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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第一章
13/117

親父に報告?


 何があったのか、話を聞いた玲奈の養父、鈴無一族当主は豪快に笑う。

 今はもう、夕方である。

「結局お前らはまた昇進したのか!」

「また、という言い方は違うと思いますが、親父殿」

 玲奈が渋い顔で突っ込む後ろで、五十嵐も少し頷いた。それに当主はくつくつと笑いながら、側に控えていた者に手で何やら合図を送る。

「また、だろうに。お前ら二人とも、初めは近衛に入団したろう?」

 当主には、娘である玲奈同様、腐れ縁で結ばれてしまったらしい五十嵐も可愛がられていた。だからなのか、やけに事情を知っていたりもする。


 彼の言う通り、五十嵐は近衛兵に入所した。元々玲奈とも知り合いだったのだが、あまりに武術のレベルが高かったらしく、厄介払いの意を含めて二人とも武士団に押し付けられたのだ。

 そして気が付けば、大隊長と呼び皆が慕ってくれる。

「…………」

 二人して黙り込むとそれがまた余計に面白かったらしく、当主はがははと笑いを再起動させた。

「思うところがあるらしい。お前らはどこまでも上に行きそうだな! それは良いことだが、玲奈」

 当主の笑いが、全く別のものに変わっている。玲奈の表情から、余裕が消えている。

「家を忘れるな?」

「忘れたことなどございません」

 五十嵐の訳が分からないうちに、玲奈は感情の読めない目で、当主を見た。

「もし副団長がいなくなられたら、次は五十嵐に団長を押し付けますとも」

「俺!?」

 思わず突っ込んだ五十嵐にウィンクした玲奈だが、先ほど当主から合図を送られて姿を消した者が、信じられない、といった表情で戻ってきたのを見て、顔を引き締める。

「また私繋がりですね?」

「ああ。何やら連絡が来た気がしてな」

 事も無げに言う当主。

 彼もまた、王族の末端に席を連ねる者だ。当主が持つ魔法は、人間の探知。誰が何の目的で来たのか、そこまで読み取ることができる。

 手紙を受け取り読んだ玲奈は、溜め息をついて当主を見た。

「どうやら来てほしいようで」

「行って差し上げろ」

「はい」

 額に手をやり立ち上がった玲奈は、五十嵐、と呼び掛けて舌を出した。

「屋敷にあんたが泊まれるよう、手配できてるから。で、明日の朝城の前で集合な!」

「は?」

 訳が分からないままの五十嵐をおいて屋敷を出た玲奈は、城に向かう。

 一方置いていかれて呆然とした五十嵐は、当主に肩を叩かれていた。


「とりあえず、だな。男同士の話と行こうではないか!」

「はい!?」

 慌てる五十嵐をよそに、当主は人払いを命ずる。

 あっという間に巨大な座敷部屋(ざしきべや)に二人きりになった。

 当主はどこから出したのか酒と杯を取り出し、一つに酒を注いで五十嵐に渡す。

「飲め」

「いえ、自分は……」

 辞退しかけて、五十嵐は玲奈に昔言われたことを思い出した。

 曰く「お偉いさんからの酒は断ったら、何やお偉いさんのプライドを傷つけるらしいから。やから断らん方がええし、もし断るんやったら、それ相応の代償を支払わされるからな。……例えば? 腕とか」

 ……五十嵐はまだ、武士団生活を終えたくない。

 結果、五十嵐はありがたく酒を頂いた。

 それを見た当主が少し笑う。

「どうやら、玲奈から色々と学んだらしい」

「えっ」

 図星を突かれて飛び上がった五十嵐だが、この御仁には敵わないと、諦めて頷いた。

「ご息女にはお世話になっております」

「あれは元々姉御肌、とやらでな。説明好きで、誰彼見境なくちょっかいをかけて回る」

 日頃武士団でそれに振り回されている五十嵐は、猛烈に頷く。

 当主は表情を引き締めた。

「あれは今、武士団のおよそどれぐらいの人気や信頼を集めている? 単刀直入に聞こう。もし今副団長及び団長代行を務める浮草君が退団すれば、どれ程の人間が、玲奈を団長にと推す?」

