相談に乗ってくれないかな?
あなたはクラスメイトから呼び出されました。彼の相談に乗ってもらえませんか?
ごめんね。いきなり呼び出して。
ちょっと相談したいことがあってさ。
ああ、待って待って。きみは転校してきたばかりだからね。
本題に入る前に、こんな話を知ってるかな?
ある学校に、ひとりの少年がいたんだ。
成績も普通、運動神経も普通。部活は文化系で、賞なんかには縁がない。
いじめられることもなければ、誰かをいじめることもない。
よい意味でも悪い意味でも特徴がなくって、クラスでは名前をおぼえてない人もいるくらい、影が薄い。
時々、自分が透明人間なんじゃないかと疑ってしまうこともあるくらいだ。
その彼のクラスで、ある日ちょっとした事件が起きた。
大きな蜂が1匹、窓から飛び込んできたんだね。スズメバチってやつ。
みんな大騒ぎになったんだけど、クラスのリーダー的な男子がね、教科書を丸めてばしっと叩いて殺したんだ。
その日は1日、スズメバチの話題で持ちきりさ。
怖かったね、刺されなくてよかった、スズメバチをやっつけられるなんてすごい……って具合でね。
非日常的、って言えばいいのかな? その雰囲気が、すごくぞわぞわしてね。
彼にとっては珍しく、わくわくして、気分がよくなったんだよ。
でも、次の日には蜂のことなんかすっかり忘れられて、元に戻っちゃった。
つまらないな、退屈だな、またあんなことが起きないかな、って。
だから彼は、放課後にクラスで飼っていたメダカの水槽へ洗剤を入れたんだ。
次の日、登校すると思ったとおりに盛り上がってた。
みんなで大切に飼ってたメダカだからね、泣き出しちゃう女子もいたよ。
当番が水替えをサボってたんじゃないかとか、そんな犯人探しもはじまった。
そんな風にみんなが盛り上がるのが、彼にはとてもとてもうれしかった。
でもまあ、これも盛り上がったのは1日だけ。
メダカなんて何かのきっかけで勝手に死んじゃうこともあるしね。
ぶくぶくが故障したんじゃないかとか、そんな理由でみんな納得しちゃった。
つまらない、よね?
だから今度は、カエルをたくさんつかまえて、潰して教室の床にまいた。
その次は、ネズミの死体を教卓に置いた。
その次は、野良猫の死体を学校のエントランスに置いた。
これは傑作だったよね、緊急で全校集会なんか開かれちゃって、クラスどころか学校中が非日常になったんだから。
たぶんこれは、もし学校がテロリストに占拠されたら、とか、ゾンビの大群が押し寄せてきたら、とか、そんな妄想が楽しいのと同じ感覚かもしれない。
こういう妄想って、誰でもしたことがあるよね。
ああ、話がそれちゃったね。
ええと、猫までは話したね。
いやいや、ネズミも猫も殺しちゃいないよ?
道路で轢かれてた死体を学校に持ってきただけさ。
ネズミも猫も、生きてたら捕まえるのが大変じゃないか。
でさ、ぼくが話してるんだから、口を挟まないでくれる?
話して欲しいときは、ぼくからちゃんと言うから。
ああもう、ええと、そうだ、猫までは話したね。
知らない猫が死んでるだけであんな盛り上がったんだから、知っているものが死んだらもっと盛り上がるんじゃないかなって。
だから、彼は飼育小屋のウサギをぜんぶ殺してみたんだ。
図工の錐で、ぶすぶす、ぶすぶす刺してね。
すると次の日はもうたいへんな盛り上がりさ。
警察までやってきて、ファンファン、ファンファン、ってサイレンを鳴らしたパトカーが何台も来てさ。
生徒はもちろん、先生も授業どころじゃなくって。
なんていうか、戦争でもはじまるんじゃないかってくらい空気がこう、ふわふわして、ゆらめいていて、ものすごかったよね。
午後から休校になっちゃったのが本当に残念だった。
さて、これで前置きはひとまずおしまいさ。
ごめんね、ぼくばっかり話しちゃって。
ん? ぼくの名前? そんなのはいいじゃないか。
きみがおぼえていなくったって、ぼくは気にしてないからさ。
それで肝心の相談なんだけど――
「きみが、どんな風に死んだら、いちばん盛り上がると思う?」
(了)
少年の相談に乗っていただきありがとうございました。
まだ、聞こえていますか?