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第5話「撃てるもんなら撃ってみい!」

 ゲオルグ少尉は負傷して倒れたままのガストン二等兵に向かって、悠然と歩きだした。向かう先には銃口を幾つも並べた敵兵が待ち構えていると言うのに、全く動じる様子は無い。


「走らなくていいんでしょうか?」


 ジェシカ少尉は心配そうにゲオルグ少尉の様子を見守りながら、不安を口にした。


 確かに敵が射撃準備を整えているのだ。射撃機会はなるべく少なくした方が良いし、スピードがある方が命中確率も減少するのが道理だ。


「いや、これはこれで良いかもしれない。一人だけが堂々と近づいてきたせいで、敵は困惑して射撃の判断を迷っている。慌てて走り寄っていたら、反応してすぐに撃たれていたかもしれない」


 有効射程に入っても、ゲオルグ少尉は悠々と歩いていく。その剛胆さは戦記物に登場する英雄豪傑の様だ。その歩き方が武人というより、チンピラがよたつきながら歩いている様にしか見えないのが玉に瑕である。だが、その分ガンを飛ばして威圧効果が出ている。


「何見てさらすんじゃ、ぼけえ! 撃てるもんなら撃ってみい!」


 ガストン二等兵の所まであと少しと言う距離で、あろうことかゲオルグ少尉は敵を挑発してしまった。判断を迷っていた敵を刺激してしまう行為で、これは本来推奨されない。


 しかし、利点もあった。明確な命令の下に射撃せず、各人が思い思いに散発的な射撃を実施してしまったためか、一発もゲオルグ少尉に命中する事は無かった。もしも統制のとれた一斉射撃だったら、流石に一発くらい命中していただろう。


 そして、自分を狙って何発もの銃弾が飛んできても、ゲオルグ少尉に動じる所はまるでなかった。ゲオルグ少尉は元ギャングの幹部として、数多の修羅場をくぐって来たらしいが、これ程までとは予想していなかった。


 危険の総量で言えば、何万もの兵士が最新の兵器を駆使して衝突する戦場の方が、ギャングの抗争よりも確実に上と言えるだろう。だが、これだけのクソ度胸を見せる兵士はそうはいない。裏社会の抗争は、その密度が非常に濃いのかもしれないと、ゼニス大尉は思った。


「あ、アニキ……」


「おう。肩貸してやるから、お前も根性入れて歩きやがれ」


 ガストン二等兵の倒れている場所まで無事に到着したゲオルグ少尉は、その肩を抱き起すと第1中隊の待つ方向に向かい、再び歩き出す。


 銃を構えた敵兵など最早無視しているかの如き、堂々たる振る舞いで、怯えた様子など全く見られない。その勇気が伝染したのか、ガストン二等兵も怪我の痛みや死の恐怖など全く感じさせない。


 戦場において、勇気も臆病も、人から人へと伝わるのだ。


 そして、敵兵の何人かが銃弾を再装填して射撃したが、やはり散発的なものであり、全く命中しなかった。もちろん統制が取れていないとはいえ、すでに有効射程に入っている。命中してもなんらおかしくなかったのだが、天は勇者に味方するのかもしれない。


 結局何事もなかったかのように、ゲオルグ少尉はガストン二等兵を連れて戻って来た。ガストン二等兵の容体は安定しており、止血の応急処置をすれば何とかなりそうだった。


 トスケール帝国軍は追ってこない。負傷者を連れているので、追撃されたなら追いつかれたであろうが、そうならなかった。


 追撃しようとしても、急な坂を登る攻撃になるため、不利になると判断して止めたのかもしれない。


 もしかしたら、ゲオルグ少尉の蛮勇に毒気を抜かれるかあっけにとられて、追撃する気力を喪失したのかもしれない。ゼニス大尉には何となく後者の様な気がした。


 何にしても、これによって第1中隊は犠牲者無しで大きな戦果を上げる事に成功したのだ。これはゼニス大尉の指揮能力だけではない。「カテゴリー5」という蔑称で呼ばれていた兵士たちが、これまでの生活で培った力を発揮したものなのだ。


 特に各小隊長の能力は素晴らしく、普通の士官学校を出たばかりの新米将校など、足元にも及ばない力を示してくれた。


 第1小隊長のトム少尉は、野外で隠密に行う作戦の、計画から実行までの能力を


 第2小隊長のゲオルグ少尉は、卓越した勇気を


 第3小隊長のジェシカ少尉は、最新技術を取り入れた戦法を


 普通の部隊なら、この様な作戦は実行できなかったことだろう。


 はっきり言って各小隊長の人選は、まともに読み書きが出来るのがこいつら位しかいなかったために決定した事なのだが、予想を遥かに超える働きをしてくれた。


 これなら確実にこの戦争を生き延びて行ける。


 そう確信したゼニス大尉は、喜び勇みながら第1師団主力の待つ陣地へと戻って行った。この戦果をアンリ師団長に報告すれば、評価を改めてくれる事だろう。


 いや、攻撃に強いが、責任感が無いため防御には弱いと言う特性はまだ改善されていないだろうが、仲間内の結束の強さは今回の作戦で明らかになった。それを加味した上で、作戦を考えれば良い運用方法も見つかると言うものだ。


 アンリ中将は根っからの武人で、真っ当な軍人を好むため「カテゴリー5」の兵士たちは良く思っていないかも知れない。しかし、優れた戦術眼と指揮能力を持っているので、その点で間違いない評価をしてくれるだろう。


 そんな事を考えながら、出発した陣地に戻ったゼニス大尉を待っていたのは……何も無い、野営の跡だけがのこる広場であった。

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