 五十嵐は考えることでそれに応えた。

「……失礼ながら、武士団のおよそ半分かと。ですがそれで、ご息女が団長に()される可能性は充分に……」

「つまり。その残り半分の人気を占めるお前さんが、玲奈を団長に推すのか」

 また言い当てられて、五十嵐は固まる。

「……ご冗談を」

「読めておる。それに、お前さんと玲奈が人気を二分化していると、前に浮草君から聞いたぞ」

 そういえば、だが。探知には、人の心を探る使い方もあるのだ。

 う、と固まった五十嵐は、冷や汗をかきながら視線を屏風に向けた。

「……自分は団長になるほどの器ではございませんので」

「慕ってくれているようだが?」

「……纏める力は自分にはありません」

 (かたく)なな五十嵐に、当主はすっと目を細めた。細めて、冷ややかに声を発した。

「では、玲奈を退団させても良いかな?」

 冷水を頭から浴びたかのように、五十嵐は感じる。当主がいつも浮かべる笑みが、消えている。

「……どういう意味ですか」

「文字通りだ」

 言葉少なに打ちきった当主は、深く溜め息をついた。

「寝耳に水かもしれぬが、近々、玲奈と陛下の婚約が決まる」

 五十嵐は息を呑む。

「誠ですか。その……確かに付き合っているとは聞きましたが……」

「嘘を言ってどうする」

 五十嵐は何故当主が、玲奈が団長になることを嫌ったのか気付いた。

 玲奈は鈴無一門の当主の養女である。武士団であげる功績から名声も高く、次の鈴無一門の当主に、と一門の人間から推されるほど。

 丹洪は、国王に領地を持つ貴族がついていく、といった形になっている。もちろん国王も直轄の領地を持っているのだが、それはさておき。

 どこの一族でもそうだが、領地を持つ以上、野獣や賊から民を護るため、私兵を持っている。鈴無一門全体でその数は、下手をすれば、国王の私兵にあたる近衛兵や領地の私兵を足した数よりも多いだろう。

 もし、玲奈が武士団団長となり、国王と結婚したら。

 結婚すれば、近衛でさえ指揮できる身分になる。

「……一人に権力が集まり過ぎてしまう。そしてその権力を集めた人物が国王陛下の隣に立つ」

 どれほど危険なことか。

「五十嵐君の言う通りよ」

 武士団の兵力、鈴無一門の兵力、国王の私兵、近衛兵、その全てを統べることになってしまう。

 当主は溜め息をつき、改めて五十嵐に結論を述べた。

「よって、玲奈を団長にするべきではない。あれも分かっているようだが」

 五十嵐もつられて溜め息をついた。

「……肝に命じておきます」

「済まんの」


 いえ、と首を振った五十嵐は、そうだとばかりに思い切って当主に聞いてみた。

「玲奈はどこに?」

「陛下に呼び出されてな」

 つまり、それは、つまり。

 再び、五十嵐は硬直する事態に陥った。

「………………うおう」

 今は夜。日本の時間にすると、午後9時。

 当主がにやーっ、と意地の悪そうな笑みを見せた。

「顔が赤いぞ? そうか、そうさな。五十嵐君はまだか? まだ童貞なのか!?」

 がばりと当主が迫ってくる。

「ま、まだ十八ですので!」

「玲奈は十九だぞ!?」

 玲奈と俺を一緒にするな!

 五十嵐はそう叫びたいが、混乱のあまり口が思うように動かない。

 じりじりと逃げようとした五十嵐だが、不意に地震が起き、とっさに伏せた。

 当主も酒瓶を持って畳に伏せている。

「何だ!?」

 揺れは不意に静まった。やがて、足音と声が部屋に向かってくる。

「親方様!」

「ご無事ですか!」

「お怪我は!?」

 慌てた部下たちが当主に集まった。

「大丈夫だ。それより、陛下はご無事……うぬ?」

 当主は頭を抑え、目をつむる。

「当主殿!?」

 五十嵐が側に寄ると、当主は当惑した顔で、五十嵐を見上げた。

「どうやら、揺れはこの領地にしか起きておらぬ」



 彼は壊したそれらを見て、満面の笑みを浮かべる。

「あの人は、いつ来るのかなぁ……?」

 そこに、子供が現れる。子供は彼を見て、ほう、と笑みを向けた。

「人間であり、人間でない。お前……壊したのか」

「うん。あの人に使われたら困るし。それで、アナタが来たってことは」

 彼は外套を羽織り、つまらなそうに石を蹴る。

「あの人は来ないんだね」

「その通り。そしてお前は死ね」

「やーだ。それじゃ、帰るねぇ」

 その言葉に彼は姿を消した。

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