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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第二章
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玲奈:他言無用




 玲奈は拳骨を下ろされた双子とキーリを連れて帰っていた。ちなみに帰り先は病室だ。

 ……早く正式な部屋が欲しい。

「そういえば、次の登用試験ていつなん?」

「一ヶ月か二ヶ月か」「それくらい先だったはず」

「そういえば、玲奈さんはまだ正式には組織に入られていませんでしたね」

 え、と双子が目を丸くして玲奈を見る。頷くと、双子はとたんに不満を言い出した。

「勿体無いよー!」「アル兄に他の隊から取ってきてって言うつもりだったのにー!」

 好かれていたらしい。勿体無いと言われて、凄く嬉しい自分に気付いた。

「……あたしが配属する隊がここやったらええんやけどな」

 最前線らしいし、皆気さくで良いし、強いし一緒にいて勉強になるし。

 双子が声を揃えて叫んだ。

「願っててよ!」「願えば願うほど、そういうのって叶うから!」

 妙な宣言だが、笑って頷く。

 そのときだった。

「玲奈!!」

 後ろから抱き着かれて、誰!? と戦きつつ振り返る。

 懐かしい顔、丹洪国王がいた。

「わ、陛下!」

「リョクがいい。敬語には止せ」

 そう言う彼はぎゅーと力を入れて玲奈を抱き締める。

「……久し振りではないか。手紙を書くとも言っていただろう」

「ごめん。しばらく骨折しててそれどころやなかった」

「骨折!?」

 国王が慌てて離れる。恐る恐る触られて思わず笑った。

「大丈夫。今リハビリ兼ねて身体動かしてきたところやし」

「良かった……!!」

 また抱き着かれる。

「で、この人誰ー?」「陛下って言ってたしお偉いさん? もしくはまさかの白虎とかー?」

 双子から茶々が入った。国王もむっとして言い返す。

「玲奈の彼氏だ。国王をやっているせいで玲奈を組織に預けねばならんようになってな、今久々の再会に喜んでいるところなのだ」

「彼氏!?」「しかもそれを堂々と!?」

「言って何が悪い!」

 宣言されて双子もむうっと国王を睨み返した。負けじと国王と玲奈の間に入る。

「ボク達が玲奈姉を独占してるんだからね!」「そうだよ! カコの男はさっさと消えな! ってやつだよ!」

「どこで覚えたんですかそんな言葉!?」

「「アル兄」」

 キーリも知っていて嘆いたようだ。

 言われた当人の国王は過去の男、のくだりに口元を引きつらせ、双子の片割れの口をつまんで引っ張った。

「いひゃいっ! ひゃんへひょんひゃほひょひゅひゅほ!?」

「この口かっ! 俺と玲奈が別れたように言うのは! 組織の人間で良かったな、ただの子供なら消し炭にしているところだ!」

 ぎゃーすか怒る国王にキーリが楽しそうに頷いている。

「失礼極まりありませんから。出来るだけ怒って貰えたら有難い」

「うむ。それから玲奈」

 国王は照れたように笑った。

「話し合いたい。泊まり込みでな、部屋に来てくれんか?」

 これは、アレだ。いつもの「夜のお誘い」だ。

 これを昔の自分は「あーはいはい」で軽く流していた。少し離れて耐性が薄くなったせいか、妙に耳が赤い。昔の自分を尊敬する。

「あ、うん、分かった」

「えっちだねー。白昼からそんなお誘いかけるなんて!」「やらしーねー。しかもこんな若い子供の前で!」

 ばっさり言う双子。しかも国王の手から脱出した片割れも言っている。

「……それを若い子供の貴方達がいってどうするんですか…………」

 キーリは疲れ果てたらしい。

 あたりは大声のせいで何だ何だと人だかりが出来かけていく。それが嫌になった玲奈は国王の手を掴み(国王は満面の笑みを浮かべた)麒麟塔に引っ張っていった。

「とりあえず、ロナンさんか玖楼さんに会おうか」

 双子もキーリもついてくる。

 麒麟塔の二階で、ばったりロナンと出会した。ロナンも国王を探していたようで、ほっと駆け寄ってくる。

「リョク殿! 使いの者がここまで送ると言ったのに」

「済まん。原理を知って、自分で組織まで行ってみたくなったのだ」

 舌を出しながらも、ついでに苦戦しながらも組織の標準語を話す。彼も覚えたらしい。

