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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第一章
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御石と御神木


 翌日、五十嵐は城門前で鈴無を待つ傍ら、昨日のことについて考えていた。

 しかしいつまで経っても結論は出ない。

 そこに、いつも通りの玲奈があらわれた。

「やっぱ優一は早いなあ」

「……その、昨日は楽しかったか?」

 質問に首を傾げた玲奈は、とたんにやーっ、と父親そっくりの笑みを浮かべる。

「陛下か? 何や心配してくれてたみたいでな、可愛かったでぇ」

 ……本当に、こいつが未来の王妃? 嘘だろ!

 内心断言した五十嵐は、それはともかくとばかりに、昨日の地震について話した。

「……親父殿の領地にだけ、地震?」

 玲奈が眉を潜める通り、自然現象にしては怪しい。

「領地関係……」

 何かに気付いたらしい玲奈は、慌てて当主の元に駆け戻った。


「親父殿!」

 お目通しも無しに当主の部屋に飛び込むのだからかなり慌てているのだろうが、何故なのか五十嵐にはさっぱり分からない。

 同じく混乱している当主に向けて、玲奈は尋ねた。

御神木(ごしんぼく)御石(みいし)は確認なされましたか」

 その言葉に、当主が血相を変えて飛び上がる。二人で馬に乗り、駆け出した。

 置いてけぼりにされた五十嵐は、諦めて縁側に座る。

 先ほどの言葉から察するに、恐らくその二つの物に何かが起きて、地震が起きたのかもしれない。

 そんなことをぼんやりと考えていると、屋敷の者がお茶を持ってきてくれた。

「お疲れでしょう、一杯どうぞ」

「ありがたい。頂きます」

 お茶を少し喉に流し込んだ五十嵐は、その二つの物について、彼に訊ねてみた。

 彼は一息つくと、語り出す。


「先々代の親方様がこの領地を治め始められた時、領地を頻繁に地震や濁流などの災害が襲っておりました。それを抑えるにあたって、親方様は一人の旅人から御神木の種と御石を頂いたのです。そしてそれらが地面に埋められてから、一度も災害は起こらなかったのですが……」


 昨夜、起こってしまったらしい。

 二人が慌てて帰ってきた。玲奈はいつもの陽気な笑みをどこかに捨ててきたらしい。

「五十嵐、やばい。御神木と御石が、バラバラに破壊されてた」

「誰がやったかは分からないのか?」

 五十嵐の問いに、当主が馬から降りながら首を振った。

「あれらは埋められたら人には触れられぬようになった。だから人間には出来ん。しかし御石は地面奥深くに埋められ、御神木は巨大に育っていた。動物に壊せるとも思えん」

 つまり、八方塞がりだと。

 玲奈は側にいた者の一人に何やら手紙を託す。託された者は馬に乗ってどこかに駆けていった。

「とりあえず、陛下に連絡しましたから、巫女さんでも派遣してくれるでしょう。五十嵐、久野に戻るで!」



 二人が武士団が有する土地に足を踏み入れた途端、地震に見舞われた。

「災害は鈴無の土地だけじゃなかったのか……?」

「あのな」

 玲奈は焦りを隠そうともせず、馬を降りて歩き始める。

「屋敷の(もん)に説明は受けたな? 前にどっかの本で読んだんやけど、その旅人さんは鈴無領以外の土地……特に災害の酷かった土地にも御神木と御石を埋めて行きはったんや」

「それが久野だと?」

「あと、王都。ただ王都の御神木と御石は、近衛兵の駐屯所からも見えるようになってるから安全や」

 つまり、久野の御神木と御石も破壊されたのではないか。

 豪雨が降り始める。

 武士団の施設に辿り着くと、案の定皆が混乱していた。

 副団長が二人を見て、慌てて駆けてくる。何故か泥まみれだ。

「お帰り! 早速だけど君達、川が決壊しそうなんだ、手伝いに……」

 玲奈は見事に無視した。五十嵐も言葉は残すが玲奈の後を追う。

「済みません、後で行きますから!」

 森を駆ける。ぬかるんで足をとられかける。二人は真っ直ぐ森を抜けて。

 縦に裂けた巨大な樹を見つけた。

「うちのとこと丸っきり同じやな」

 悪態をついた玲奈は、そばに駆けよってまた悪態をつく。

 金色の球が真っ二つに割られていた。

「これが御石なのか」

「そう。戻るか」

 玲奈が踵を返したその時。

「おい」

 あの子供が姿を現した。


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