玲奈:黙秘
「それで?」
声は、案外平静に出た。
「それが、何か?」
「死ぬ前の言動に注意なさい。貴方の言動が、あの子…………アンヌの運命を左右してしまうのだから」
自分のような、ただの外国人にアンヌが左右されるはずがない。そう、胸を張って断言できる。
「せやったら、あたしはいつ、死ぬんですか?」
「言ったら面白くないわ。敢えて言うなら、そうねぇ…………」
光が向きを変え、女性を照らす。
長い黒髪を束ね、着物についた草を払う女性は、口元に手をあてくすくすと笑った。
「貴方の妹が、貴方の敵の手先になるか、もしくは、娘を生んだ時かしら」
その言い草に、ぞっとした。
「手先やて………………異界の!?」
「名前は知らないわ。ただ、妹は死体となり、魂を入れられ、別の者として生まれる」
本に記してあった、そのように妹は狙われるのか。
「それを防ぐ方法は!?」
「さぁ…………始神にずっと側に居てもらうぐらいしか、予防法は無いわよ」
女性はそれだけを言い、物憂げに林を見る。玲奈もつられて見ると、アンヌが立っていた。
「師匠」
師匠!? と玲奈がビビっている間にも、二人の会話は進む。
「やはりアンヌだったのね。どうして此処に? 未来の私が寄越したのかしら?」
「そのようなものです。…………師匠が、ここに来れば良いと」
ふうん、と女性は頷き、玲奈の背を押してアンヌの方にやった。
「では、私は彼と話しましょう。あなた方は帰りなさい」
やんわりとした言葉と共に、二人に闇が巻き付く。アンヌは観念したように目を閉じ、玲奈の目をふさいだ。
玲奈が最後に見たのは、楊志の元に歩いていく、女性の姿だった。
気が付くと、玲奈はアンヌが居た屋敷に戻っていた。アンヌは彼女を下ろすと、縁側に座り込む。そのまま何かを考え始めた。
「あのー…………アンヌさん?」
「何? そういえば貴方、師匠と何を話していたのかしら?」
玲奈が死ぬ云々の話など、彼女には言えまい。
「あー…………すみません、邪魔するんも嫌なんで、退散します」
「待ちなさい」
ひょい、と襟首をつかんだアンヌはどこからか紙を取り出し、何かを書き始めた。書いた紙を玲奈に突き出す。
「これ、お使いね。享に渡して」
「はい?」
紙を見るが、丹洪とも組織とも違う言語に首を傾げた。だが、無粋だろうと何も聞かない。
「分かりました」
「余計な詮索をしないでくれていたのは助かるのだけれど…………まあいいわ、貴方が見た私達の会話も、享に伝えて頂戴」
「はい」
立ち上がると、酒瓶を渡された。
「お駄賃よ。またおいでなさい」
林が動き、道ができる、玲奈が屋敷の庭らしきところから足を出し、林に入ると、屋敷は消えていた。
「何やったんや、今のは…………」
「だから行ったデショ? 屋敷だって」
耳元で聞こえた声に飛び上がる。享がくつくつと顔の見えない笑いを立てていた。
「どうでした? 結構広い屋敷デショ? 初めて来た人間はよく迷うんデスヨ」
「いや、その…………」
玲奈は享に紙を渡し、鏡の中で見た出来事を話した。ただし、死ぬ云々は伏せてある。
話を聞いた享の反応は、とても早かった。玲奈の襟首を掴み、国王のいる鈴無屋敷に向かう。その速度が馬より早いとも伝えておこう。
(アンヌさんも楓さんも、襟首を掴むんやな。義兄弟て言うてたし…………あの女性と関係あるんかな?)
そう玲奈が考えている間に、享は国王に組織に戻る旨を話し終えていた。
「玲奈、また来い」
「あ、うん」
享は玲奈を掴んだまま、窓を開けて飛び降り、
「わ!?」
片手で目の前に現れた窓にしがみついた。もう片方の手は玲奈を掴んでいる。
お久しぶりです。蝶佐崎ダイです。
身勝手ながら、個人の事情で更新が停滞しています。
更新も受験が終わるまで満足にできそうにありません。
重ね重ね、大変申し訳ありません。