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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第二章
109/117

五十嵐:情報収集


 五十嵐は、息を吸って酒屋の看板を叩いた。ギンは落ち着き払った顔で、トーラはどこかそわそわした雰囲気で隣に立っている。

「灰色の大地に白銀の稲穂が生い茂るにはどえすればいい?」

 紙幣を置きながらそう尋ねると、酒屋の主は底の見えない笑みを浮かべた。

「ご用件を聞きましょう」

「まず…………」

 五十嵐の言葉に被せるように、ギンが口を開く。

「十年前に、国王の代替わりがあったよな。あの時、何が起きてたんだ?」

 のっけから知らないことを聞き出したギンに思わず面食らったが、それを見逃さない店主は国王の家族から話を始めた。

「信貴国は、代々王族……特に直系の血筋が国王を務めておられます。現国王陛下、ライ陛下も例外ではなく、前国王陛下であらせられた父君(ちちぎみ)から王位を継がれました。王位継承は前国王陛下がお亡くなりになられた翌日に行われます」

 では、現国王は十年前に父親を亡くしているということになる。

 トーラがまさか、と口を挟んだ。

「何か、起きたのか? 前国王が死ぬような、何か」

「事実だけ、お伝えします」

 店主は僅かに、緊張するように、窓を確認する。誰もいないか確認するように。


「前国王陛下ご夫妻が、刺弑(しさつ)されました。そしてライ陛下の弟君(おとうとぎみ)、シン様が、捕縛されました。ライ陛下と宰相ハビシャムは負傷されました」


 反逆か。シンという弟が、前国王を殺したのか。宰相と聞いて、ギンが僅かに頷く。

「王家からは、シン様がご両親を(しい)され、陛下を弑そうとした時に、宰相が庇い陛下が剣で取り押さえたと発表しております」

 それでは、まるでそれが、嘘のような言い方だ。それに気付いたのか、店主が付け足した。

「もっとも、民衆の間ではライ陛下とシン様の仲が良いと評判でしたので、あまり受け入られておりません」

「では、どうだと?」

「ライ陛下の気が触れてしまいご両親を殺してしまったが、次期国王になる道も諦めたくない。だから代わりにシン様を犯人に仕立てあげよう、と」

 まるでゴシップだ。

 トーラは妙に考え込んでいる。

「民衆の噂に、根拠は?」

「今の現状ですね。他国との戦争を繰り返し、無闇に人間を殺す。城下では通りを少し奥に入れば浮浪児が蔓延している。人さらいや強盗が横行する。今の国王は神に嫌われたのだ。何故嫌われたのか、気が触れたからだ」

