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英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第二章
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五十嵐:風格



 五十嵐は当惑していた。

 ギンの視線が、口調が、存在感が、全て今までの彼とは違う。

 視線は厳格な様子を醸し出し、口調は今までの訛りやおどけた様子が消え去り、存在感はまさに「物を言う」状態だ。

 正式に謁見するときの丹洪国王や団長と会った時に似ている。

 全身の本能が肌で感じるのだ。感じて、脳に()うのだ。

 彼に逆らうなと。

「…………話そう」

 異界の化け物の事。

 丹洪の武士団副団長が殺され、すり変わっていたこと。

 その偽物に武士団を全滅されていたこと、偶々その場にいなかった玲奈と五十嵐は生き残ったが、殺されかけ、アンヌという女性に助けてもらったこと。

 首都に向かうと、偽物が国の大切な石を破壊していて、異変に気付いた国王と鈴無当主が駆けつけ、当主が殺されたこと。

 アンヌが首都にいた人間を全て避難させ、異界の化け物を城ごと破壊したこと。

 幸いアンヌが組織に伝があったため、それを頼って戦力の援助をしてもらうことになったこと。

 結果、玲奈と五十嵐はこのまま働いていること。

 その全てを部屋でかいつまんで話した。

 ギンは五十嵐が話し終えても黙り込み瞳を閉じたままだったが、やがて窓を開け放つ。

「…………(わり)ぃ。すげー苛々してた。で、色々と考えてた」

 あの存在感が消える。

 からりと笑ったギンは、いつもの彼だ。だが、やや陰りのある顔で笑った彼はそーだなぁ、とぼやいた。

「ユーイチが話してくれたからには、オレも話さなきゃなんねーよな」

 部屋の中に風が舞い込む。ギンを中心に渦を作り、弄ぶようにギンの髪を宙に舞い上げる。

「言ってなかったけど、オレはお前の言う『力持ち』だよ。二つな」

「二つ!?」

「おっ、それって実はすげー事か?」

 確かロナンが希少だと言っていた。

「かなり希少だ、と聞いた」

「そっか。もう一個はあんまり役に立たねーけど」

 おどけた調子で肩を竦めたギンは、舌を出して白状する。

「声が聞こえるんだよ。ちっこいガキの声でな。それも聞こえる時と聞こえねー時がある。今は聞こえねーから、力を持ってんのかすらわかんねーけど」

「…………何の声か分かるか?」

「分かってたら苦労してねーっての。この風も切り刻むぐらいしか使い道ねー上に、外の空気が必要になるから困るしな」

 それから、とギンは風を消す。一瞬輝いてからふわりと消えた風をまたぎ、ギンは窓を閉めた。

「もう一つ白状。オレを養ってくれたじっちゃんな、実は信貴の宰相」

 あまりにあっさりと言うので、一度五十嵐の頭に入って、また出てきた。

「………………おおう」

「トーラも固まるな! ギン、それは本当なのか?」

「疑うなよ。ハビシャム・ビリーヴ、商人に聞いてみりゃーいい」

 からからとギンは軽く笑い、ふと笑いを収めて優しい顔になった。

「本当に何から何まで、まさに骨の髄にまで知識や生活の知恵まで叩き込まれたしな。いいじっちゃんだった」

「…………今は何処に?」

「十二で首都出てから一回も帰ってねーからな。分かんねーや」

 ギンは首都が怖いのだという。

「近づけねーんだ。身体全身が震えて、冷や汗が出て、嫌なことばっか考えちまう」

 何度も試した。けれど怖い。

「だから会ってねー」

「……難しいな」

手前(てめえ)でも分かってるっての」

 苦く笑ったギンはさて、と手を叩く。ふわりと風が舞う。少しなら外の空気無しでも使えるらしい。

 嫌な気が吐き出されて消えた。

「んなどうでもいいことより。商連が言ってたよな。合言葉にしたって」

「大地に云々……か」

「それだよ。何でじっちゃんが商連と関係あんのか、それが知りたい」

 これも聞くことな。

 そう言ってギンは元気に笑った。



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