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第6話「置いていかれただけっすか」

「何故だ? 何故誰も残っていないんだ? 1個師団丸ごと消えたとは、どういうことだ?」


「俺達が襲撃に行ってた数日の間に、トスケール帝国軍の主力にやられてしまったのか?」


 任務から戻った第1中隊の兵士たちは、目の前の光景が信じられずに呆然としている。


 ゼニス大尉は、様々な可能性をすぐに考えた。


 師団主力が敗北して撤退したと言うのはあり得ない。もしも戦闘に敗北したのなら、これほど綺麗に片付いていないだろう。宿営地の天幕が残地されていたり、戦死した兵士の死体が近くに残されているはずだ。しかし、その様なものは近くには無い。


 ではどういう理由なのかと考えると、一つの答えに辿り着く事になる。


 第1中隊は置いてけぼりをくらったのだ。


 これも、普通ならあり得ない事だ。たかが1個中隊とはいえ、これを完全に見捨てて離脱してしまうなど軍隊のする事ではない。


 戦場で取り囲まれており、救援する事が主力を危険に晒す。この様な状況ならもちろん有り得るが、さしたる理由もなしに仲間を見捨てるなど言語道断の行いだ。


 何故なら、戦争においては兵士は危険に晒され続ける。と言う事は、逆に言えばどうしようもない事以外ではなるべくその危険を軽減してやらなければ、真に必要な状況において兵士を危険な任務に向かわせる事が出来なくなる。兵士が動かなくなるのだ。


 そうなれば当然任務達成に支障が出るし、そうなった場合指揮官は任務失敗の責任を追及されたり、敗北してそのまま戦死したり、悪い時は部下に殺されたりする。まともな指揮官ならこんな事態は避けるだろう。


 しかし、それが起きてしまった。もちろん確たる証拠は無いし、信じたくはないのだが、状況的にそうであるとしか考えられない。


 そして、そうなる要因はある。第1中隊は「カテゴリー5」の兵士ばかりであり、真っ当な軍からは厄介者扱いされている。通常の軍だけでは戦争を継続できないというから、国の施策で編成されたというのにあんまりな扱いだが、実際そうなのだ。


 第1師団以外に配属された「カテゴリー5」の部隊は、戦場で使い捨てにされて兵士の入れ替わりが激しいと聞く。それに比べたら、置いてけぼりにされるくらい大した事ではないのかもしれないが、ここまで露骨に不利益を被るとやはりショックなものだ。


 師団長のアンリ中将は、これまでこの様な非道な扱いをしておらず、正統派の武人だと思っていたのだが、結局は他の将軍たちと同じような思考だったのだろう。


「と言う訳で、恐らく俺達は主力に置いていかれたんだ。残念ではあるが、皆気を落とさずに……」


「なんだ、置いていかれただけっすか」


「囮にされてる訳じゃないんだ?」


「よかった~」


 最悪の状況を、部下達の士気を何とか保って伝えようとして言葉を選ぼうとしていたゼニス大尉だったが、部下達の反応はあっけらかんとしたものだった。


「お前達、大丈夫なのか?」


「そんなのよくある事っすよ」


「そうそう、働いたのに金も貰えずに放り出されたり、何か悪いことがあったら、とりあえず犯人にされて殴られたり牢屋に入れられたり」


「命があるだけめっけものだな」


「そうか……」


 社会の最底辺……というか社会の枠組みから外れて生きてきた、第1中隊の兵士たちは逞しい。この状況に全くめげていない様だ。ゼニス大尉としては、もちろん生存を諦めるつもりなど無いので、しぶとく部隊を指揮するつもりであった。その様な時に部下の士気が低くてはどうにもならないので、この状況はありがたい。


 しかし、そうだとしても、この様な扱いに慣れきっているというのも、やはり問題があるとも思うのだった。


 最悪の扱いに慣れているため、少々の悪環境に耐性があるのは、生き延びるという観点では良い事かもしれない。しかし、非人間的な扱いに何の感覚も無くなってしまうのは、やはり問題がある。そして、この様な者たちを生み出してしまう共和国の社会は間違っていると言えるだろう。この様な人々を無くすために数十年前に革命が起き、王政が打破されたはずなのだがその時の理念はまだ達成されていないのだ。


 あまりのショックを受けたため、少しばかり壮大な事を考えてしまったゼニス大尉であったが、今考えるのはいかに生き延びるかである。生き延びるためには、残念な事ではあるが、自分たちを見捨てた師団主力と合流しなければならない。


 では、どちらの方向に行くのかだが、共和国の中心部に向かう判断をした。


 敵の侵攻に際して、師団主力は離脱したのだ。当然国境方向には向かっていない。もし向かっていたとしたならば、今頃敵の主力と決戦を終えているはずだ。師団級の部隊同士がぶつかり合えば、当然その気配が何処かでするはずだ。それが無いと言う事は、敵から遠ざかる様に移動したのだろう。


 そして、前方や後方ではなく、横に移動した可能性も無くは無いのだが、その場合別の師団の担任地域に入ってしまう事になる。上級部隊からの命令ならともかく、通常ならその様な行為はしないだろう。


 もちろん、ゼニス大尉の予想が外れてしまっている可能性ももちろん残っており、もしそうなれば勝手に後ろに下ったと言う事で処罰を受ける危険性もある。


 だが、無用な危険を冒すよりはよっぽどましである。敵の主力がこの地域に到達する前に離脱すべく、速やかに撤退の指示を出した。


 中隊の先頭に立ち後方に向かって行進を始めた時、自分が真っ当な軍人の思考から外れてきている事を、何となく他人事の様に感じていた。

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