 ギンが面白そうに尋ねた。

「十年もこの政治だろ? 現状に不満を持つ輩が革命軍なんかを作ってる、とかはねーのか?」

「ありますよ」

 店主は笑いながら名刺を差し出す。

「行ってみてください。貴殿方なら彼らも話してくれるかもしれません」

 名刺の住所を見て、ギンが目を丸くして声を漏らした。

「オレが知り合いと落ち合うって決めたのも、ここだぜ」

「丁度いい」

 次に、五十嵐が口を開いた。

「話は変わるが――――――丹洪を知っていたな? 商連は別の世界にも支店があるのか?」

「尋ねずとも」

 くすくすと笑いながら、店主はカウンターから分厚いリストを取り出し、一ヶ所を指差す。

「丹洪久野武士団・五十嵐優一。貴方のサインした跡がありますよ」

「………………あそこか!! あの質屋か!」

 思わずうめき声が漏れた。気付かぬうちに接触していたようだ。

 何にせよ、話は早い。

「経を読んでいると砂になって死に至る。その症状が首都で蔓延したと言っていたな。その者の名前は分からないか?」

「済みません、分かりません。丹洪の帳簿には記されていそうですが……」

 店主が首を振る。

「じゃあ次、オレ」

 トーラが手を挙げる。

「ここ最近、首都で起きた事件とかって無いか?」

「事件…………ですか」

「十年前と違うことでも」

 曖昧過ぎる質問にしばらく店主は考え込んでいたが、ややあって顔を上げた。


「出来事……でしたら、国王陛下が隣国の王女様を正妻にされたことぐらいでしょうか」


 ギンが身を乗り出す。

「隣国で王女ってーと…………エミリア王女か?」

「はい。かの国の髪の色は、まさしくそちらのお嬢さんの色合いですね」

 トーラも身を乗り出した。

「確か今、王女は病に臥せっておられるとか。何でも、国から連れてきた侍女が失踪したそうで、その心労なのだと聞いております」

 オレかな!? とトーラが顔を輝かせる。

「あとは…………武術大会でしょうか?」

「武術試合?」

 店主は頷き、説明を始める。


「ライ陛下がご即位されてから、陛下が企画された大会です。トーナメント式を採択されており、賞金もかなりありますから、毎年大勢の参加者が出ます。また、この大会で良い成績を残した者のところに国から兵の勧誘が来ますから、今では一番手っ取り早い仕官方法ですね」


 何でも、今は去年の優勝者が軍の教官になっているのだとか。確か名前はコン……何でしたっけ? 済みません、忘れました。

「今年は…………奇遇ですね。あと一週間ほどです」

 そのとき、酒屋に一人の青年が顔を出す。髪と眼は黒、眼鏡をかけ、顔もこの国の人間とは少し違う彼は、五十嵐達にひょいと手を上げてから店主に顔を向けた。

「おやっさん。葬儀屋の祝詞で亡くなった賊が分かりましたよ」

 五十嵐達はもちろん、店主も目を丸くして彼を見る。

「早いですね」

「裏ワザですよ」

 意地悪そうに笑った青年は三人にも笑いかけた。

「僕は綾瀬暁(あやせさとる)。暁が名前です。職業は……そうですね、坊主と教師をやっています。少し前に荒事に首を突っ込んでここに来ました」

 簡単に自己紹介を済ませた暁は、店主に報告を始める。

「仏の名前はデバルト。ですが、ふらりと仲間入りを果たした青い髪の青年は、二人きりの時に彼をダイブと呼んでいたようです」

 青い髪の青年とは、プレイフルのことだろう。

「幼少時に村が飢饉で死にかけ、たまたま会った賊の頭、バギーに助けられて以来行動を共にしていました。ただ、一時期行方不明になり、発見された時には以前の記憶は全て失っていたそうです」

「分かりました。情報元は聞かないことにします。ありがとう」

「有難い。一宿一飯の礼です」

 暁はそう言って笑い、五十嵐達のそばの椅子に腰を下ろした。

「で、君達は何を聞くつもりで?」

「聞いた後だよ」

「結果は芳しくなかったようですね」

 苦笑を見せた彼は、ギンの顔をじっと見つめる。

「失礼ながら、おいくつですか?」

「十九だぜ」

 ふうん、と何やら考え出す。

「…………どした?」

「……この国はどうも実年齢よりも大人びて見える傾向がありますね。羨ましい」

 羨ましいらしい。

 玲奈が聞いていたら、若く見える方がいいと吠えていただろう。

「でも、教師をやってるくせに、生徒の中に混ざっても違和感無いっていうのが悲しくて悲しくて。ほら、最近の子供って高いですし。そのせいか、よくナメられるし」

「……色々と苦労しているようで」

「それで生徒が騒ぐから怒ったら泣き出してPTA騒ぎですよ! 怒鳴って叱って何が悪い! 見た目が温厚そうだから怒らないと思ったとか、最近のクソガキは世の中をなめてるんでしょうかねぇ!?」

 ぴーてぃーえーというものが何かは分からないが、かなり苦労していたらしい。ブツブツと呟く様子からは、苦労と怒りが染み出している。

「空野先生ぐらい、雰囲気で物を言える人になりたいんですけど…………流石に無理ですしねぇ」

「空野殿と同じ職場に?」

「ええ。学生時代にあの人の教え子だったんですが…………まさしく鬼教師でしたね。友人の一人がよく補修で頭に拳を振り下ろされて病院に………ゲフンゲフン秘密情報です」

 空野の後ろに、般若でも見えるのだろうか。ギンとトーラと店主が首を傾げている。

「まぁ、それはさておき」

 暁は五十嵐に手を差し出した。

「僕はまだ、君達のお名前を聞いてないんですよね」

 それに慌てて、五十嵐たちは自己紹介を始めたのだった。



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