表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
英雄は最後に笑った  作者: 蝶佐崎
第二章
100/117

ギン:悪夢


 「じっちゃん」が教えてくれた地図に、丹洪という名は無かった。新しく出来た国か、とも考えるが五十嵐の話を聞く限り、それも有り得ない。

 ギンは結論付け、隣で酒屋の店主を睨む五十嵐を観る。

「ユーイチ」

「どこから来た、だろう?」

「……………………分かってんじゃねーか」

「異世界だ。…………気持ちは分かるが頼むからイタイ目で見るな」

 五十嵐が頼むから、と悲しそうな目で見てくる。トーラはそんな彼をじっとは見ているものの、かなり冷静なようで、全く驚いていない。

「証拠は?」

「あまり無いが……とりあえず荷物でも見ればいい」

 騒ぎが一段落したあとで宿の部屋に戻り、五十嵐は机にサックの中身をぶちまける。

 サックの中で一番(かさ)をとっていたのは紙の束で、表に信貴国の言葉が、裏に別の国の言葉が書かれている。単語帳らしい。

 あと、ごみ袋のなかに、水筒と携帯食料の残りカスが入っている。

 トーラが、荷物の一つを手にとった。

「ユーイチ、何だよこれ?」

 円盤の上に、細長い菱形の板が浮いている。板はトーラが円盤を回しても同じ向きを指しており、旅に使うものではとギンは予想した。

「方位磁針と言って、東西南北を調べるためにある道具だ」

「「ほー」」

 言ったあとで、ギンも単語帳とは別に挟まれていた紙を見つける。表にしか字は書いておらず、見比べる限り単語帳に書かれていた字とも信貴国の字とも違う。

 そしてギンは、全ての国の字を覚えていると自負している。しかし、単語帳の字も挟まれていた紙の字もその全てと合致しない。

「こっちは何だよ?」

「護符……お守りのようなものらしい。俺が死にかけたらこれで組織に逃げてこいと」

「組織の人っていいじゃねーか」

 トーラが感心したようにそう呟いた。ギンも同感だ。

 さて、と五十嵐は期待している顔でギン達を見つめた。

「異世界から来た、証明になったか?」

「いや、オレはもともとそう思ってたし」

 トーラが手を振りながら、あっさりそう言った。

「何でだよ?」

「だってよ、あんな何もない森の中で迷うんだぜ? それに一番近い村はオレ達が出会ったところ街だ。あんなに小さい村ですれ違ってなかったらむしろおかしい」

 むう、とギンの口から声が漏れる。五十嵐の嬉しそうな顔が眩しい。

「……ま、磁針といい単語帳の字といい、この世界にゃ存在しねーもんを見せられたら、納得するしかねーな」

 五十嵐がありがとう、と拳を握る。

「タンコーに反応したのは、そこがお前の母国だからかよ?」

「ああ。国の内情も店主が言っていた通りで、間違いはない」

 それは気になる。

 商連の店主は異世界の事も知っている。

「異世界にも、支店があるんじゃねーの?」

 それから、もうひとつ。

 あの時囁かれた言葉。

『灰色の大地に白銀の稲穂が生い茂るには、貴方は(・・・)どうすればいいのでしょうか?』

 今まで通り、旅に逃げていたい。賞金首の輩を捕まえたり店で働いたりで金を稼ぎ、シギの色んな場所を回っていたい。

 だが、トーラが外国……ひいては首都に関係があった場合、首都に行かなければならない。そして首都に行ってしまえば、恐らく、ギンの平穏な日々は崩れ去るだろう。

 店主はそれを見越して問うたのだろうか。

 ギンは、ぐっと拳を握った。

「……警羅のおっさん達、捕まえた報償に強盗の馬をくれるって言ってたよな。で、明日、干物屋で買ってから出発するって決めたよな。少しだけ……待ってくれねーか?」

 少しでも情報が欲しい。

 知り合いにも頼るが、頼る人間は多い方が良い。商連はまさにうってつけだ。

「良いが……理由を聞いても良いか?」

「国の情勢を聞いておきてーんだ。商連ならそういう情報屋も紹介してくれるかもしれねーだろ?」

「それはいいな。俺も知りたいことがある」

 トーラがお手洗いに出ていく。

 五十嵐がふと溢した。

「ギンが知っているかもしれないが、今のシギ国国王陛下の家族構成はどうなっているんだ?」

「……現国王陛下か? 両親は死んでいる。弟も居たはずなんだが、全然出て来ねーな。あと、風の便りに聞いた話なんだが、外国から奥さんをめとったらしい」

「妃か?」

「おう、正妻な。今はどうなってんのか知らねーけど。だから、それも商連に尋ねりゃいいだろ」

 五十嵐は何やら考え込んでいるため、ギンの顔を見ていない。ギンはさりげなくタオルを掴み、顔にかけて、ベッドに身を投げ出した。

 信貴国の話はギンには鬼門だ。手がじっとりと汗をかいている。心臓が激しく波打ち、呼吸は荒い。

 また、自分は悪夢を視るのだろう。それを自覚して、ギンは僅かに笑みを浮かべた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