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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第一章
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団長の話


「奴ら……異界の生き物達は、俺に関わった人間全てを消す気でいる。副団長に化けていたあれにも言われた。武士団は皆殺されただろう。恐らく……今、近衛兵を始めとする王都が狙われているはずだ」

 そして団長は、玲奈に頭を下げた。

「鈴無。お前の父親を、助けられなかった。済まない」

 思い出したくなかったことを突き付けられて、玲奈の瞳が歪む。

 不意に、アンヌがぎゅーっと、玲奈を抱き締めた。

「泣いてごらんなさい」

 玲奈が涙を解放すると、歯止めが聞かなくなっていく。

 彼女は女性にしがみつき、ただ嗚咽(おえつ)を漏らしていた。


 玲奈が初めて人に甘えるところを見た。そう五十嵐は思い、また、それほど当主たる父が彼女にとって偉大で大切だったのか、それを思い知らされる。

 五十嵐にとって父親同然の当主がいなくなってしまった。それが、彼の心にも重くのしかかる。

 五十嵐も(こうべ)を垂れ、低く唸った。


 二人が落ち着いたのを見計らった緑香が、四人をリビングに案内しお茶を配った。

「ありがとう」

 ぐずぐずと鼻を鳴らす玲奈が、お茶をすすって目を細める。そして目をぐいとこすって、女性と団長を睨んだ。

「何があったのか、団長は何なのか。全部教えてください」

 お茶を一息で飲み干した団長が、ああ、と低く声を発する。

「全ての原因は俺だ」

 そう言った彼は、包帯を全て(はず)していく。

 外し終えた彼は、四人に背中を向け、金色の長髪をずらした。

「何があるか、見えるだろう?」

「これは……」

 緑香が、物怖(ものお)じせずに、団長のそれに触れた。

(うろこ)、ですか?」

「その認識で間違っていない」

 金髪で隠されていた場所、首の付け根から腰にかけて、背中が金色の鱗でびっしりと()()くされていた。

 彼が異常であると認識したところで、女性は団長を指す。

「彼、須王は知られないことで、その力を高めていた。この須王という名前も、丹洪ででっち上げたのでしょう」

「浮草につけてもらった。そして、俺の事を知っている者のほとんどは、俺を始神(ししん)と呼んだ」

 五十嵐が首を傾げる。

「シシン、ですか?」

「そう。始まりの神と書いて、始神」

 女性はうっすらと笑った。

「全世界を始めに創った神だものね」

 うわぁ、と緑香が声をあげる。

「うちで言う、創竜神なんでしょうか!?」

「そうとも呼ばれていた」

 面倒そうに答えた団長はさて、と話を元に戻した。


「まず世界とは何か、定義を立てるとするか。世界とは、ビー玉だ。ビー玉の中に宇宙があり、銀河があり、太陽系があり、地球があり、俺達がいる。そういうものが、他にもごまんと存在している」

 団長は偶々(たまたま)そばにあったビー玉を手にとり、宙でもてあそぶ。

「そして神が世界を(つく)ると、何かしら神はその創った世界の所有権を得ることになってしまう。世界は所有されることで安定して、存在できる」

「しかしその神が倒れたとき、世界は不安定になって、消滅してしまうの。そして世界が消滅するとき、(そば)にある世界に大量のエネルギーを()き散らす。そのエネルギーを、異界の主は欲しているのよ」


 女性の説明に、聞いていた玲奈が恐る恐る手をあげる。

「すみません。でも団長が全世界を創ったんでしょう? 団長がその……倒れたら、異界を含めて全部消えて亡くなるんやないですか?」

「そこに、異界が異なる世界である所以(ゆえん)が隠されているんだな」

 玲奈の質問に団長は溜め息をついて、コインを手にした。

「異界はよく、コインの裏に例えられる」

「裏ですか? じゃあ表は?」

「世界だ」

 簡潔な答えに、玲奈、五十嵐、緑香の三人で顔を見合わせる。

 それを見越した団長は、さて、とコインとビー玉を掲げた。

「よくゲームで反転世界、とやらがあるだろう。それと考えていい。表である世界から、何らかのきっかけがあって、裏の異界に迷い込む。そして世界は繋がっていないが、異界は繋がっている」

「玲奈が良い例ね」

 女性に言われて、やっと納得した。

「あの紅い世界ですか!」

 女性はくすりと笑う。

「そう。あれが、異界。玲奈の場合、異界の化け物に悪戯(いたずら)半分で手を掴まれて、川に落ちちゃったでしょう? それが、きっかけ。そして異界を歩いたことで世界を渡って、丹洪に出てきた」

 五十嵐がはっと背筋を伸ばした。

「では、その中で異質だった白髪の男性、彼が」

 団長が重く頷く。

「異界の主。手や副団長に化けたあれなど、全てを操る異能者。そして異界の所有権を持つ者」

「須王、話が逸れているわ」

「済まない」

 団長はふいと頷き、指を立てた。


「このように、異界は裏を担当するように思える。しかし……ここが異界と他の世界が一線を()するところだな。もし、異界以外の全世界がなくなったら」

 団長はコインを割り、ビー玉を指で弾く。

「異界は異界の世界の一部を、表に出すことができる。それで、異界は消えなくとも済む。さらに、異界の所有権は俺には無い。だから、俺が死のうが死なないが、異界の存続に関係はない。まあ、所有権は俺以外にも持っている奴がいるがな」


 話し終えて、沈黙が辺りを支配した。

「……えーと」

 玲奈がぼそりと呟く。

「異界ってかなり厄介なんですね」

「そうよ。だから()めあぐねているの」

「それに、異界に入る方法が限られていて、それらは全て異界の主が握っている。だから迷い込む他、異界に忍び込む方法が無い」

 余計、異界ってやつが危ない者の城に思えてきた五十嵐である。

 ならば、異界の主をどうにかすれば良い。

「……その、異界の主と和解する手立ては無いのですか?」

「面と向かって死ねと言われたな」

「せめて交渉に持っていって、……汚いですが、会談の際に不意打ちで殺すとか」

「主は何て言ったかしら……まあいいわ。あだ名がつくぐらい強いの。それに用心深くて、誘いにも一切(いっさい)乗ってこない」

 玲奈は苛立ったように声をあらげた。

「だから八方塞(はっぽうふさ)がりですか」

「そう」

 女性はさて、と言うと庭を指す。


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