけていたらしい。

 そしてこれからも、かけつづけることになるのだろう。

 玲奈は緑香に向き直った。

「緑香。気持ちは嬉しい。とりあえず、本人見つかったんやし捜索打ち切ろか」

「後で電話しておくね」

 緑香はそう言ってから、女性に訊ねる。

「じゃあ、明日の朝、須王さん? が回復していたら出撃ですね」

「ええ。……とりあえず、昼食でも食べましょう」

 女性の言葉に、緑香は首を傾げた。

「昼食ですか? もう夜ですよ?」

 四人は慌てて窓を見る。確かに(とばり)が落ちたかのように暗い。

 女性がちょっと笑った。

「……これは、別世界を渡る上で注意しなきゃいけないことの一つなのよ。時差(じさ)みたいなもの。私もすっかり忘れていたけれど」

「じゃあ、夕食でいいですか?」

「そうしましょう」

 緑香はパタパタとキッチンに駆け込む。しばらくしてから、何かを切る音が聞こえてくる。

 五十嵐が立ち上がった。そのままキッチンに向かう。

「手伝おう。何をどうすればいい?」

「あっ、ありがとうございます」

 玲奈がむっとした顔になり、キッチンに駆けていく。

「優一! なーにをあんたは人の妹をたぶらかしとるんや!」

「人聞きの悪いことを言うなッ! 口が回るなら手を動かせ。それで玲奈、そこのニホンシュとやらをとってくれ」

「はいはーい」

 女性も団長も立ち上がる。と、女性は団長の額を押した。

「怪我人は見学していなさい」

「皿運びぐらい手伝う」

 団長はキッチンが見える小窓から顔を出し、やや顔を赤く染めながら、緑香に聞いてみる。

「その……緑香殿。貴方は一体何を作ろうとされているのですか?」

「オムレツでーす」

 じゃん、と緑香は卵を外郭とした料理の写真を見せた。分かった、と頷いた団長が皿やらスプーンやらを探し始める。

 それを見た玲奈と五十嵐が寝ていて下さいと叫び。

 別荘は笑いに包まれていた。


遅くなって申し訳ありません。

新年明けましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いします。

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