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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第二章
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玲奈:ヤキモチ


 玲奈は図書館に寄ったあとで病室に帰ってきたのだが、思いの外会議は早く終わっていたらしく、国王が先に着いていた。

「陛下。待たして済みません」

「リョクがいい。敬語は要らん。直るまで言い続けるからな」

 口を尖らせた国王はそれで、と厳しい顔で、内都が置いていった手紙を玲奈に突き出した。

「この男は何だ!?」

「ああこれ、内都(ないと)っていう人の忘れ物」

「その内都とは男か!?」

「男やで。妻子持ち。あたしと話しながら娘さんのマフラーか何か編んでたな」

「…………なら大丈夫か」

 どうやら浮気を勘繰(かんぐ)られていたらしい。国王はそれを読み始める。個人情報なのであまり勝手に見てほしくないのだが。

 国王が差出人を見て、首を傾げた。

楊志(ようし)? 妙な名前だな」

「やろ? どっかで聞いた名前やと思うんやけど…………また調べてみようかな」

「片手間になら、俺も手伝おう」



 玲奈が聞くと、やはり丹洪はかなりの損害だったらしい。武士団は壊滅、首都では大臣も役人も大方が異界に襲われており、唯一無事だったのは近衛とお手伝いの侍女だけだったが、これはアンヌが避難させただけに違いない。

 玲奈も痛感しているが、首都は襲われた事が無かった。それ(ゆえ)防御に関しての経験値がゼロ、もしくはマイナスだ。それは国王を護る役目の近衛に対しても言える。さらに近衛は玲奈と五十嵐が居た頃には既に無能だった。その後進歩した形跡もない。

 現在は地方の領主と組織の軍に頼りきっているのが現状である。戦の相手はどこからか情報が流れてしまった隣国が多い。情報の流れた筋はどうせ各国に潜む情報屋だろう。

 しかしそのせいで、組織からは「何故異界が相手でもないのに俺達が戦っているんだ」という不満が、領主からは「何故よその軍がイッチョマエの顔で戦っているんだ」という不満が出始めている。双方の我慢に限界が来たとき、相討ちなどを起こされてはたまらない。

 国王は何やら机で書きながら唸る。

「やはり、この問題をどうにかしたいな」

 さらに、貴族の間では先日、手薄になった首都を襲い国王になろうと謀った者がいた。

「近衛も貴族が頂点にいる事態を変えたい。第二の武士団も育成中ではあるが、あまり人も集まらない。たいていが貴族の出で、当然剣を持ったこともない阿呆ばかりだ」

「仕事は?」

「大臣や役人の中で生き残った者と俺で回している。だから様子を見に行く暇がない。今も、見ろ」

 国王は書いていた紙を見せた。書類だ。

「今日明日で決めなくてもいい案件ばかり押し付けられた」

 惨々たる状況に、思わず声が出た。

「うわー……結構カツカツやな。そのなかでこっちに来ても良かったん?」

「俺もそう聞いたのだが、大臣らが行けと。…………いささか気を使われた気もしないでもないな」

 下を出しながら、また違う紙を取り出して目を通す。明らかに処理速度は早くなっており、この状況でかなり鍛えられたのだろう。

「眠るのも…………何日振りだ?」

「うわあ!? あかんやん国王が無理したら! あんたが倒れてお陀仏なったら丹洪終わりやぞ」

「むう……しかし仕事が終わらんのだ」

 確かに責任感は強い。が、ここで発揮されても、周囲としては困るばかりだろう。

「とりあえず、子供作らなあかんやろ」

「だから来たのだ」

 確かに、玲奈と国王の結納は進んでいたしアレコレやったこともあるが、

「…………丹洪ではどうしてるん?」

「そもそも寝所に近付く時間が無い」

 本格的に、肉体面での疲労がピークに近いように見える。むしろ限界を超えて疲れを感じないのでは。

「あたしとやる前に寝ろ!」

「大臣らが働いているのに、そんなことできるか」

 それより、と旗色が悪い国王が強引に話を変えた。

「軍備増強だが、良い話しは無いか? 俺としては、本当に須王に戻ってきてほしいのだが」

「団長がいたら千人力、いや、百万力ぐらいあるからなあ。とりあえず」

 玲奈は思い付いたものを挙げてみる。

「適当な思い付きやから、心に留める程度に聞いてや。領主に頼んで武術を教える道場を増やし、農民の子も武士の子も貴族の子も分け隔てなく育てる。これを領主の治めてる地域ごとに実施してもらう。で、その中でも強い子を地域ごとに選出して、その子らで戦ってもらって、勝った子の親と領主に景品をあげる。で、その勝った子や強かった子をさっき言ってた第二の武士団を育成してるところに放り込む」

「ふむ。一度検討してみよう」

「…………話し半分に聞いてって言ったやんな?」

「聞いたが、正直今はどんな意見でも歓迎だ。とにかく何かが欲しかったのでな」

 国王が書類の端に書き留めるのを眺めていると、ノックも無しに享が顔を出した。不可解な顔をしている。

「ああ、居た居た。国王サン」

「俺に用か?」

「死者君……君達の言う五十嵐君からの、報告書(ラブレター)デスヨ」

 そう言って渡した紙束は優に十枚は超えている。五十嵐の文字の小ささを考えると、結構な量だ。

 受け取った国王の口元がひきつった。

「…………何か(うら)みでもあるのか?」

「何でも、思い付いたそうで」

 くぴゃー、と享は窓枠に腰掛けた。

「死者君ったら、酷いんデスヨ。アンヌが動けない話をしたら、なら俺達が会いに行けばいいでしょうってアッサリ言って! あの屋敷がどんなに侵入不可能か知らないから、言えるんデス!」

「けっこう、優一って現実主義ですからね。とりあえず物事の解決策を探すと言うか?」

「うわー、アタシの苦手なタイプ! 私に替わって貰おうかな」

 国王は既に紙束に目を通し始めている。心なしか、その表情が硬い。

「…………っと、忘れてた。それからそれからデスケド、一応渦君がもらっておいて下さイ。ハイこれ」

 取り出したのは、また紙だ。やや角ばった几帳面な字が箇条書きを綴っている。

「調べてほしいコト、だそうデス。主に丹洪関係みたいデスケド」

「何やて?」

 国王にこれ以上、仕事を背負わせるわけにはいかない。

 享も分かっていたらしく、「渦君」と、やや改まった声を出した。

「アタシは今から丹洪に、隊の交換と戦力の確認に向かいマス。君はそれに同行して、伝を最大限に使って、死者君の調べ物をやって下さイ」

 さらに見ている限り、と呟く。

「見ている限り、どうやら異界にも関係がありそうデスからネ」

 何でも、プレイフルとレキの二人が出現したのだという。さらにもう一人、大男も居たとか居なかったとか。

 享は読めない笑みを浮かべた。

「少し、不穏になって来ましたネェ?」



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