遭遇
そして今彼らは団長探しの為、戦場に残っていた。
「団長ー!」
玲奈が、がさがさと草むらを揺らす。
「陛下行きましたから、もう誘われませんよ。だから帰りましょうよー!」
「あれですよ、夕食食い損ねますよー!」
「何言ってんだお前ら……」
五十嵐が玲奈と他の団員に突っ込む。
「だって団長、陛下のこと苦手やったし」
「団長あれで意地汚いところあったし、食いもんでつったら出てくるかと」
「どこの子供だ」
しっかり叱ってから、五十嵐は副団長をちらりと見た。やはり自責からか、彼は真っ青な顔で辺りを探し回っている。
もうすぐ、その場で事切れていた者達の中に団長がいたのか、その照合の結果が届く。それが怖いのだろう。
五十嵐は少し森を分け進み、子供とばったり出会した。
黒髪。短い。目の色はよく分からない。小さい。男女も分からない。
そして何故、子供が戦場にいるのか、分からない。
しかし子供に理由を問う暇は、五十嵐には無かった。
「おい、お前」
「何か?」
声は高いが、男なのか女なのか、それはまだよく分からない。
「この辺りで、金髪金眼……と言うのか、金色の髪と目の男性を見なかったか?」
「…………」
ふむ、と子供は顎に手をやった。結局、彼は相手の不審よりも団長の安否を優先させたわけだ。
「……もし」
「何だ?」
不意に、子供は子供らしからぬ笑みを浮かべて、逆に問いを投げ掛けてくきた。
「もし私が知っていると言えば、どうするつもりだ? 拐うか? 殺すか? 居場所を吐かせるか?」
「なっ……」
侮辱に五十嵐が口元をひきつらせる。だが、子供は本気で答えを待っている。
「からかって、いるのか」
「答えの対応を考えているところだ」
あまりにも落ち着いた声に、五十嵐の怒りも鎮静化された。
「……居場所が聞きたい。話を聞く限り、あの人は怪我を負っている可能性が高い」
「おい」
子供はまた子供らしからぬ妖艶な笑みを浮かべる。
「私がその男を襲った輩だとは思わないのか?」
「有り得ん。団長はお前のような子供にやられる程、弱くない!」
「……ほう?」
子供の口元から笑みが消え失せる。無表情になった子供を見て、五十嵐の頭が警報を打ち鳴らす。
「何を――――」
「これで」
真後ろに立った子供の手に、短刀が握られ、それは五十嵐の首筋にあてられていた。
五十嵐に気付かれることなく、移動していたのだ。
彼が冷や汗を流すなか、子供はゆっくりと問う。
「私が弱いと?」
前言を撤回してほしいらしい。
だが、五十嵐はむしろ頭が冷えた。
「前言は撤回しよう。確かにお前は強いのだろう。しかし、それと団長は関係ない。団長はどこだ!!」
不意に出した大声に、子供が飛び退く。それと前後して、大声に何かあったと気付いた玲奈らが駆けつける。
溜め息をついた子供は、躊躇いなく抜刀した玲奈と弓を向ける副団長を見て、諦めたように口を開いた。
「……須王、と言う男だろう。重傷で倒れていたところを、私の恩人が救った。少しの間は意識があったが、今は眠っている。安静が必要らしい」
「どこにいる」
「勘違いするなよ」
子供は鋭く、質問を発した玲奈を睨む。
「いつ、私が、貴様らにあれを返すと言った?」
その言葉に五十嵐も抜刀した。
三対一で大人が子供を苛める図はいつ見ても胸糞が悪くなるが、これは仕方ないと言うしかないだろう。
「どういう意味だ」
「あれの故郷から要請された。連れて帰って来いとな。代金ももらっている」
玲奈がはっきりと息を呑む。
「そんな」
「分かったら早く久野とやらに帰れ。私は食事がしたい。生きた人間が側にいては、問題になりかねん」
よく意味が分からなかったが、久野の名を団長が話したことは分かった。
団長は武士団に戻る気が無いのかもしれない。
始めに矛を収めたのは、副団長だった。
「……五十嵐、鈴無。戻って陛下に報告しよう」
「副団長!」
「浮草さん!」
駄目だ、と副団長は戻っていく。諦めた二人も戻ろうとして。
「待て」
子供に声をかけられた。
「もう用はないだろう」
「忠告しておこう」
子供は、副団長が去った場所を指して宣言する。
「あの男、おかしいぞ」
玲奈が眉を潜めた。五十嵐は、国王が警戒していたことを思い出した。
「何が、だ」
「よく分からん。あの人なら分かるかもしれんが、そうだな」
子供はひっそりと笑う。
「とりあえず言うなら、あの男から、血の匂いがする」
二人が息を呑んだそのとき、森が葉を撒き散らした。二人は目を覆う。
覆っていた腕を下ろすと、子供の姿は消えていた。