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第62話「二人だけ見つかっていないんですよ」

 アスミタ村出身のボルトン少尉達を加えた第1特別歩兵連隊第1中隊は、アスミタ村の捜索に赴いた。


 村の惨状は、予想していたものよりも遥かに凄まじいものだった。アンリ大将が先行させた兵士達が、後片付けをしていたのだが、とてもそれで収まる被害ではない。


 村の建物は焼け落ち、広場には殺された村人達の遺体が安置されていた。殺されているのは、大人だけでなく子供も含めてだ。ゼニス大尉の下まで逃げて来れた子供たちは、一部にしか過ぎない。大半は殺されていたのだ。そして銃弾を幾度も受けた彼らの遺体は、激しく損壊していた。


 たった一か月程度とはいえ、一緒に過ごした村人達の有様に第1中隊の兵士達は怒りを新たにした。もちろんボルトン少尉が連れてきたアスミタ村出身の男達の悲しみは、ゼニス大尉達の比ではない。大の男が大声で泣き叫び、悲しみを露わにした。


 それを見て、嘲るような者は誰もいない。子供、妻、両親が無残にも殺されたのだ。感情的にならない方がおかしい。特に徴兵されてきた兵士達は、家族を敵国から守る事をモチベーションに戦ってきたのだ。それが、ここまで無残に打ち砕かれては、仕方のない話である。


 そして、村人達の遺体の隣には、アスミタ村で療養する予定であった第1中隊の兵士達や、特選遊撃隊の若者達の遺体も並べられていた。


 彼らは民を守るため最後まで抵抗した結果、この様に死を迎えたのだ。


 本来社会の枠組みにすら加わっておらず、国からの恩恵を受けた事のない第1中隊の兵士達。


 若きエリートとして国を背負う将来を嘱望されてきた特選遊撃隊の若者達。


 彼らはここまでして村人など守る義理が無かったり、冷徹な価値基準で言えば見捨てる方が国のためになった者ばかりだ。それであっても、最後の瞬間まで民のために命を尽くしたのだ。


 彼らの行いは、決して忘れないとゼニス大尉は心に誓った。


 また、彼らの命をかけた抵抗は、決して無駄ではなかった。


 一部の子ども達はゼニス大尉達第1中隊のいる地域まで逃げ延びる事が出来たし、アスミタ村周辺を捜索した結果、他にも生き残りを発見する事が出来たのだ。これは、村の地理に詳しい村の男衆の力によるものだ。村の近くにある湿地帯などで、少数であるが逃げ延びた者達がいたのだ。


「おかしいな」


「どうした?」


 アンリ大将が派遣した軍僧による鎮魂の祈りが終了してから少しした頃、アスミタ村出身のシャポー伍長がつぶやくのを、ゼニス大尉は聞き逃さなかった。


「二人だけ見つかっていないんですよ。逃げた中にも、遺体でも」


「まだ、何処かに隠れているって事か?」


「それが、母親の遺体は見つけたんですが、その近くで隠れられるような場所は、全部探したんですけどね」


 親子連れで逃げようとしていたなら、範囲は限定される。それでも見つからなかったというのだ。


「それで、見つからない二人って誰だ? いや、聞いても分からないかもしれないけど、一応な」


「アポットという男の子と、アニスという女の子です」


「ん? それってエリザベスさんの所の子ども達か?」


「おや、知ってましたか。ああそうでしたね。アポット達を隊長さんが助けたんでしたっけ」


 以外にも知っている子供たちが行方不明という事で、この件に関するゼニス大尉の関心は高くなった。本来ならハンザ中将の手勢による犯行だとの証拠を抑えるつもりだったが、こうとなっては話は別だ。捜査はアンリ大将が派遣した憲兵達に任せ、第1中隊はアポット達の捜索に全力を尽くすことにした。しかし、


「見つからんな……」


「そうですね。一体どういう事なんでしょう?」


 一昼夜探してもまるで見つからず、ゼニス大尉はボルトン少尉達と頭を抱えた。


 子供の足で行ける範囲は、全てくまなく捜索したはずなのに、手掛かりすら掴むことが出来ない。ここに何か妙な引っかかりをゼニス大尉は覚えた。


「もしかして、攫われたのか?」


「しかし、他の村人は全員殺されているんですよ。アポット達だけを生かして連れ去る理由なんて

……待てよ? いや、関係ないか……」


「どうした? ボルトン少尉、何か思い至る事があったら、何でも言ってみろ。怒らないから」


 何かを思いついたらしいボルトン少尉の様子を見て、その内容を口にするようにゼニス大尉は促した。見下の者は、確証の無い突拍子も無い事は言い出しづらい傾向にある。上司に怒られるからだ。実際、戦場において高位の指揮官になるほど判断事項は多くなる。その様な時に本人すら評価出来ない事を言われると、他の判断の邪魔になってしまうので、怒りだす者はかなり多い。しかしそうなると、実は重要な兆候であったような事象を部下が報告しなくなり、結果的に敗北してしまう事に繋がりかねない。なので、ゼニス大尉はどの様な些細な報告でも、積極的に聞くようにしている。


「はあ、それでは。実はアポットとアニスの父親は、かなり身分の高い人物だと噂されているんです」


「そうなのか? 戦死したと聞いているが、というか何で噂なんだ? 村の男なんだろう?」


「いえそれが、エリザベスさんは正式に結婚しておらず、その旦那さんも村で見た者はほとんどいないんですよ。素性を知っているのは、私の父くらいだと思いますよ」


 ボルトン少尉の父は、アスミタ村の村長であった。そのため、他の村人が知らない事を掌握しているし、その息子も概要は知っていたのだ。


「何でもその方は、旧王族に連なる高貴な血筋なのですが、色々と面倒な立場に置かれているらしく、それが解決してからエリザベスさん達を迎えに来る予定だったらしいのです」


「ん?」


 旧王族だとか、面倒な立場であるとか、ゼニス大尉に覚えのある属性を聞いて何か引っかかるものを感じた。


「あとアスミタ地方には、救世主ヒエロスの血を引くとされる家系が多いですが、エリザベスさんの家もその代表的な一つですね」


 そっちの方は特にゼニス大尉としてはあまり興味のない話だ。だが、父親の方の話に関して、ゼニス大尉の想像が正しかった場合、二つが結びつく事で話は予想以上に大きなものとなる。


 アポット達の行方は、この事件の鍵となる可能性が非常に高い。その様に判断したゼニス大尉は、調査の方向性をアポット達の捜索に定めることにした。

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