「お陰で玲奈にも会えたしな」

 双子が何やら口を開いたので、すかさずキーリはまた双子が何か余計なことを言う前に口を塞ぐ。

 国王は辺りを見回しながら、ロナンに聞いた。

「アンヌ・ホーストンはどこだ?」

「こちらには居ませんよ。……楓大将を連れて行ってしまったようで」

「あの金髪が大将か」

 言いぐさからして、アンヌと享は国王のところを訪れたのだろうか。

「リョク?」

「うむ。変なものを預けられてな。何やら危なそうなので早々に返したかったのだが」

「預かりましょうか?」

「いや……こればかりは自分で渡したいのだ。済まぬな、ロナン殿」

 いえ、とロナンが首を振る。

「…………リョク殿に来てもらっておいて済まないのですが、先ほども言った通り楓大将は逃走してしまいました。正直なところ、今日は顔合わせが目的だったのですが……」

「仕方がないだろう。中将、少将、准将と会わせてくれ」

「はい……あら?」

 ロナンが僅かに首を傾げたそのとき、


 ズダン! ダン


 ……何かが着地する音、そして、

「ハイ、こんにちは」

 玲奈の背後で外のガラスを叩く音が聞こえた。

「誰かこの窓を開けてくださイ。渦君でもいいかラ!」

「でもいいって何ですか」

 ロナンが突っ込みながら、窓を開けて外にいた彼を中に招き入れる。国王は目を丸くして、彼を見ている。

 床に降りた享はわざとらしく縞模様のはんてんを払いながら、傷の走る胸に手をあててお辞儀してみせた。

「改めまして丹洪国王陛下リョク殿。アタシが世界防衛機構現大将・楓享夜と申しマス。商人臭い挨拶にはなりマスケド、我が組織の兵力をお貸しできて何よりデスヨ」

「――――――――楓殿。数時間前は失礼した」

「イエイエ…………と。鉄扇の朱雀君、杖の玄武君は何処に行ったのかイ?」

「病院に。呼び出しましょうか?」

「後で会いに行きマス。とりあえず、今居るこの六人に」

 享は玲奈、キーリ、双子をちらりと見て、眉を潜める。

「……これから言うことは他言無用でお願いします。死者君にはアタシが会議の後で言いに行きマス。君達の上司にも別件で話がありマスから、その時に伝えマス。黒狼君にも。なので誰にも話さないように。忘れたつもりで。下手をすれば大混乱、もしくは大恐慌に陥りかねませんかラ」

 長い前置きと共に、享が切り出す。

「アンヌが軟禁されました」

 ロナンが息を呑む。

「…………誰に、ですか」

「そういう仕組みの家に。もっと大まかに言うのであれば、アタシ達の師匠に」

 師匠なんて、アンヌと享からはもっとも縁が無い言葉だと思っていた。

 それよりも。

「軟禁……アンヌさんは出れないんですか」

「アタシか綾取り君があの屋敷に居れば出られます。ですが、代わりにアタシ達は出られない」

「綾取り君?」

「空野想馬、で分かりますか?」

 納得と同時に、なぜバジルでは無理なのかと内心不思議に思う。

「……どのような経緯でそのような事になったのだ?」

「屋敷に、好きな時間に飛べる鏡がありましてね。異界の主を探し回って、彼の力と生きてきた場所を知るつもりだったんです。それなのに師匠がこの屋敷の主になったらいい、などと言って。それでアンヌがなったと思えば、屋敷から出れないようになっていたんですよ!」

 いつもの突拍子な口調が消えて、彼はかなり憤慨しているようだった。

「しかも師匠(せんせい)はどこかに行ってしまうし! もう散々だったんデス!」

「お疲れ様です」

 玲奈のねぎらいに享は溜め息をつき、壁にもたれる。

「……アンヌは組織の味方として参戦しています。組織の者には彼女を頼りにしている者も多い。だからこそ、これが公になったときの騒ぎを異界に衝かれるのが怖いんデスヨ」

「…………では、これはどうすれば良い?」

 国王が取り出したのは、妙に赤い石だ。恐らく、これがアンヌから預かっていたものだろう。

「しばらくは持っていて下さい。時期が来たらアタシが回収します」

 うむと頷いた国王がでは、と玲奈の手を握った。

「行ってくる。普段はどこにいるのだ?」

 玲奈が病室の場所を伝えると、彼は首脳陣と共に行ってしまった。

 双子は黙りこくってしまっている。キーリの顔は険しい。同じような顔をしているだろうなと玲奈は思った。

「…………とりあえず、戻りますか」



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