来てみました
玲奈はまた渋い顔になっていた。
気が付けば武士団の自分の部屋に寝かされており、側で五十嵐と、彼女を気絶させた女性がやいやいと騒いでいるのだ。
そのくせ彼女は副団長が顔を覗かせると、素早く玲奈の布団に潜り込んで隠れる。
来た理由が「気絶した玲奈が心配になったから」なのだから、追い返すのも少し気がひける。
そんな、アンヌと名乗った謎の女性。
「そういえば、なのだけれど」
もそもそと玲奈の布団から顔を出したアンヌは、玲奈を見上げた。
「玲奈あなた、この国の生まれじゃないでしょう」
「え」
五十嵐も玲奈も、驚きを隠せない。
「何で分かるんですか?」
五十嵐には昔話した。アンヌはへにゃりと笑い、玲奈の額を突いた。
「だってあなた、魔法の素質あるもの」
「マジですか!?」
喜ぶと、彼女は亜麻色の長髪を揺らして頷く。
「属性は分からないけれど。でも、優しい感じがするわ」
「何なんやろ、治癒かな?」
わくわくしている玲奈に、アンヌは笑みをこぼした後、表情を引き締めた。
「それよりも。どうして貴方はここにいるのかしら? どうやって国、ひいては世界を渡ったの?」
玲奈は返答に詰まる。
「何て言えばいいのか、分かりません」
「何があったのか、教えて頂戴」
五十嵐が警戒心を露にして彼女を見ている。しかし、玲奈はぽつぽつと話し始めた。
五十嵐に昔話したように玲奈が話し終えると、アンヌは目をつぶり玲奈の頭を撫でた。
「見入られてしまったのね」
訳が分からないながらも、玲奈は素直に頭を撫でられたままでいた。彼女の手が妙に温かく感じられたのだ。
目を開いた彼女はあのね、と五十嵐を見て、話し始めた。
「団長と副団長の襲撃。団長の失踪。貴方達を襲った手。地震。龍石の破壊。これらは全部繋がっているの」
五十嵐が背筋を伸ばす。
「教えて下さい。そして、あの手は……そのイカイの生き物なんですか」
「そう。あの手は、迷い込んだ異界から出られずに、そこで朽ち果てた人間のもの。玲奈も、彼に出口を案内されなければ、あのなかにいたかもしれない」
玲奈の両腕に鳥肌が立っている。構わず、彼女は続けた。
「異界の主は、朽ち果てたそれを自らの手足として扱うことができる。同じように、主から命を受けた彼らも、それを操ることができる」
五十嵐が眉を潜める。
「彼ら?」
「主に作られた、人間の死体に命を吹き込んだ生き物」
そんなものが、存在するのか。
玲奈は思わず突っ込んでいた。
「……アレですか。その主、とか言うんは神様なんですか」
「神ではない。でも、それくらいの力を持つわ」
布団に突っ伏す。五十嵐は考えることが多すぎて、頭を抱えている。二人を眺めていたアンヌはくすくすと笑った。
「これ以上ヒントはあげない。どうせ、もうすぐ全部分かるのだから」
その言葉に玲奈が声をあげかけて、彼女の指に阻まれた。
「私、隠れるわ」
アンヌは天井に飛び上がり、屋根裏に逃げ込む。それから間髪入れずに、副団長が顔を覗かせた。
「鈴無、体調はどう? 今から調練するんだけど、行ける?」
「行けます!」
玲奈は布団を押し退けて立ち上がる。