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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第二章
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アンヌ・享:模索


 アンヌは、戦いを教えた師匠の女性の首筋に、爪を剥き出しにした指を突き付けた。

「私の、勝ちです」

 簪と鉄扇が砕けて落ちている。

 アンヌの長髪も幾分か斬られており、頬はざっくりと切れ、白衣は脱いだ為無傷だが、ズボンとシャツはところどころが切り裂かれたように破けて血が(にじ)んでいる。服の袖も破裂しているが、これはアンヌ自身の行いだ。

 地面は陥没、至るところで大地の裂け目が見えている。

 全て、結界が解ければ元に戻るのだが。

 彼女の宣言に、女性はふっと笑い、結界を解く。

 固唾(かたず)を飲んで見ていた享が駆けてきた。

「師匠! 何ってことを!」

「彼女が勝ったからいいでしょう?」

 アンヌ、と声をかける彼にもたれる。

「疲れた……背負って」

 そのまま、気が緩んで、アンヌは意識を放り出した。



 寝息をたてはじめたアンヌを背負い、享は女性を睨む。

 女性は元に戻った鉄扇を振って上品に笑っている。ちなみに享と一緒に観戦していたあの馬鹿者も縁側でゲラゲラと笑っている。

「師匠は、何がしたかったので?」

「違うわ」

 いきなり否定されて戸惑う間に、彼女は次の言葉を放り出した。

「したかった、ではないの。するのよ。これから」

 女性は不敵に笑い、ぴくりとも動かないアンヌを撫でる。

「店の権利は、私が全てを終えた後に、この子に譲渡しましょう。あとは煮るなり焼くなり好きにしなさい」

 ただ、と女性は笑みを消す。

「アンヌのように、世界に敵だと認定される存在はこの先も現れる。それをこの子が理解してくれたらいいのだけれど」

「……アタシが組織に入っているだけでは、世界はアンヌを味方だと思わないんですか」

「享夜。貴方も確かにアンヌを正気には留めているわ。けれど貴方は、アンヌに命令されたら、例え世界の敵にだってなってしまう」

 そういうものだ。自分とアンヌの関係は。だから、自分が世界を壊す為の異界と戦っている組織のなかで大将であっても、世界は享と享を使役するアンヌを世界の味方とは見なさない。見なさないから、牙を剥く。

「この店は、いわば避難小屋よ。世界から敵だと疑われた者が店主になって、世界から姿を隠す為の」

 では、と嫌な事に気付いた。

「アンヌはもう、ここから出られない!?」

「そうね。次の主を決めるしか、方法は無いわ。主も、対価として差し出すしかない。私のように。……まあ、貴方や空野君が代わりにここに居れば、少しの間なら出入りできるのだけれど」

 私のように、と視線を向けた先には、笑いながら手を振る名無しが居る。

「今回は、それを使って外に?」

「いえ」

 刹那、名無しの全身が砂ぼこりに包まれ、姿を消した。

「対価を払います」

 結界を解いて直った簪と鉄扇を縁側に置くと、それらはすっと消えた。

「享」

 女性は最後に享に微笑んだ。

「もう一度言うのだけれど、この店を壊しても良い。けれど、今アンヌに必要なように、遠くない未来、この店を必要とする子が現れるわ」

 その時アンヌはどうなってしまうのだろうか。

「『その時』を間違えないで」

 声が、響き渡る。

「この店に居れば、歳をとらない」

「時間に関係されない店」

「店の当主になった今、アンヌは味方を作れない」

「何もできない、歯痒さ」

「それでも出来ることは有る」

「模索しなさい、死ぬまで」

「私のように」

 女性は、消えた。



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