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第59話「イエローケーキを1トンばかし隠したんだ」

 軍医が言っていた通り、ゾブリはすぐに意識を取り戻した。裏社会でのし上がって来た生命力は、伊達ではないと言う事だろう。


 ゼニス大尉はすぐに聞き取りを行うことにした。ゾブリの容体はまだそれ程良くなったわけではないが、時間が惜しい。アスミタ村にはすで騎兵部隊が派遣されているが、一体何が有ったのかを調査するのは難しい。やはり、当事者であるゾブリの証言が必要なのだ。


 聞き取りは、ゼニス大尉の他にアンリ大将が行う他、第1中隊の小隊長であるゲオルグ少尉とジェシカ少尉も加わる。彼らの裏社会での経験や科学の知識が、今回の事件に関わっている可能性があると踏んだからだ。


「俺が、俺の組織ごと軍に招集されたって話は知っているか?」


「ああ、知っている。ゴッペルさんから聞いたからな。停戦が近いのに、妙な話だと思っていた。それに、お前達が招集された後、どこに行ったのかも分からなかったからな」


 ゾブリの証言が始まった。


 ゾブリ達の一味は、急遽軍の招集を受ける事になった。これは奇妙な話だと、ゾブリは思っていた。一応、表社会向けの会社を営んでいるゾブリはともかく、彼の部下の中には国民として登録されていない者、いわゆる「カテゴリー5」に該当する者も多い。それにも関わらず、全員を名指しで正確に招集してきたのだ。


 普通の「カテゴリー5」の招集は、スラム街で人狩りを行う様にして確保したり、犯罪を犯して逮捕された者が司法取引として軍に入れられる事が多いのだ。この点からして普通ではない。


 それに、ゾブリはベネル市の有力者にたっぷりと賄賂を贈っている。万が一にも軍に招集される恐れなど無かったはずなのにだ。しかも、招集された後新兵の基本的な訓練をする事なく、任務があると言って、第1師団の士官達に連れていかれたのである。


 だが、任務の場所についてゾブリは事態を理解した。そこは、アスミタ村の裏山で、かつてゾブリが帝国から密輸したある物を隠した場所だったからだ。つまり、今回の招集はそれに関わる事だったのだろう。


「その密輸したって物は、ウラン鉱石だな?」


「よく知ってるな。普通はそんな物の存在自体知らんぞ」


「偶然、アスミタ村の裏山でお前が隠したウラン鉱石を発見してな。それで知ったんだよ。坑道は爆破して塞いでしまったが」


「ああ、それで昔隠した時より、派手に崩れていたのか。おかげで難儀したぜ。掘り起こすのにはよ」


 ゾブリは話を続けた。


 ゾブリ達を連れてきた第1師団の士官は、かつてゾブリが密輸して埋めたウラン鉱石を見つける様に命令した。


 ゾブリは最初迷った。


 ゾブリが密輸して隠匿したのは事実である。何故それがばれているのか分からないが、間違いの無い事だ。何処に埋められているのか正確に教えれば、多少掘り返すのに時間を要しても、最終的には発見する事が出来る。


 しかし、ウラン鉱石を密輸して隠したのは、依頼人が居ての事だ。ゾブリは悪党であるが、悪党には悪党の誇りがある。例え教えるのを拒否して殺されたとしても、裏社会の人間として守らなければならない仁義がある。


 口が固い者にしか、密輸業者など務まらないのだ。


 そんな決意を固めたゾブリ一味であったが、代表者の士官は安心する様に言って来た。何を安心すれば良いのかゾブリは戸惑ったが、なんと、ゾブリの依頼人の取引相手が、この士官の上官であると言う事だった。当初はその発言を訝しんだのだったが、依頼人が帝国貴族のヴァストーク伯爵である事も知っていたし、ヴァストーク伯爵との取引に関する覚書も示して来た。


 これでは信じるより他に無い。


 覚書の内容によると、帝国領土ではウラン鉱石が産出されるため、ヴァストーク伯爵を含むある貴族の派閥はこれを集めていた。ウラン鉱石の加工により、極めて重大な研究をする事が出来るからである。だが、その研究はトスケール帝国皇帝の意に反する事であり、勅命によりウラン鉱石を放棄する事を迫られた。


 ヴァストーク伯爵はこれに反発し、ウラン鉱石を隠匿する事に決めたのである。そしてその場所は、帝国領土ではなくゴダール共和国領、それも彼の一族と縁があるアスミタ村にしたのだ。これには、帝国内の貴族だけでなく、共和国の旧貴族であるハンザ侯爵の協力も得る事になる。


「ハンザ侯爵? ハンザ中将の事か? やはり帝国に内通していたのか」


「いや、それだけでは内通していたとまでは言えん。ゴダールとトスケールは元々一つの国だったからな。だから貴族同士血縁関係にある者も多く、交流も多い。これは何も悪い事ではない。交流があるからこそ、これまでの歴史で両国に戦争は幾度もあったが、交流のある貴族たちが窓口となって交渉する事で戦争拡大を抑える事が出来たのだからな。それに、庶民の間でも交流は他国に比べて多い。革命前は戦争のある時期以外は国境の行き来も自由だったからな」


 旧貴族階級の出身であるアンリ大将が、ゼニス大尉の早合点を正した。確かに、他国の者と接触しただけで裏切り者呼ばわりするのは、健全な事とは言えない。


「続けるぜ。それで結局ウラン鉱石の回収に協力して坑道を掘り返すことになったんだ。多少時間はかかったが、奴らは他にも手勢を連れていた。工兵の専門家も大勢いて、思っていたよりも作業は早く進んだよ。それで、ウラン鉱石を隠した広間までたどり着いたんだ」


「俺達も、そこまで行った事があるぞ。まだ精製されてはいない危険度の低い物だったが、かなり大量のウラン鉱石が積まれていたな」


 かつてゼニス大尉はジェシカ少尉と坑道の奥まで辿り着いた。そこにはウラン鉱石の詰まった箱が、うず高く積まれていたのだ。


「精製されてないねぇ……」


「どうした? 何かあったか?」


「それは、ダミーとして置いておいたやつだ。実はその奥に隠し通路を作って、本命のブツを隠したんだ。精製済みのウランの粉末――イエローケーキとか言うそうだが、このイエローケーキを1トンばかし隠したんだ」

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