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第60話「目標、目撃者全員。撃て!」

 ゼニス大尉が以前アスミタ村の裏山でウラン鉱石を発見した時、それは精製されていないただのウラン鉱石だと思っていた。しかし、ゾブリの証言によるとそれは違っていたと言う事だった。


 実は一トンにもなろうかという大量のウランが隠されていたのであった。


「ジェシカ少尉、今の話に不審な点はないか?」


 念のため、ゼニス大尉はジェシカ少尉の知識に頼る事にする。ゾブリは本当の事を言っているつもりかもしれないが、本人も勘違いしている可能性がある。その点、科学的な知見のあるジェシカ少尉なら判別する事が可能だ。


「正しいと思います。あの場で実際に箱を開けて見た限りでは、精製されていないウラン鉱石でしたが、その奥に隠されていたなら、十分あり得る話です。それに、一般人はイエローケーキなどという用語を知らないはずです。それを聞いたと言う事は、この件には専門的な知識のある者が関わっています」


「そうか。ああ、話の腰を折って悪かったな。続けてくれ」


「おお。それで、イエローケーキの入った箱を運び出して、裏山を降りた時に村人達が帰って来たんだ」


 ゾブリ達が精製したウランの入った箱を荷馬車に積んで裏山を降りた時、ちょうどアスミタ村に帰還する途中の村人達に遭遇した。ゾブリは、具合の悪い事だと思ってはいたが、特に心配する事は無かった。


 ゾブリ達を率いている第1師団は、アスミタ村を含む地域を担任する部隊だ。アスミタ村に居た所で何の不思議も無い。警戒のために巡察の部隊を派遣しているのは当たり前の事だ。


 軽く挨拶をしてすれ違えば、何も不審に思われる事はないだろう。


 ただし、ゾブリは以前アスミタ村の住人を、奴隷の様に売買しようとした事があるため、顔を見られないようにした方が揉め事を避けるのには良い。それにしたって、見られたとしても決定的な影響はないはずであった。


 そう、何の問題も無いはずだった。


「殲滅用意、目標、目撃者全員。撃て!」


 ゾブリは一瞬、部隊を率いる士官が何を言っているのか分からなかった。だが、士官の命令で彼が元々連れていた兵士達が銃を構え、一斉に射撃を開始した時に何が起きているのか理解した。


 目の前に惨劇が繰り広げられていたのだ。


 村人たちは、何も警戒していなかった。当然だ。自国の兵士を警戒する者などいない。徴兵により軍のほとんどの兵士を構成しているため、兵士達は何処かの村の住人と言う事だ。つまり、同じ平民ばかりである。一部は旧貴族などもいるが、それは例外に過ぎない。


 その兵士達が何の警告も無しに銃を撃ってくるなど、どうして予想出来ようか。


 もちろん、戦場においては兵士達は気が立っているため、元はただの一般市民であったとしても暴力的な行いに出る傾向は強い。だが、そうだとしてもやる事は略奪や暴行位のものだ。いきなり殺しにかかるなど有り得ない。また、その様な蛮行に移る前は警告を発して、大人しく金や食料を差し出せば多少便宜を図ってやるようにある程度の交渉を行う。実力行使は効率が悪いからだ。


 それにも関わらず、警告なしの、しかも民間人の殺害と言う蛮行に及んだのである。


「くそっ、何しやがる! 止めやがれってんだ! ぐぅ……」


「君たち、止めたまえ! 僕たちは味方だぞ!」


 村人達に同行していた兵士達が制止に入るが、もちろん攻撃を中止する事は無い。


 盾になるようにして前に出た彼らは、次々と友軍のはずの兵の放つ凶弾に倒れていった。


 ゾブリは知らぬことだが、そうして血飛沫を上げて倒れていく者達は、ついこの前村人を守るために百倍以上の敵に対して一歩も引かぬ奮戦をした兵士、また、共和国の未来を担う事を義務付けられたエリートの若者など、いずれも戦争が終結したら明るい未来が待っている者達だった。


 だが、無情にも彼らは何の抵抗も出来ずに倒れていった。銃弾は、自らが命中する相手が何者であるのかなど一顧だにしないのである。


「ふざけんなこの野郎!」


 村人を守る者達の大半が倒れ、次は村人達に殺される順番が回って来た時だった。知らず知らずのうちにゾブリは隣にいた兵士のライフルを奪い、村人を撃とうとしていた兵士を撃ち殺していた。


 どうしてそんな事をしてしまったのか、ゾブリにも分からない。ただ自然と体が動いていたのだ。それは、ゾブリの部下達も同様だった。


「逃げろ! 俺達が戦ってる間に、逃げやがれ!」


 今度はゾブリ一味が村人達を守るようにして立ちはだかり、ライフルで応戦しながら村人と共に後退していく。


 だが、当然兵力の差は圧倒的だ。反撃を食らいあっという間にゾブリの部下も、村人の一部も射殺されていく。ゾブリも、銃弾を食らう事になる。


 このままだとゾブリ達の奮戦もむなしく、すぐに全滅してしまう事だろう。


「馬鹿者! あのお方に当たったらどうする! 射撃方向は注意しろ!」


 だが、何故か弾の雨が弱まった。士官が何かを部下に叱責していたのだが、ゾブリには何のことか意味は分からなかった。だが、逃亡するチャンスではある。


「そうして、散り散りになって逃げたって訳だ。ここに来た俺たち以外がどうなったかは分からない。すまんな」


「いや、教えてくれてありがとう」


 ここまで黙って聞いていたアンリ大将は、近くにいた副官に範囲を広げた捜索隊を追加で出すことを指示した。ここまでたどり着いた十数名以外にも、生き延びている者がいる可能性がある。


「ところで確認なんだが、お前達を指揮していた第1師団の士官って奴は、一体誰なんだ?」


「それが分からないんだ。俺はベネル市では顔役だから、師団の主要な奴の顔は分かるんだが、あいつの顔は見た事が無い。階級章も外されていたしな」


 怪しい事この上ない。後ろ暗い作戦なので、身元を隠す意図があるのだろう。そして、これでは、彼らが本当に共和国の軍人であったのかすらはっきりしない。実は帝国軍の兵士が共和国軍の軍服を着て裏工作をしていた可能性すらある。


 国際法違反であるが、その位の事は過去の戦争においてまかり通っている。


「でも、顔に特徴があったぜ。顎に大きなほくろがあって、鷲鼻で、それで右目が義眼なんだ。一度見れば絶対に忘れねえぞ」


「何だと? そいつはカザンじゃねえか。どうしてあの野郎が軍に?」


 ゼニス大尉の付き添って話を聞いていたゲオルグ少尉が反応した。


「知っているのか? ゲオルグ少尉」


「ああ、昔首都のスラム街で暴れていたギャング団の一つの頭でさぁ。旧貴族の奴らに尻尾振って、スラム街の再開発だとかいって弱い者をいじめやがるから、キンゾー親分と一緒に懲らしめてやったんだ。義眼なのも、俺がその時抉ってやったんだ」


「貴族との繋がりねえ」


 第1師団長のハンザ中将は、旧貴族で侯爵の家柄だった。その下でカザンなる裏社会の人間が後ろ暗い工作をしている。


 ゼニス大尉の頭の中で、何かが繋がって来たような気がした。

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